表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/74

休息宿ラブホテル、エライマン伯爵領に爆誕する

 とある日の早朝。

 ランドソープ王国内でも広く豊かな土地を持つエライマン伯爵領。

 その領都であるエライマンでは兵士達が慌ただしく駆け回っていた。

 そんな様子に吊られてか、街の住民達もざわざわざわと騒ぎ出す。


 街の南方に。

 エライマンの堅牢な防壁よりも遥かに高い染肌色をした塔が現れたのだ。


 夜の間は灯りが無く。

 目視では確認する事が出来なかったそれは。

 空が白み始めると共にその威容を明らかにした。

 そして。


 『休息宿ラブホテル エライマンでリニューアルオープン 開店は7時から』と横長の巨大な板らしきものに文字が流れだした。


 兵士は見たままの光景を領主の屋敷を守る騎士へと伝え。

 騎士は急ぎ領主であるフォルカーの元へと伝えに行く。


 一時は元気の無かったフォルカーだが、近頃は以前の様な覇気を取り戻していた。

 騎士達にとってはフォルカーの身に何があったのか不思議であったが。

 主君が元気になってこれ程に嬉しいことは無い。

 今の時間なら中庭で朝の訓練をして体を動かしている事だろう。

 騎士が中庭まで駆け。

 上半身に何も身に着けていないフォルカーが木剣を振り下ろしている所を見て。


 騎士は思わずトゥンクしたのであった。


 一生見惚れてしまいそうになったが、どうにか魅力的な逞しさの底なし沼から舞い戻った騎士は。


「フォルカー様!報告します!エライマン南方の森に染肌色の塔が現れました!」


 今朝方起こった不可思議な状況を説明する。


「何?」


 フォルカーの鋭い眼光が騎士を捉える。

 その目だけで人を射殺す様な強烈な威圧を向けられて騎士は。


 二つの玉々がキュンキュンした。


 フォルカーはしっとりと汗を搔いたまま騎士に寄って来て。

 騎士はこのまま初めてを奪われちゃうんだと直感して。

 両目を瞑って唇を突き出し。


「私はちょっと塔まで言ってくるから妻やセバスに説明よろしく」


 そう言って騎士に訓練用の木剣を渡し。

 フォルカーは上着だけ着て燥いだ様子で騎士の来た道を駆けて行った。


「フォルカーしゃま、、、しゅき♡」


 エライマン伯爵家の騎士には。

 割とフォルカーガチ恋勢が多いのだと言う。


「本当に休息宿ラブホテルが出来ているじゃないか!何故だ?しかしあれが本当にあのラブホテルなら歓迎すべきだろう。寧ろ最高としか言いようがない!」


 フォルカーが街の外に向かって駆けて行くのを見て。


「フォルカー様だ!」


「フォルカー様がいらしたぞ!」


「フォルカーさまがんばれー!」


 大人にも子供にも大人気のスーパーヒーローフォルカーが現れて。

 それまで不安気だった住民達に安堵の色が戻る。

 住民達は道の端に寄ってフォルカーの駆ける道を作った。

 そして狼型の魔物の様な速さで南門の前まで辿り着いた時だった。


「フォルカー様!?」


「おお!タスケ殿か!」


 フォルカーはダンジョン転移の件を伝えようとフォルカーの屋敷へ向かっていたタスケと行き違いになる事無く再開を果たしたのであった。



「わっはっは!外の様子が全然わからないから不安だぞ!」


「大丈夫ですよマスター。何かあれば私が拳で捻じ伏せますから」


 ヒショは拳を固く握ってシャドーボクシングをし。

 勢い余ってウルトラヴァイオレットオーガを殴り飛ばした。

 そして酒瓶を煽る普段通りのムーブを見せた。


 昨日の内に改装の準備は終わっている。

 ラブホテルの入口を入って正面がフロント。

 右手に客室へ転移する扉。

 ここまでは変更が無いが、左手に扉を作って食堂へと転移出来る仕組みを作った。

 食堂の名前は勿論マシマシオーク亭だ。

 アイトがマシマシオーク亭の名前を異常に気に入ったので、名前はそのまま継続となっている。


 店の内装はヤーサンにあった頃とは全く別物だ。

 ヤーサンのマシマシオーク亭は街の中心から離れた所にある小ぢんまりとした店の中に。

 客がギュウギュウに詰まっていたが。

 オークって豚っぽいのにギュウギュウに。


 今のマシマシオーク亭は随分と広々とした空間になっている。

 席は全て2人掛けでテーブルとソファー席の二種類。

 美しい木目の床とテーブルセットに、茶色くて柔らか過ぎない革張りソファー。

 壁の色は白で一面は夕焼けの海岸線を描いた壁画になっていて。

 照明は電球色のダウンライトとスポットライトを組み合わせていて暖かみがある。


「まさかあたしがこんなに素敵な店を営む事になるとはね」


 出来上がった店内を見て。

 顔には出さなかったがマシマシオーク亭の店主であるプニータは声が弾んでいて。

 従業員のダニエラはどこか嬉しそうに口元が弛んでいた。


 余談だが昨晩プニータはニックと部屋で営んでいた。

 ゆうべはおたのしみでしたね。


 以前の調理場は薪を使っていたが、ここではガスコンロとIHコンロのハイブリッドである。

 試しにどちらも使ってみて、後で使い心地の良かった方に入れ変える形だ。

 慣れるまでに多少は時間が掛かりそうなのでマシマシオーク亭のオープンは数日遅れる事になっている。


「プニータ君。ちょっとだけ背中触らせてくれない?そのポコッとした所だけ」


 アイトが若干でっかいプニータに興味津々なのが気になるものの。

 数日後には平穏無事にオープンを迎える筈である。

 若干だけヒショの機嫌が悪いし。


「タスケ君は帰らずにこっちで物件探すんだって?」


 アイトの問いに。


「そうですね。テーラ商店はエライマンにも支店が出てるらしいんですけど、規模が大きくないので伯爵様の口利きで良い物件を紹介して貰うって言ってましたよ。まだ話もしてないのに確信した様子で」


 ダンジョン転移前にタスケと共に行動していたルイスが答えた。


「タスケ君ってテーラって家名だったんだね。タスケ・テーラは流石に笑うんだが!」


「それ本人に言っちゃ駄目ですよ。以前に、両親には感謝しているけれど唯一両親を殴りたくなったのはネーミングセンスの無さだって言ってましたから」


 そういう事であれば弄るのは止しておいて。


 タスケの営むテーラ商店は妻のバルバラと従業員達にヤーサンからの撤退の全て任せて単身でダンジョン転移に付き合って。

 早朝からエライマン伯爵にダンジョン転移の件を説明する為、出掛けている。

 護衛でついて行ったのは蒼剣の誓いリーダーのスミスだ。

 伯爵の予定が合えば後日ラブホテルで顔合わせの予定となっている。


 タスケが商会の本店があるヤーサンからの撤退を思いっきり良く決めたのは、ダンジョン農園産の作物を取り扱っているのもあるが。

 一番大きな理由はヤーサン独自のみかじめ料を我慢ならない金額まで値上げする話が出ていたからである。

 遅かれ早かれ出て行くのだったらアイト達について行って信頼関係を強固にした方が良い。

 その方が確実に儲けに繋がると確信して、エライマンへ本店を移す事を即座に決めた。

 この辺りはやり手商人らしい思いっきりの良さである。


 今後はダンジョン農園産フルーツの買取だけでなく、マシマシオーク亭で使う食材の調達も行う事になった。

 これも中々に大口の取引になる事が予想されるので儲けもしっかり出るだろう。


 何せマシマシオーク亭で出て来る料理はでかい。

 アイトの前世的に言うならば所謂デカ盛りだ。

 一人前の量を聞いたら、肉だけで2㎏ぐらいあって流石のアイトも引いた。

 なので肉の量は客側で選べるようにして貰った。


 だって2㎏がスタンダードじゃ客を選び過ぎるもの。


 話は逸れたが。

 マシマシオーク亭の名物はあくまでも塊肉(大)のステーキなので、仕入れの量はとんでもない事になる。

 しかもアイトが外の世界では入手困難、または入手不可能な調味料なんかをバンバン投入するので間違いなく繁盛する。

 これはアイトとタスケの意見が一致したのでそうなる可能性は高い。


 店が繁盛すれば卸す食材の量が増える。

 勿論それは商会全体の売り上げから比べれば微々たるものだが。

 ラブホテルの知名度が上がればそこにガッチリと食い込んでいるテーラ商会の名と信用も上がる。

 そしてラブホテルの知名度は確実に上がる。


 だって領主がフォルカー・エライマンなんだもの。


 普通なら街の近くにダンジョンが出来れば警戒するだろうが、フォルカーは既にラブホテルを利用して気に入っている。

 警戒をするどころか積極的にラブホテルの利用を勧める可能性が高い。

 つまりは勝ち確だ。


 テーラ商会はエライマンに本店を移す事で一つ上のステージに上がる事が出来るだろう。

 タスケはそんな風に確信している。


「蒼剣の話は別にしなくて良いとして」


「「「ちょっとぉぉ!」」」


 ラブホテルに弄られ役のツッコミ役が増えた。


 そうそう、フロントに一つ大きな変更点があった。

 ヤーサンでは入店した客にエマが直接接客をしていたが。

 アイトはこの度、客室が写った写真パネルと客室番号が書かれた“ラブホテルと言えばこれ!”な例の機械を導入した。


 アイトの前世と違って外の人間はラブホテルの利用方法を知らない。

 故に手間が掛かっても一組一組エマに接客をして貰っていたのだが。

 エライマンはヤーサンよりも人口が多いので対面(すりガラス越し)での接客では捌ききれない可能性を考慮したのだ。

 例の機械なら押しボタン式で客室を選べるので利用方法を覚えてしまえばフロントに並ばず客室まで移動出来る。

 これによって客同士が顔を合わせて気まずい思いをする事も減るだろう。


「不倫とかするならやっぱこれだよな。不倫とか。不倫とかするなら」


 とはアイトの言葉である。

 今後は例の機械の利用方法を周知して、ラブホテル本来の形を浸透させていくフェーズに入ったのだ。

お読み頂きありがとうございます。

もし【面白い】【続きが読みたい】と思ったらブックマーク、評価お願いします。

作者のモチベがムクムク上がります。


カクヨム先行で公開していますので気になる方はこちらも是非。

https://kakuyomu.jp/works/16817330665881599043

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
小説家になろう 勝手にランキング
↑ これを押して貰えるとと少しだけ強くなれたような気がする。
★★★★★ くれたら嬉しくて泣いちゃうかも
ブックマークよろしくお願いしますぅぅ!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ