6皇太子の出撃。
「はむっ、ハムッ!」
軍議のさなか、そぐわぬ音が響いていた。
「マコト、会議中ですよ。オヤツは、後にしなさい!」
すると、マコトを膝に抱えたカミロにキッと睨まれてしまった。
空気の読めない男だなぁ、ビリド。
婚約者にメンチ斬られて、あたふたしている。
カミロは、ビリドの彼女さんだ。
皇后の妹、マレトにとって叔母にあたる。
「マコ、お口の周りが汚れてますよ。拭いて差し上げますね。ほら、イチゴオレも飲みなさい。」
マコトは、ご満悦だ。
カミロは、マコトの一番の庇護者だ。
ビリド、先が思いやられるな。
マコトがカミロの膝から降りて、配下に念話で指示をしていた。
「マレト、魔導武具の配備はどれだけ進んでるの?」
「第九と第十師団ほぼ全員にだから、ざっと二万ってとこだ。その代わり機動性がないから帝都防衛にしか使えんぞ。」
魔導武具は、魔術が使えない者でも上位の広範囲爆撃が行える武器である。
操縦には、技術はさほどではないが尋常ではない体力がいる。
おまけに、自重が大きすぎて動かすのが容易でない。
「ボクに、貸してくんない?」
「どうする、気だ?魔術師には、却って邪魔だろう。」
機動力で敵を撹乱する魔術師には、魔導武具は相性が悪い。
「大丈夫、転移させるから。」
「一体づつやってたら、年が明けてしまうぞ。」
「とりあえず軍務省の前に、二個師団集合させて。どのくらい、かかる?」
部屋の外で待機する、帝都防衛隊副隊長のアキトを呼び出す。
アキトに尋ねると、「三十分もあれば、可能です。」
その間に他の師団が、前線に到着したとの報告があった。
「ボクは、魔導軍司令官のマコトです。」
指揮台の上に立つロリっ子幼女に、場がざわついた。
(魔女っ子マコちゃんだ、本物かなぁ?)などと、アイドルのコンサートみたいになっている。
各指揮官から喝が飛び、場が鎮まった。
「えっと、みんなには敵の後方に転移してもらいます。帝都防衛は、魔導軍がするので安心を。戦場に着いたら、魔導武具の火力を存分に叩き込んでください。逃げ場のなくなった敵を、殲滅しちゃって!」
兵士はロリっ子魔法幼女の煽動に、高揚の雄叫びを上げている。
「それでは、行くよー!」
あっという間に、二万の軍団が消えた。
「マコト、今の何だ?あんな大規模魔術、見た事ないぞ。しかも、無詠唱だなんて...」
「後で、説明するね。枢機軍は、ボクが対処するから。カミロお姉ちゃん、後はお願い。じゃぁ、ボクも行くね!」
あっという間に、マコトも消えた。
「カミロ姉ぇ、大丈夫なのか?マコト一人で、神官達を相手にするって!」
結局、マコトの心配か。
カミロが、殿下に向き直り「マコなら、心配いらないよ。逆に、神官達が可哀想かなぁ。同情するよ。」
魔導軍ほど高位ではないにしろ、五千人はいる魔術師にたった一人で相対すると言うのだ。
どれだけ化け物なんだ、うちの妹は。
「ビリド、他の師団も戦場に合流しておるのか?」
「はい、殿下。全師団配置についております。」
「よし、カミロ姉ぇペガサスを呼んでくれ。我らも前線に行くぞ!」
カミロが、召喚術でペガサスを呼びこんだ。
時速500マイルで空駆ける、優れ者である。
「では参ろうか、ビリド。カミロ姉ぇ、後を頼みます。」