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今後の方針と作戦会議①

 こちら712号室。

 アイトとヒショはゲストの3人を交えて麻雀卓を囲んでいた。

 しかし麻雀を再開する様子は無く、どうやら話し合いを始めるみたいである。


 テレビモニターにはフロントの様子が映っていて勝色の大型狼ワンポが映り込んでいるが。

 フロントにいる客達は平常運転で接客を受け客室へと消えていく。


 初めは皆驚くのだが、粗相をしたりしなければ大人しいもので。

 寧ろサイズ感と強烈な威圧感に目を瞑れば可愛い大型犬にしか見えないので。

 見られたらラッキー、と今ではラブホテルのマスコットキャラクターになっているのだ。

 強烈な威圧感に目を瞑れれば、だが。


 ヒショが明らかに不機嫌なのでレイさんに酒を持って来るよう注文してから。

 アイトは本題を切り出した。


「それで、さっきのあれって何だったの?」


 さっきのあれとは入店即脅し文句をぶっこんで来た男3連発の事である。

 アイトは即座に追い出したが、エマが驚いてビクッとしたのでヒショが不機嫌になり。

 タスケと蒼剣の二人は額に手を置いて首を振っていた。

 三人はあれらが何かを知っていると判断して質問をしているのだ。


 タスケは溜息を一つ吐いて語り出す。


「あれはですね。端的に言えばヤーサン男爵領の領主であられるアルフルーガー・ヤーサン男爵の抱える兵士ですね」


 貴族の兵士と聞いて浮かんだ疑問がアイトの口をつく。


「どう見たって輩じゃね?」


 ヒショはアイトの言葉に頷いて同意を示すが、タスケは軽く首を横に振った。


「いえ、あれで列記とした兵士なのですよ。初めて見たなら蛮族にしか見えないと思いますが」


 タスケの言う通り、あれらはどう見たって蛮族である。

 兵士と言われるよりも野良の盗賊と言われた方がしっくりくる出で立ちをしているのだ。

 タスケは言葉を続ける。


「ヤーサンでは男爵の指揮の下、独自の税制を敷いていまして。それがみかじめ料と言うのですが。通常かかる税の他に、みかじめ料を納めている店や個人事業主などの用心棒となるとの名目でお金を徴収しているのです。みかじめ料は払わない選択も出来るのですが、その場合はスラムを取り仕切る団体から嫌がらせを受ける様になります。実際はその団体もヤーサン男爵の配下ですので、みかじめ料を払わなければヤーサンで商売をする事は出来ないのですが」


「ぶはっ!ひぇっひぇっひぇ!」


 タスケから語られた内容が前世で聞きかじった事のあるシステム過ぎて思わず吹き出したアイト。

 何故か物語に登場する魔女染みた笑い声になっている理由は本人にしかわからない。

 そして笑っている時、気管にオオクワガタが入って咳き込んだアイトは。


「むせる」


 アイトにしか理解出来ないちょっとした小ネタを挟んだのであった。

 使い方が若干。

 いや、非常に怪しいが。


 その後アイトは唐突に真顔になり質問を重ねる。


「ちょっとした疑問なんだけど、三人が税金の他にみかじめ料まで持って行かれる所を拠点にしてるのは何でなの?」


 当然の疑問だろう。

 外の世界の税率がどんなものかアイトは知らないが、みかじめ料を上乗せされれば他の街よりも領主に払う金が増えるのは目に見えている。

 税率を低く抑えて税収を国に報告し、みかじめ料を個人の資産としてくすねているのであれば理解も出来るが。


「それはですね。私の場合は商会を構えるとなった時に、確実に儲けられる街を探していまして。それで選んだのがヤーサンだったのですよ。他よりも出費の嵩むヤーサンに好んで店を構えようと思う者は少ないですから。ライバルが少ないので案外と商売人にとっては悪くない環境なのですよ。最近はみかじめ料を定額ではなく利益の一割に変更すると言い出していて微妙ではあるのですが」


「俺達冒険者は魔物の討伐なんかで街に貢献してるからみかじめ料を払う必要は無いんですよ。ヤーサンは街への入場時に余計に税が掛かったりもするんですが、冒険者はその辺を優遇されていて無料なので他の街と変わりません。ヤーサンの街周辺は何故か魔物が少ないんですが、少し足を延ばすと結構良い狩場があったりして討伐依頼も少なくないんですよ。だから俺達はヤーサンに留まっている感じですかね」


「良い百合カップルがいるのも大きいしな」


 一人だけシンプルに癖が理由で残っていると言い放ったものの。

 それぞれに留まる理由があるのだと言う事は理解が出来た。

 しかし。


「暴対法の事を考えると近くに組があるのは面倒だよなぁ」


「私が殲滅して来ましょうか」


 心底面倒臭いといった様子のアイトと物騒な事を言い出したヒショ。


「それも悪くは無いんだけどさ。スタンピードは起こした後が面倒じゃん?皆揃って帰って来るかわからないし」


「私が責任をもって連れ帰りますが」


「いや、ヒショが一番心配なんだよ!」


 二人の不穏過ぎる会話にタスケと蒼剣の二人が汗ダッラダラなのは置いておいて。


 スタンピードとはダンジョン内のモンスターが溢れ返って外の世界へと出てしまう超危険現象の事を言うのだが。

 これはあくまでも一般的に言われるスタンピードの原因であって実際は少し違っている。

 確かに一般的に言われる理由でもスタンピードは起こり得るのだが。


 実はこのスタンピード、ダンジョンマスターの権限で自発的に起こせるのだ。


 スタンピードを起こした場合、ダンジョンマスター以外のモンスターが自由にダンジョン外へと出られる様になる。

 但しスタンピードを起こした時点でモンスターは凶暴になり、我を忘れて暴れる様になる。


 普通ダンジョンでスタンピードが起こった場合は早急に冒険者や騎士達が戦って多くの犠牲を出しながら戦うので、あまり知られていないのだが。

 ダンジョンのモンスターが我を失うのは168時間。

 実に丸7日間は暴れ回る計算となる。

 その後モンスターは我を取り戻してダンジョンに戻るか、そのまま野生の魔物となる。


 さて、今回の場合であるが。

 もしもアイトがスタンピードを起こした場合。

 ヒショやワンポと言ったバケモノ染みたモンスターが外に解き放たれる上。

 ヤマオカを筆頭とした色とりどりの変異種オーガズも集団でお出掛けしちゃう事となる。

 ちょっとしたお散歩で街を壊滅させるだけの戦力が暴れまわるのだから、7日間でどれだけの被害が出るのかは想像もつかない。

 オーガズは殴り合いのガチバトルを始めて勝手に数を減らすかもしれないが。


 懸念点はそれだけではない。

 もしもダンジョン内で皆が暴れ始めた場合。

 外の世界の人間であるエマやミーアが真っ先に狙われるのは間違いない。

 その場合にヤバいのはレイさんだ。


 エマとミーアをダンジョン内に隔離して守るとして。

 レイさんは実体を持たないレイスなので壁抜け床抜け天井抜けし放題でダンジョン内を移動する。

 そしてレイさんの恐ろしさはそれだけではない。


 あの人(霊)何故か安全地帯でも平気で攻撃出来ちゃうのだ。


 思い出して欲しい。

 レイさんはアイトの指示や自分の趣味で客室に入り込んでアシストや警戒の名目で近距離覗きをしたりする。

 ダンジョンは外から来た生物が身に着けている物以外は自動的に吸収してダンジョン力へと変換してしまう。

 つまり客室はゴミ箱やトイレなどの一部を除いて安全地帯が採用されているのだ。

 にも関わらず、レイさんは不届き者に闇魔法を使って眠らせたりしている。


 つまり安全地帯をガン無視して攻撃を加えているのだ。


 この特性が派手にヤバい。

 アイトは、多分まあ街一つぐらいなら平気で落とせるぐらいの強さはあるだろうが。

 実体を持たないレイさんとの相性は頗る悪い。


 我を忘れていたとしても、ダンジョンモンスターがダンジョンマスターに攻撃をする事はないのだが。

 アイトが守ったとしてエマとミーアが攻撃対象から外れることは無いだろう。

 大人しくダンジョンの外に出て行ってくれれば良いが、何となくダンジョン内をくまなく見て回ってから外に出て行きそうな気がする。


 あの人(霊)覗くの大好きだし。


 以上の理由からよっぽどの事が起こってもスタンピードは行わない方針をアイトはとっているのだ。

 つまりアイトは“ヒショが一番殺戮劇を繰り広げそう”と言う理由で心配と言っているのだが。


 ヒショは別の意味で捉えてちょっと嬉しそうなので良しとしておこう。


 余談だがラブホテルとして稼働している客室は普段安全地帯を採用しているが。

 客が出た後は安全地帯を解除して抜け落ちた髪の毛や垢、ベタベタする液体やヌルヌルする液体まで全てを吸収しているので掃除をしなくても全室尋常じゃなく清潔に保たれている。

 シーツや備品はレイさんがサイコキネシスで元に戻して、直ぐに新たなる客を迎え入れる準備は万端だ。

 但し忘れ物をした場合には問答無用で吸収されてしまうので、忘れ物が見付かる事は無い。


 忘れ物にはご注意を。

お読み頂きありがとうございます。


カクヨム先行で公開していますので気になる方はこちらも是非お願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16817330665881599043

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