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クリスマスファンタジー?

作者: 新竹芳

クリスマスの日の自分の思い出と空想を織り交ぜて書かせてもらいました。

少しでも楽しんで頂けると、嬉しいです。

 目の前に大きなもみの木があった。

 そこにLED電飾がやたら煌びやかに点滅している。


 枝には数多くのオーナメントが飾られ、キラキラ輝いている。

 その輝きは、疲れてこの駅の構内のベンチに腰掛ける私にとっては、忘れていた幸せな過去を呼び戻しているようでもあった。


 もう遥か昔の話だ。

 まだうちの家の飲食業がそれほど流行らなかった頃、それでもお袋は小さな作り物のクリスマスツリーを狭い部屋に飾っていた。

 その頃は豆電球だったが、やはりチカチカと綺麗にに点滅し、私と弟はその光にはしゃいでいた。

 母と一緒にそんなに多くないオーナメントを適当な枝にぶら下げ、綿をちぎって雪のような感じで枝に置いたりした。

 七面鳥など出るわけがないが、骨付きのもも肉を焼いたものが食卓に並べられ、食後にはケーキが出たりした。

 親父はあんまりその食卓に並んだものを好きではなさそうだったが、それでも私達兄弟がはしゃいでいるのを嬉しそうにしていた。


 こんなことを想うのも、クリスマスが近いからだろう。

 会社で嫌な取引先と打ち合わせをして、でかい荷物を背中に背負ったやつの多い通勤電車で帰ってきたところだ。

 座れなかったという事もあって、目についたベンチについ座ってしまった。


 そして顔をあげた目の前に、大きなクリスマスツリーがあった。


 今日はこの冬一番の寒気団が来るとかで、日本海岸側は大荒れ。

 関東圏のこちらも、最低温度が氷点下になる予想だ。

 寒いわけだ。


 この巨大なクリスマスツリーは駅構内にあるとはいえ、暖房が行き届いた室内という訳ではない。

 寒さがじっと座ってるからだから温度を奪っていくようだ。


 こんな時、「マッチ売りの少女」はマッチを擦って暖を取りつつ、幸せは夢を見るのだろうな。


 ふとそんなことを想った。

 このところ、家庭でも仕事場でもトラブルが多かった。

 仕事のトラブルはない方が珍しいが、家庭はこの1年くらいで激変した。

 何が悪かったのか?

 自分なりに懸命に働いて、子供たちの未来を案じてたつもりなのに。


 考えてもしょうがない。

 どのみち自分の将来は自分の物。

 自分で考える年ごろではあるし、だからこそ親への反抗が自立への一歩だと思って、あまり注意はしないようにしていた。


 だが、それが悪かったようだ。

 息子にではない。

 妻が情緒不安定になった。


 本当に長男の今の行動が一過性で暫くすれば、しっかりと自分のことを、将来を考えるに違いない。

 妻にはそう言って安心させようと言ってはいる。

 だが、その言葉を自分が信じていない。

 それでも息子はまだ生きているし、見ている限り自殺の線は薄いとは思ってるが、油断はできない。


 生きているだけで良し。


 まずはそのことを期待の最低レベルにする。

 妻も頭では理解している。

 それでも心が、感情がまだ納得してないようで、たまに泣きじゃくることがある。

 私にとっては明るかった妻のそんな姿を見ることになるとは思わなかった。


 私は疲れていた。

 妻にはそんな様子を見せないように努めていたが、こういう事からも家に帰ることに苦痛を感じるとは思いもしなかった。

 妻は私にはもったいないくらいの女性だ。

 だが、大それた望みではなかったが、理想の家族があったようだ。

 それが崩れて、私に縋ってきている。

 最初の家は何とか妻を支えようと思った。

 いや、今でも思っている。

 それは間違いないのだが……。


 大きなため息をつきながら、クリスマスツリーを見た。

 そのクリスマスツリーが、サンタクロースを連想させた。


 昔、私が小学校低学年くらいの時だった。


 ある玩具が欲しくてサンタに頼んだことがあった。

 クリスマスイブの夕方、風呂に入っていた私にお袋が大きな声で「サンタさん来たよ!」と言ってきた。

 私は慌てて風呂から出て、服を懸命に着て玄関に飛び出すとプレゼントの袋があった。

 破るくらいの勢いでその包みを開けると、そこには確かに頼んだ玩具があった。


「サンタさん、いつ来たの?なんで留めておいてくれなかったの?」

「それは、おめえ、サンタさんは配るのが忙しんだ。すぐに次の家に行ったに決まってんだろう。」


 親父が酒を飲みながらそんなことを言ってきた。

 私は慌てて家を飛び出し、あたりを見渡す。

 どこにもいなかった。


 よく考えれば煙突がなくてもサンタさん来てくれるかな?とか言って親を困らせてた私だ。

 その復讐でもあったのかもしれない。

 要はサンタクロースが来てはいない。

 ただプレゼント用にラッピングした私の欲しいおもちゃを、私が風呂に入った隙に玄関に置いて、「サンタが来た」と言っただけ。

 まんまと騙されたわけだ。


 小学校も高学年にもなれば、サンタクロースがわざわざ1軒1軒回る筈もない、と分かってしまっていた。

 親の飲食業もそこそこ賑わうようになり、小学生ながら店を手伝わされた。

 クリスマスイブの閉店後にプレゼントを渡されるのが恒例となった。

 高校になるとプレゼントでなく現金になった。

 何だ、これ。ただのバイトじゃねえか。


 そう思ったもんだ。実際友達が学校に隠れてバイトをする中、堂々と家の手伝いで金を貰っていた。

 ちなみにバイトを他の所で死体と言ったら、「家の手伝いをしろ」と親父に言われた。


 彼女がいた時もあったが、不思議とクリスマスは一人だった。


 見合いで妻と知り合って初めて世に言うクリスマスというモノを味わうまでには結構時間が空いた。


 唐突に結婚後、子供が生まれた時のクリスマスを思い出した。


 妻の母、つまり私からしたら義母にあたるのだが、結構イベントが好きで、わざわざ私と義母のサンタのコスチュームを買ってきた。

 息子にその恰好でプレゼントを渡すというモノだった。

 私は正直、家の中でも恥ずかしかったが、義母はノリノリだった。


 で、クリスマスプレゼント持って、妻がケーキを食べさせていた息子の前にサンタ二人が登場。

「「メリークリスマス‼」」

 そしてラッピングしたプレゼントを渡そうとした。


 息子が変な顔で私たち二人を見つめていた。

 義母がプレゼントを息子に渡すように差し伸べた。


 その瞬間、息子が泣きだした。

 大号泣だった。


 どうやらサンタのコスプレが怖かったらしい。

 後が大変だった。


 自分の中に幸せだった思い出が沸き上がってくる。


 次男が生まれて数年後、4人で寝ている寝室に、息子が寝たのを確認してプレゼントを分かるように隠した。


 次の朝。

 クリスマスプレゼントが来てるよ、と言って妻が二人を起こした。

 次男のプレゼントは小さいので枕元の壁にかかっている大きな靴下に入ってる。

 だが長男のプレゼントは大きいので、ベッドの枕もとの下に半分隠すように置いておいた。

 次男はすぐに気付き、靴下を取り、中を確認。


「うわあ~、いっぱいはいってるう~。」


 大喜びだ。

 別に大したものが入ってるわけではなく、ミニカーが4つほど。


「これ、みんな貰っちゃって、良いの?」


 そんな風に笑顔で妻に聞いている。

 妻はコクリと頷いている。


 が…。

 長男はベッド周りを懸命に探しているのだが、見つけられない。

 ベッドの頭の方には背もたれがあって、確かにわかりにくいんだが、そこを見ようとはしない。


「僕にはサンタさん、来てくれなかったあ~。」


 泣き出してしまった。

 これには私も妻も大慌て。

 何とか自分で探してもらいたかったのだが、仕方ない。

 私は長男の手を取りベッドを回り込むようにしてプレゼントを見せた。


 その時の顔と言ったら。

 何故ビデオをまわさなかったのか、と後で自分を責めた。

 それくらい、いい笑顔になったのだ。

 この時の彼へのプレゼントははしご車のラジコン。

 結構大きいものだった。

 とても靴下には入らなかった。


 自然と自分の口元が緩む。

 そう、本当に幸せの日々だった。


 家を引っ越し、今住んでいる家に移った。

 ここは両親が飲食業をしていた場所だが、親父が死んで、もう3年前に廃業していた。

 その時に1階の店は住居に作り変えてあったのだが、2階の一部を人に貸していた。


 この時には長男は小学校高学年、次男は2年生だった。

 寝室は狭い中に夫婦のベッドと簡易型シングルベッドを置いていた。

 だがじきにその借主は出ていってくれて、クリスマス前にベッドを買い、お袋と妻と3人でその部屋を改装した。


 妻が、次男に子供部屋が欲しいか尋ねたことがあった。


「ママと一緒に寝れないから僕はいらない。」


 妻はその言葉にかなり有頂天になった。

 非常に喜んだのだが…。


 クリスマスイブに、その子供部屋を二人の息子に見せると、これまたいい笑顔で喜んだ。

 その日から次男は妻の所に来ることはなくなった。

 落ち込みようは相当なもので、飼い犬のペロを買うまで引きずっていたようだ。


 気づいたら私の頬を涙が伝っていた。

 そう、私たちは幸せだった。なのに……。


「生きていて、健康。それで充分だろう、修。」


 肩を叩かれ、そう声を掛けられた。

 いつの間にか、横に親父の優しい顔があった。


「そう、それはそうなんだけど。でも妻が…。」

「よっちゃんもすぐにわかるよ。修の嫁さんだ。お前の言ってることもよく解るはずだ。さあ、行くぞ、修。あっちの世界も、まあいいもんだよ。」


 そうだ、親父はもう9年前に亡くなったんだ。

 じゃあ、今の私は。


 急に重かった体が軽くなった。

 そして親父に誘われるように宙に浮いていく。

 ああ、そういうことか。妙に納得できた。


 私は糖尿病と高脂血症、高血圧、ぜんそくの薬を飲んでいる。

 さらに会社の重圧と家出の息子の反抗期、妻の情緒不安定が過重なストレスもあった。

 もうかなり前から体が悲鳴を上げていることを、私は騙しだましやってきたのだ。


 親父はすい臓がんで亡くなった。

 お袋は今は元気だが、乳がんを患っていたことがある。

 その母、つまり私の祖母も母の妹、おばも乳がんだった。いわゆる癌家系だ。


 今の私はそこまでの激痛はなかったから、癌ではないのだろうが、きっと脳に何らかの障害が出たのだろう。


 まだ母は元気だ。


「ああ、母さんとの約束、守れなかったな。」


 私は一言、呟いた。


 その言葉に前を行く親父が振り向いた。


「約束?……ああ。」


 そう言うとくるりと俺に向き合った。


「母さんとの約束は守らんと、ダメじゃないか。」


 親父はそう言うと、俺を突き飛ばした。

 俺はそのまま、落ちた。







 目が覚めると、そこに妻と息子の二人、お袋の顔が見えた。

 皆泣いていた。


「これで安心ですね。何とか間に合ったようだ。」


 そんな家族を押しのけ白衣の男性が俺に言った。


「応急処置がうまくいって良かった。」


 何を言われてるか分からなかった。

 あれ、親父のもとに飛び立ったのではなかったか?


「あなた、駅のベンチで倒れてるところを、駅員さんがAEDで助けてくれたのよ。それでもこの一両日は危なかったのだから!」


 妻がそう泣きじゃくりながら言い、状況は把握できた。

 脳ではなく心臓だったか。


「もう命には別条ないでしょうが、その体重は落とすべきですよ。まあ、ここにいたら嫌でも落ちるでしょうが。」


 医師らしき男がそのままこの病室を後にした。


 デジタル時計には今日が12月25日であることを指していた。


「悪かったな、みんな。心配させて。」

「し、心配してなかったよ、お、俺は。どうせ、助かると思ったし。」


 半引きこもりのような長男がそう言いながら、それでも涙を流している姿に、やっぱり大丈夫そうだ、と安心できた。

 もっとも他の者はそんなこと考えてはいなかっただろうが。


 ああ、でも、やっぱり……。


 私は幸せなのだ。「勝ち組」とか「負け組」とかどうでもいい。

 死ぬときに自分の人生は幸せだったな、と思えたらいいな。

 昔そんなことを自分で言ったことを思い出した。


「修、お前は約束を守ると信じてたから。」


 なんで親父はお袋と私の約束を知ってたんだろう。

 でなければ、あの時突飛ばしたりしなかっただろう。

 お袋との約束は、親父が死んでからしたモノのなのだから。








「約束するよ、母さん。俺は、母さんより早くは死なないから。」



約束って、大事ですよね。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

心に少しでも引っ掛かることが出来たら幸いです。

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