5皇太子の憂慮。
オレとビリドは、ビリドの家の敷地内にある道場で剣術の稽古をしていた。
ビリドの家門は、優秀な武官を輩出する家柄であった。
稽古について来たマコトが、「お兄ちゃん、ボクにも剣を貸して。」
「マコト、危ないから大人しく見ていなさい。」
模擬剣と言えど、本物とサイズや重さは変わらない。
小っこいマコトには、持つだけで厄介だ。
まして、我が家門には珍しく運動神経が悲観的に乏しい。
歩くだけで、よく転んで泣いている。
そんな時マレトの父親、当時は皇太子であったタカト殿下が来た。
殿下も、うちの門下であった。
今は、剣聖として当代一の騎士である。
帝国軍司令官として戦乱に明け暮れていたが、帰還したらしい。
「オヤジ、いつ帰ったんだ。オフクロも一緒か?」
「おぉクソ坊主、今帰ったぞ。そこの小っこいのは、モラドの娘か?」
「殿下、ご無事の帰還何よりです。これは、我が妹マコトにございます。」
「ビリド、いつもマレトが迷惑かけるな。これは、土産のマンゴーオレじゃ。そこなお嬢ちゃんも、飲むがいい。」
「ありがとう、おじちゃんいい人だね。よい子よい子、したげる。」
「おぉ、ありがたい。マコ、マンゴーオレおいしいかい?」
「うん、マンゴーオレは至福の喜びを与えてくれる飲み物!」
相変わらずぶしつけなやり取りにハラハラしたが、あの帝国の鬼と呼ばれる殿下が満面の笑みでいた。
「マレト、少しは上達したのか?ビリドの爪の垢でも飲んで、精進せよ。マコや、剣が欲しいのか?これを、やろう。」
「オヤジ、その剣は何だ?」
「此度の戦で手に入った、魔剣じゃ。魔力を大量に使えるマコになら、扱えるであろう。」
それは細身で片刃の反りの入った、剣であった。
禍々しい妖気を漂わせている。
殿下は、マコトの魔力保有量に気付いているらしい。
「おじちゃん、ありがとう。軽くてキレイ、大事にするね。」
「うむっ、精進するのじゃぞ。」
それ以来、殿下は夫婦揃って、マコトにメロメロになった。
マコトがいなければ、二人は今でも世界を敵にして暴れ回っていたであろう。
これで、万事めでたし。
と、言いたいところだが「宰相閣下、一大事です。」
宰相の執務室に軍務尚書が、飛び込んできた。
「殿下、どうしてこちらに。宰相閣下は、どうされたのですか?」
オレは、宰相に気付けを施し起こす。
「う~ん、殿下申し訳ありませぬ。おう、軍務尚書どうしたのじゃ?」
「はっ、アニス教国が軍を進攻してまいりました。」
「何と、して規模は?」
「教国軍は、ざっと二十万西と北から二方向にて!」
「では、すぐに軍議だ。かねてからの手はず通り、第一と第五師団を防衛に。他は、すぐ増援の準備を。」
「御意、殿下の仰せのままに。」
「ではわしは、軍議の準備をするとしよう。」
すぐに、軍の上層部が集められた。
第一と第五を除く各師団長と魔導軍司令官のマコトに参謀長のカミロ、近衛騎士団長兼帝国軍総参謀長のビリド軍務尚書モラド宰相ナザルそして帝国軍総司令官のマレト以下の面々である。
「教国軍が、西と北から十万づつの兵を進駐させて来た。枢機軍は、魔導軍に備えて温存しておるらしい。。」
敵の兵力から考えて、まだ増えるものと思われる。
後、南のアカテ共和国も不穏な気配を漂わせている。
早速、東のナジロ王国に押さえに廻ってもらえる様に外務尚書を派遣した。
さて、どうしたものやら。
我が軍は各師団合わせて十万、それに帝都防衛部隊と魔導軍が総数。
どうやっても、足りない。
敵は二十万出してもまだ、余裕があるらしい