1皇太子の憂鬱。
スカル帝国皇太子マレト、成人になるに当たり妃選びの時が迫っていた。
候補者は引く手あまたと言いたいところなれど、難航していた。
「なぁーじぃや、何であんな高慢な売女を嫁にしなきゃならないんだ。」
傍らに控える実直そうな男性が、眉間にシワを寄せながら「殿下、言葉を慎み下さい。
お相手は、宰相閣下のお孫様で公爵令嬢でありますぞ。
それに私はまだ二十代、じぃやと呼ばれる謂われはありませぬ!」
応えたのは、皇太子付きの騎士ビリドであった。
「式典まで、幾ばくも無いな。
陛下が、認めてくれれば良いのだが?アイツも、祝福の無い婚姻は嫌じゃと言うし...。」
アイツというのは、我が妹マコトであろう。
魔導軍の司令官で、帝国の切り札である。
魔導軍とは最強の魔術師達による、帝国屈指の軍隊である。
マコトは司令官とは名ばかりの、残念少女だ。
伯爵家の出自なのに礼儀作法に疎く、言葉遣いも乱暴。
ドレスも着ず、魔法少女風ローブばかり。
これは、殿下の好みだが...。
ボクっ娘で、殿下をよく虐待している。
私も含め、甘やかし過ぎたと思ったのも後のまつり。
しかし、それには止むにやまれぬ事情があった。
しかしながら、帝国の切り札とも為れば皇帝陛下も首を縦に振りにくいだろう。
帝国一の美少女だけに、式典は映える事間違いないと思うのだが...。
「殿下、マコトは何と言ってるのですか?その口振りだと、気持ちはお伝えになられたのですね?」
殿下は、体躯を伸ばし「あー、ちゃんと伝えたぞ。
おバカなロリっ娘にもわかる様にな。
そしたら、おやつを毎日くれたらOKだよって!
なんだそりゃって言ったら、マレトの家の人の承諾ももらってねって。
ちゃんと、考えてくれてたみたいだな。
後は、オレ次第だ。じぃや、どうしたらいい?」
少し考えこみ「殿下が、誠心誠意陛下を納得させるしか無いんじゃないですか?って、じぃやは辞めて下され。」
「悪かった、ビリド。実は、内々に軍務尚書にマコトの退役を打診してみたんだが...。見事に、断られた。隣国の法皇が、攻め込む気配らしい。枢機軍の神官相手だと、魔導軍がいないと苦しいらしい。後、皇統についても苦言を呈された。」
そう、マコトは子供を産めない身体だ。
いわゆる男の娘、女装男子なのだ。
兄弟でも信じられないのだから、他人が気づく事など皆無だ。
男兄弟の末っ子に生まれ、蝶よ花よと可愛らしく育てられた。
母親譲りの美貌も相まって、帝国一の美少女が誕生したのだ。
「殿下の気持ちは嬉しいのですが、やはりその点からも難しいかと。陛下の知るところに、なれば...。」
さすがに、男同士の婚姻など皇帝が認めるわけがない。
「オヤジは、知ってるぞ。マコトは、オヤジのお気に入りだからな。アイツが何をしようと何を言おうと、言いなりだからな。多分、帝国で一番偉いのはアイツだ。ただし、皇統についてはな...側女を置けと。」
「難しいですなぁ...。あのわがまま娘が、意向に従うとは思えませぬ。ならば、一人で生きると言うでしょうなぁ。」
「軍務尚書も、言っておったわ。我が娘ながら、困った者だと。」
「父が甘やかすから、ああなったのに。何と、お詫びしていいのやら。」
「よいよい、皆で甘やかしたのだ。しょうがない。軍の方は何とかなるが、オレは側女など抱える気など無いのだが。」
「まっ、怖いですからね。アレを怒らせたら。」
「怖くなど、ないわ!」