商人娘とその恋人は愛の巣をつくりたい③
「わっはっは!タスケ君よ!俺のワンペアに勝てるかな?」
「ツーペアです」
「ぐはぁぁ!まさか俺のワンペアが負けるとはぁぁ!」
最近アイトがノリで作ったカジノ客室にて。
アイトがディーラーをしてタスケとポーカーで遊んでいた。
ディーラーとは言っても本格的なルールを把握している訳ではないので、修学旅行の移動中にやるノリのポーカーである。
それにしても何故ワンペアであんなにも自信満々になれるのか。
アイトはある意味不思議ちゃんである。
「ところで最近タスケ君の娘ちゃん見ないけど元気にしてるの?」
「それがですねぇ」
タスケは一つ大きな溜息を吐いて。
「娘と恋仲になっていた従業員がヤーサンに残ると言って娘を連れて独立しました」
「わっはっは!新手の駆け落ちかい!」
アイトの言う通りである。
先日タスケの妻であるバルバラとヤーサンのテーラ商会で働いていた従業員がエライマンへと到着した。
それに伴ってエライマンの領主フォルカーに口利きして貰って手に入れた店舗に引っ越しをしたのだが。
一行の中に娘のメアリーの姿はなかった。
しかも娘だけでなく従業員の身で娘を誑かしたエリックもいなかったのだ。
タスケは途轍もなく嫌な予感がしてバルバラに訊ねた。
「あれ?え?えーっと。ん?メアリーは?メアリーが。いないけれど。どうしたんだい?メアリーがいないけれど。ついでに奴もいないけれど。エリィィィック!何をする気だエリィィィック!娘を傷物にしたら承知せんぞエリィィィック!」
と完璧に平静を装って訊ねて。
「独立するって言って残ったけど、だいじょぶだいじょぶ」
と尋常じゃなく軽い感じで返されて。
「だいじょばない!そんなの全然だいじょばない!」
外の世界で“だいじょばない”という新語が誕生したのであった。
アイト基準だと2万周回って、しっかり遅れているのだが。
「妻には何か考えがあるみたいなんですけどね。私はもう心配で心配で」
下を向き、首を振って嘆いたタスケ。
「タスケ君よ。大丈夫だ。どうせ次会う時にはお腹の中に赤ちゃんが出来ているから。何も心配は無い」
「うわぁぁぁああ!私の可愛いメアリーがぁぁ!あんな男にぃぃ!嫌だ嫌だぁぁ!」
アイトが煽ったせいで玩具を買って貰えない駄々っ子の様に床を転がるタスケ。
何時もの冷静な商人のイメージは完全に霧散している。
そんなタスケを見て不憫に思ったアイトは。
「タスケ君よ大丈夫だ」
床を転がるタスケの肩を、ゴロンがアイト側に来たタイミングを見計らって叩き。
タスケは動きを止めてとても穏やかな表情をするアイトを見上げた。
どうやら自分を救済する素晴らしいお言葉が頂けるようだとタスケは確信して。
「もう手遅れだからアキラメロン」
「ぷひゃぁぁぁああ!」
「わっはっは!タスケ君も良いリアクションをするじゃないか!今度熱々おでん早食い競争やろうぜ!うちからは代表者にスミス君を立てて、フォルカー君も呼ぼう!」
「素晴らしいアイデアですマスター」
タスケはアイトの言葉でぶっ壊れて首が“踊る花の玩具”じみた動きを始めて。
ラブホテルの食事メニューには熱々おでんが追加されたのであった。
その後ヒショが一升瓶を片手におでんを食べたのは言うまでもない。
「その、、、あんな事になってすまなかった。俺の見通しが甘かったよ」
「私はエリックと一緒にいられるなら何処へだってついて行くよ」
「ありがとう」
エリックとメアリーはヤーサンから馬車でエライマンへと向かっていた。
テーラ商会で使っていた馬車は全てバルバラ達が持って行ってしまったので二人が乗っているのは乗合馬車である。
エリックは過去に何度も乗った事のある乗合馬車だが、幼い頃から家に馬車のあったメアリーは恐らく初めて乗るのだろう。
乗合馬車の多くは荷馬車に乗客が乗り込んで地べたに座るのが普通だ。
馬車なので床と表現すべきなのだろうが、土足で上がりこむので土で汚れているし頑丈さ重視の硬い木で出来ているので地べたと言った方が正しいだろう。
エリックは腰を痛そうにしているメアリーの腰を擦り。
更に痛そうな尻を擦る。
メアリーもエリックの尻を擦って尻擦り合戦の様相を呈して来て。
他の乗客に延々と白い目を向けられ続けるのであった。
ヤーサンからエライマンまで一日では着かないので、夜は宿に泊まったが二人は一線は越えていない。
エリックはエライマンに着いたらタスケとバルバラに頭を下げて、もう一度テーラ商会で働かせて貰うつもりだ。
情けない話だが、本当に見通しが甘過ぎたのだ。
メアリーとの結婚は遠のいただろうが、これからテーラ商会の仕事に邁進してタスケとバルバラに必ず認めて貰うつもりである。
だが、それでも。
「一発ヤリてぇなぁ」
ボソッと零れたエリックの本音。
それをメアリーは聞き逃さなかった。
タイミング良く、馬車は間もなくエライマンに到着する。
そしてメアリーの目線の先には見慣れたピンク色の塔が建っていた。
そこでメアリーは御者に声をかけ。
「ここで降ります!」
エリックの手を引いてラブホテルへと向かったのであった。
「お?これってタスケ君の娘ちゃんじゃね?」
タスケが帰ったのでマスタールームのテレビモニターに齧り付いていたアイト。
物理的に。
映っているのはフロントの様子だが、入口から険しい表情で入って来たのはタスケの娘メアリーだった。
メアリーに手を引かれて足を縺れさせ、盛大に転んだ男は見た事が無い。
「ほう、これがタスケ君の仇敵エリィィィック!か」
仇敵ではないし、別にタスケと同じテンションで呼び方を再現する必要は無いのだが。
そう言えばタスケはエリィィィック!とは言ったが普通にエリックとは言っていない。
つまりアイトはメアリーの恋人をエリィィィック!として認識しているのだ。
これに関しては勘違いしてしまうのもやむを得ないだろう。
「これがエリィィィック!と言う男ですか」
ヒショも誤認しているし。
ちょっとタスケが説明不足だったと言わざるを得ない。
そこまで説明してあげないと分からない。
そっちの方が面白ければ分かろうとしない子達なのだ。
「うちに来たって事はそういう事だよな?」
「そういう事でしょうね」
アイトが見る限りメアリーはまだ破瓜られていない。
しかし破瓜られるのは時間の問題だろう。
「仕方が無いな。タスケ君を助けると思ってアレを作ってあげるとするか。タスケ君を助けると思って」
「流石はマスター。今日も駄洒落がキレキレです」
アイトはヒショに鈍ら駄洒落を褒められつつ。
あんまり嬉しい気持ちにはならず。
集中して。
集中して。
集中して。
思い描いたイメージを具現化していく。
アイトはアレを幾度となく作ろうとして、何度も失敗を重ねて来たのだ。
それほどに仕組みが複雑で、作るのが難しい物なのだ。
そもそも“いらね”って思ってる派なのでどうしても雑念が入ってしまい、正確でリアルなイメージにノイズが入る。
しかし、外の世界に出来た弄りがいのあるお友達の為にアイトは超えられないと思っていた壁をぶち壊して。
前世の人類の叡智の結晶である0.01㎜のコンドームを客室に用意したのであった。
「ランクEの部屋をお願いします」
メアリーの目に例のパネルは入らない。
一直線に受付で借りる部屋を申し込み。
エリックを部屋へと連れ込んだ。
「ラブホテルに来たのは初めてでしょう?まずは一緒にお風呂に入るのよ」
そんなルールはどの説明書にも書かれていないのだが。
メアリーはエリックを脱衣所に押し込んで服を脱がせた。
エリックは嫌がる筈も無く、大人しく下着まで下ろされてナニかの肌を晒す。
粘膜は晒していない。
完璧に隠れている。
エリックをすっぽんぽんにしたメアリーは5秒で全裸になってエリックを風呂場に入れた。
ラブホテルの脱衣最速記録には及ばないが、中々の好記録である。
「お背中流しますね」
何故だろうか。
その言葉がそこはかとなくいやらしさを感じさせ。
ナニとは言わないがエリックの体がギンッ!と反応した。
言ってもメアリーの裸は昔から、体を拭く所を覗いているので見慣れているのだ。
しかし今回はラブホテルという特殊なシチュエーションによってナニとは言わないが反応してしまった。
これではエリックのエリックとメアリーのメアリーがジョインするのも時間の問題だろう。
「駄、、、駄目だぞメアリー。そんな所を触られたら」
「イイじゃない。出しちゃいなさいよ」
エリックはエリックのエリックをナニかとナニナニされて迸る熱い情熱を吐き出した。
ああ、もうこれは終わりだ。
俺は今日愛する女に食われるんだ。
エリックはそう悟りを開き。
逆に無の境地へと至って風呂場でのイチャコラを乗り越えたのであった。
そしてバスローブに着替えて部屋に移動すると、テーブルの上にピカピカと光る札が置かれていて。
『エロエロしても妊娠しない魔法のアイテム!ゼロゼロワンお試しキャンペーン中!』
と大きな文字で書かれていた。
エリックはその札にある説明も読み込み。
意気揚々とエリックのエリックに装着した。
これがあれば婚前の妊娠を回避して幾らだってメアリーとまぐわえる!
エリックはメアリーをベッドへ押し倒した。
元よりラブホテルに連れ込まれた時点で我慢など出来る筈が無かったのだ。
さっきまでの自分であったなら強い罪悪感に苛まれながら、それでも愛するメアリーとまぐわっていただろう。
それがどうだ。
今はこんなにも自信を持って、胸を張ってメアリーとまぐわえる!
神様ダンジョンマスター様ありがとう!
エリックはラブホテルの主に感謝の祈りを捧げた。
メアリーは急に積極的になったエリックに面食らっていた。
まさかエリックの方から求められるだなんて思っていなかったからだ。
テーナ商会の執務室ではイチャコラしまくって唇が膨れ上がるほど接吻をしていたが。
それでもエリックが体を求める事は無かったからだ。
エリックは父であるタスケに気を使っている。
子作りは結婚をしてからと心に決めている様子だった。
そんな誠実なエリックをメアリーは好ましく思い、同時に寂しくも思った。
しかし今はこんなにも自分を求めている。
魔物の様な鋭い目をして体の一部をギンギンに固くして、腕力で自分を押さえ付けて。
まるで自分を犯そうとする男の様に見えるが、愛する男からそんな風に求められるのは心の底から嬉しかった。
だから。
「生でした方が気持ち良いわよ?」
「あっ、、、」
ラブホテルを後にしたエリックとメアリーはエライマンの街に移転したテーラ商会の本店を訪れた。
ヤーサンの時よりも更に立地が良く、立派な店を構えている。
会う気は無いと門前払いされそうになったが、エリックはどうにかしてタスケとの話し合いの場を設けて貰い。
「すみませんでした!これからは心を入れ替えてテーラ商会の為に心血を注いで働きます!もう一度、俺をここで働かせて下さい!」
膝を立てたまま地面に頭を擦り付ける新感覚の土下立ちを披露して。
「エリックがこんなに謝ってるのに許してくれないなんて。パパ大っっっ嫌い!」
メアリーのハードパンチに膝から崩れ落ちたタスケは表面上だけエリックを許し。
今一度下働きから始めるという事でテーラ商会に迎え入れたのであった。
怒り狂ったタスケが剣を手にエリックの部屋へと怒鳴り込むのは、これから二ヶ月後の事である。
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