4皇太子の反抗。
オレは、皇帝に謁見するために帝城に来ていた。
その前に、宰相から件の事で再度の詫びを受けていた。
気にする事は無い、穏便に取り計らってもらえればいいと伝えた。
宰相は涙ながらに恩義に報いる事を約束してくれた。
謁見の用意が、出来た様だ。
朝の弱いオヤジに気をつかって、遅めに来て良かった。
「皇帝陛下におきましては、ご機嫌麗しゅう。」
「誰かと思えば、マレトではないか?堅苦しいのはおいといて、用件は何じゃ?」
「では、単刀直入に。私は、皇太子を降りる事に致します。跡目は、アキトが立派に継ぎます故。」
いつも口うるさい宰相が、黙って聞いていた。
先ほどの事が、功を奏したらしい。
オヤジも押し黙っている。
沈黙が続くなか、「宰相、アレを呼べ。」
「呼んだ!」
すると、オレの横にスッとマコトが降り立った。
「相変わらず、予測不能じゃのマコや。」
「おじちゃん、呼んだでしょ?早い方がいいと思って。」
「うむっ、よき事だな。マコや、マレトが皇太子を辞めたいと言っておる。おぬし、どう思う?」
「オヤジ!マコトは、知らない事だ。」
「そちには、聞いておらん。ワシは、マコに聞いておるのじゃ。」
マコトは、オレの方を窺いながら「たぶん、それってボクのせいだと思う。おじちゃんが嫌なら、ボク諦めるよ。」
「ワシも望むならマコが娘になってくれたらと、思う。何か、いい手立ては無いものか?」
その時、宰相から皇后の来殿が伝えられた。
「皇后や、身重の身体でどうしたのじゃ?もっと、己を大事にせねば。」
「何を、おっしゃいます!御家の大事に、安穏とはしておられませぬ!先ほどから聞いていれば大の男が寄ってたかって、一人の女の子を窮地に貶めて。恥ずかしくないのですか?」
「いや、ワレもマコを大事に思えばこそ悩んでおるのじゃ。」
「母上、わたくしもマコトの事が大切なんです。」
すると、マコトが皇后の側に行き「おばちゃん、お腹触ってもいい?」
「いいわよ。そっと撫でてね。」
まるで、天界の儀式の様な光景だった。
あまりの神々しさが、まばゆいばかりだった。
「マコ、おばちゃんの娘になりたくないの?嫌?」
「ううん、なりたい!」
「じゃあ、なりなさい。」
「でもねマコ、ホントは男の子だしおばちゃんみたいに子供産めないの。ごめんなさいなの!」
そのまま嗚咽して、ワーワー泣き出してしまった。
「いいのよ、そんなちっぽけな事。アタシを誰だと、思ってるの!スカルの大魔法使い、マコのお師匠様でしょ。邪魔する者は、みんなカエルに変えちゃいましょう!」
この母なら、やりかねない。
オヤジが脂汗を流しながら、空を向いてる。
ドサッ!!
宰相が、気を失って倒れていた。
記憶を消したらしい。
我が母ながら、恐ろしい人だ。
「と言うことで、婚礼は盛大に執り行います。アナタ、文句はありませんね!カエルになりたければ、いつでも仰ってください。」
正に、鶴の一声だった。
「マコ、今日からおばちゃんの事はママって呼ぶのよ。」
「ママ、ありがとう。ママ、大好き!」
「なんて、かわいらしいんでしょ。甘美な響き!もう離しませんわ、わたくしの一人娘!」
「母上、マコトが怯えております。落ち着いてください。」
「何となく、こうなる様な気がしておったのじゃ。杞憂で、あったな。ところでマコや、ワシの事もパパと呼んでよいぞ。」
オヤジはだらしない顔で、マコトに媚びていた。
「んー、また今度ね!」
オヤジがこの世の終わりを迎えたかのように、打ちひしがれていた。
「ママ、お部屋に連れてってあげるね。」
オヤジが羨望の眼差しを向けるなか、オレは宰相を抱えて広間を後にした。