9皇太子の帰還。
途中で戦場に寄ると、凄惨な事になっていた。
あちこちに死体が転がり、瀕死の者達が蠢いている。
「マコト、何してるんだ?」
両手を広げて、天空を仰いでいる。
なんか、背中に羽が生えてる。
天使、エンジェルなのか!
雲の隙間から教国の奴らに、虹色の光が注がれた。
おぉ、わずかしか息してなかった奴らが元気に立ち上がった。
マコトに向かって、拝み始めた。
神は信じてはいないが、崇めたくなる気持ちはわかる。
マコトの身体が、二つに折れる。
殿下が受け止めていた。
戦いは終わったが、争いは済んだ訳ではない。
何をしているんだろう、私達は...。
帝都に戻るとさすがに疲れたのか、マコトは殿下のベッドで深い眠りについた。
殿下が部下達の労をねぎらっていると、皇帝から使者が寄越された。
殿下と私は案内されるまま、庭園の東家に赴いた。
「大儀であったな、皇太子。」
皇帝陛下の顔が、綻んでいた。
「いえ、オレは何もしていません。マコトが、全部やってくれました。」
驚きの顔で、「何と、マコがとな!あの子は、何をしたのじゃ?」
「まず、敵軍の後方に魔導武具軍を大規模転移で挟み撃ちにして殲滅。枢機軍も、王国領に転移させてしまいました。」
「やりおるのう。教国も、懲りたであろう。しかし王国に飛ばすとは、賢いのう。嫁にもらうのが、もったいないわい!」
「王国側が落ち着いたら、軍務尚書に処理を一任して婚儀の準備をしようかと思います。よろしいでしょうか?」
「ならば、花嫁の父親をこき使うのもなんじゃ。戦後交渉は、アキトにさせるがよい。後見に宰相を付ければ、問題なかろう。」
何やら、含みを持たせた言い回しだ。
「では、よろしくお願いいたします陛下。」
皇宮を後にして殿下は東宮へ、私は後処理の為軍司令部に向かった。
「後方主任参謀と、諜報部長を呼んでくれ。」
司令部に入るなり、部下に命じた。
参謀本部に入ると、程なく二人がやって来た。
「忙しい中、済まんな。此度の戦いについて、各国の出方はどうだ?」
諜報部長が資料を確認しながら、「教国は軍を徹退させて、共和国に頻繁に使者を送っております。王国は、急に現れた枢機軍が慌てて引き上げた為臨戦体制は解除した模様です。共和国は、厄介ですね。国境を封鎖して、教国の使者も追い返しているようです。こちらにも、新たに諜報の手を広げているようです。特に、総参謀長殿の周辺は徹底的に調べようとしていたとの事です。」
その口ぶりからすると、問題なく片付けたらしい。
「こっちからは、何か仕掛けてないのか?」
「王国と教国は、人員を増やしております。共和国は、あえて...。」
「そうか、後でカミロに相談してみるよ。」
魔術師でなければ、共和国では無理そうだ。
「賠償は、どのくらい取れそうだ?」
後方主任参謀が、算盤を弾きながら「今回は、相当ふっかけても。こちらの損害は微々たるものですし、王国に多少回してもこれ位かと。」
かなりの、額だ。
兵士達にボーナスを配っても相当余りそうだ。
「それならこの位、魔導軍に回せるか?」
「こんなもので、よろしいのですか?」
「この度の、成婚の儀の費用に充てようと思ってな。」
「それは、よい考えでありますな。と言うことは、殿下とマコちゃんの結婚が決まったのですか?」
「あぁ、やっと肩の荷が降りたよ。」
二人同時に「おめでとうございます、ビリド様!」と、嬉しそうに微笑んでくれた。
魔導軍司令官だのと言っているが、今でもマコトは兵士達の妹であり娘なのだ。