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激闘!ラブホテル②

 マスタールームにいるアイトはテレビモニターに(物理的に)齧り付いて待ち望んでいた。

 特大の面白イベントの発生を。

 今日も大人しくて礼儀正しい客ばかりでフロントは平和である。

 しかし。


 そんな平和をぶち壊す存在がラブホテル内に侵入して来た。


 剣を構えて入口のドアを開けた赤髪の男は入ってくるなり。


『君達はこのダンジョンの主に騙されている!俺が来たからには!このCランク冒険者でダンジョンダイバーのブラッド・メコットが来たからにはもう安心だ!』


 フロントと例のパネル前にいた客達は男を一瞥だけして。

 特に何の感想も抱かずに部屋選びへと意識を戻した。

 いや、正確に言うならば“何だこの不審者は”と全員が思ったとだけは加えておこう。


 エントランスの物々しい雰囲気に蒼剣の誓いが4人揃って現れた。

 彼らはラブホテルの用心棒をしていて、客やスタッフに対して迷惑行為を行う者に対処する仕事がある。

 だからこれは彼らの職務であるのだが。


 ナニかをしている最中だったのか4人とも明らかに不機嫌である。


 蒼剣の誓いに取り囲まれて赤髪の男はやや目を泳がせて。

 ちょっと一旦出直そうかと逃走を図ろうとしたのだが。


「面白イベントキタァァァァァアア!」


 こんなに面白そうな奴を見逃すアイトではなかった。

 赤髪の男はとある部屋へと転移させられ。

 蒼剣の面々は一つ大きく頷いて自室へと下がっていったのであった。



「くっ!まさか入口から転移トラップが仕掛けられているとは!なんて卑劣で悪辣なダンジョンなんだ!しかも人間の実力者を洗脳してモンスター代わりに使っているだと!」


 全てが的外れであるが。

 ブラッドは半球状で、その中心にポツリと一つしか灯りの無い場所へと転移させられた。


「出口は、、、無いな。だったらこれで!」


 ブラッドは壁面を手で触れながら一周回って。

 出口が無いと判断したら腰に下げた剣を抜き。


「せあ!」


 壁に向かって横薙ぎに剣を振るい。


 チーーーーーーン


 とても素敵な仏具の音が鳴った。

 アイトの前世では仏壇の前に置かれがちだったおりんの音色である。


「はあ!」


 チーーーーーーン


「でりゃ!」


 チーーーーーーン


「せあ!はっ!」


 チンチーーーーーーン


 何度切ってもおりんの音が鳴るばかりで手応えすらも感じない。


「くそぉ!これならどうだ!」


 剣が効かないのならばと、ついさっき無実の男をぶん殴った自慢の拳で殴りつけ。


 ボォォォォォォォン


 とても素敵な梵鐘の音が鳴った。

 梵鐘とは年末に寺で鳴らされがちなあの鐘である。

 あの鐘を鳴らすのはブラッドである。


「食らえ!」


 ボォォォォォォォン


「おらぁ!」


 ボォォォォォォォン


「らぁ!らぁ!」


 ボンボォォォォォォォン


「くそぉぉぉ!」


 あまりの手応えの無さに怒ったブラッドが硬貨を投げつけると。


 カァァァァァァァ


 オールドスクールなコントや時代劇で使われがちなヴィブラスラップの音が鳴った。


 手が届かない場所から脱出出来ないかと上に目掛けて硬貨を投げ付けると。


 曲者じゃ!出会え出会えぇぇ!


 ブラッドの良く知らない謎の言葉が流れたのであった。



「わっはっは!良い仕事してますね!」


 ブラッドを特別な仕掛けのある部屋へと送り込み。

 その様子をマスタールームで覗いているアイトが高笑いを上げた。

 良い仕事とはアイトの狙い通りに動いてくれているブラッドについても言っているのだが。

 8割以上は自画自賛である。


「流石はマスターです」


 そしてすかさずヨイショするヒショ。

 ヒショの前にはぐい呑みが用意されているが、一升瓶に口を付けて酒を飲むのでぐい吞みは一生使いそうにない。


「しかしちょっと諦めるのが早いよな。もっと粘ってくれればオーガズを呼んでダンスパーティーが開催出来たのに」


「私が行ってピンボールでもやりましょうか?」


「わっはっは!滅茶苦茶手加減すればいけそうだけど、いける?」


「霧散しますね」


「じゃあ無しで。ここは穏便にラブホ沼に引き摺り込んでやるとしよう」


 アイトはニイと口角を上げて宣言し。

 物凄く楽しそうに次の一手を打つ事にした。



「何だこの悪辣なダンジョンは。手応えが無さ過ぎる」

 

 ブラッドは途方に暮れていた。

 ダンジョンに罠は付き物だ。

 下が針山の落とし穴で串刺しになるとか。

 天井が迫って来て圧し潰されるとか。

 坂の上からおじいさんが落としたタマタマが転がって来てねずみが美味しく頂いたとか。

 ダンジョンダイバーをしていれば色々な罠に出会い心がときめく事なんて幾らだってある。

 まあときめくと言うよりも心の臓がバックバクでトゥンクどころの話ではないのだが。


「ただ閉じ込めるだけの罠なんて。まさか!このまま俺が餓死するまで外に出さないつもりか!そんなのって、、、そんなのってないよ!俺は絶対に負けない!兄さんの敵を討ってやる!うおぉぉぉぉぉ!」


 チーーーーーーン


 ボォォォォォォォン


 カァァァァァァァ


 曲者じゃ!出会え出会えぇぇ!


 ブラッドは怒りに任せて壁面や天井を攻撃する。


 気合いの乗った連撃。

 鳴り響く謎の音。

 目減りしていく硬貨。


 天井や床が部屋の使用料を徴収するかの如く硬貨を吸収していく。


 ダンジョンに潜り、何もない所で転んで頭を打って死亡した兄の無念も乗せて。

 そもそも別のダンジョンなので完全に逆恨みでしかない思いを乗せて。

 あと単純に死にたくないので。

 ブラッドの激しい連撃は続き。


 遂に手持ちの硬貨が尽きた。


「くそぉぉぉ!俺の金がぁぁぁ!」


 そもそも硬貨を投げ続けた自分の選択がその状況を生んだのだが。

 ブラッドは有り金を全て奪われて怒り狂い。

 猛烈な攻撃を続ける。


 その鬼気迫る攻撃はまるで、、、あの、、、えっと、、、怒り狂った、、、冒険者の、、、青年が、、、剣とか拳で、、、斬ったり殴ったり、、、している、、、そんな感じだ。

 そんな感じのアレだ。


 そんな感じのアレが10分、20分、30分と続き。


「はぁ。はぁ。はぁ」


 腰を振っている訳でも無いのにブラッドの息が上がった頃。

 半球状の部屋に漸く変化が起こった。


 ブゥンと聞き馴染みのない音が鳴ったかと思うと。

 さっきまで壁だった所に彫りの浅い顔の女が現れた。

 それも一人では無い。

 ブラッドの見ている範囲だけでも10人はいて。

 ぐるりと周りを見回せば何人もの女がいる。

 しかも全員が殆んど裸みたいな薄着である。


「何だ、、、これは」


 ブラッドは息を呑んだ。

 これだけの女達が気配も無くいきなり現れた驚きもそうだが。


「全員胸がでかいだと!?」


 全員の胸がでかい。

 それがあまりにも衝撃的だった。

 外の世界ではでかい胸が好きな男は多いが。

 ブラッドも例に漏れずでかい胸が好きだった。


「はぁ!?」


 更にブラッドを驚愕させる事態が起こる。

 それは。


 女達が薄着の服を脱いで全員が豊かな胸を露わにしたのである。


 ドカンと豊満なおっぱい。

 大きくて、やや離れているおっぱい。

 大きいのに綺麗な球形を保っているおっぱい。

 境目が曖昧に色付いたおっぱい。

 大きいのに何故か輪っかが小さな不自然で謎なおっぱい。


 360度、何処を見てもおっぱい。

 こんなのっておっぱい天国である。


 ブラッドはおっぱいに触れようとして手を伸ばすが。

 触れたのは脂肪の塊とも言える柔肉の感触ではなく。

 半球状になっている無機質な壁の感触だった。


 そこでブラッドは、この胸達が幻影なのだと気付いた。


「くそぉぉぉ!なんて卑劣な!」


 目の前に理想のおっぱいがある。

 それなのにおっぱいには触れる事が出来ない。

 こんなにも辛い拷問が存在するだろうか。

 ブラッドは思わず血涙を流した。

 比喩ではなくてガチである。


 更に女達は下も脱いで生まれたままの姿になると。

 何処からともなく大勢の男が現れて。


「「「「「あっ♡あっ♡あっ♡あぁんっ♡」」」」」


 ナニかがおっぱじまった。

 360度、何処を見てもおっぱじまっている。

 滅茶苦茶におっぱじまっている。

 目の前で繰り広げられる激しい肉弾戦に。


「俺は!こんな卑劣な罠には負けない!絶対に負けないぞ!見ていろよダンジョンマスター!俺は必ずここから脱出し!兄の敵を討ってやるからな!うおぉぉぉぉぉ!」


 ブラッドはパンツを下ろし。

 壮絶なる死闘を繰り広げ。


 見事な赤玉の雨を降らせたのであった。


 そしてブラッドはラブホテルから奇跡の脱出を果たし。


「明日からラブホテルに通う為に頑張って働くぞ!」


 こうして休息宿ラブホテルは一人の優秀な一人遊びプレイヤーを常連に加えたのであった。

お読み頂きありがとうございます。

もし【面白い】【続きが読みたい】と思ったらブックマーク、評価お願いします。

作者のモチベーションを上げるなら数字が一番だって昔どこかの偉人が言ってた気がする。


カクヨム先行で公開していますので気になる方はこちらも是非。

https://kakuyomu.jp/works/16817330665881599043

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↑ これを押して貰えるとと少しだけ強くなれたような気がする。
★★★★★ くれたら嬉しくて泣いちゃうかも
ブックマークよろしくお願いしますぅぅ!
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