第二・五夜(幕間1) 一時の平穏
今日(見方によっては昨日)の閉店作業が終わった後、マスターは作ったまかないを
かき込み、シャワーを浴びて速攻ベッドへと向かい寝た。
それから起きたのは現実世界でいうと午前十一時半といった所だろうか。窓から
見える太陽はそれなりの高さまですでに上っていた。
(もうこの年になると、疲れがなかなかとれませんね.. おまけに流れ着いてからは
現実世界では絶対に経験しないような、刺激的な日常。よく今まで一回も休まずに
営業できたものです。)
「まあ、こちらが休もうとしてもお客さんが日を問わず流れ着いてくるから、
休もうにも休めないんですけどね...。」
昨日もお客さんのテンションについていけずとても疲れました、
そう言ってマスターは右の肩を回した。ポキッポキッと小気味良い音が鳴った。
「さて、少し遅いですがボランチ..いやほぼ昼食にいたしますか。」
(ふうむ、何を食べましょうか.. そうだ、前に異世界の冒険者が来た時に頼まれた、
あの料理にしましょうか。コーヒーとよくあうんですよね。)
そう思いながらマスターは早速調理にとりかかった。幸いなことにここは夢の
世界。食材も思い浮かべば出てくるし、一度作った料理はこの世界では忘れる
ことはない。
(..もし仮に私がこの世界から出たとき、調理してきた料理の記憶はどうなるんで
しょうかね、一応そうなったときのためにメモは取っているのですが。食材も手に
入らないでしょうから、それは悲しいですね..)
「よし、コーヒーの準備もできましたし食べましょうか。」
そう言ってマスターはその料理をサンドウィッチ状に切り分けてそのうちの
一切れにかぶりついた。スープのみたいな味がついた米のような物と肉が
アクセントになって美味しい。挟み込んだパンとの相性もバッチリである。
「リゾットべグ..ですか。食パンに大き目の穴を開け、そこにリゾットを流し込む
とは..私の世界でも似たような料理があった気がしますが、食材がおいしい。
特に肉ですよ。これほどおいしい肉は今まで食べたことがありません。」
そして、コーヒーを飲む。消耗が激しい毎日だが、確かにそこにマスターの心が
安らぐひと時ができていた。
「..さて、食器を片付けて今日もこの世界の調査に行きますか。」
そういったものの、マスターの表情は少し曇っていた。何しろこの世界はこの店
本体と店の裏口から数メートルの空間しかない。もう営業し始めてから一年ほど
になる。毎日その裏口を開け、変化がないか調べることしか、他に打つ手が
ないのだ。
(てかこれ、倉庫でしょうね。なぜこの空間があるのか、私にはいまだわかり
ませんが..)
それから店に戻って調査記録と日記を書き、開店三十分前までまた睡眠をとる。
これが、いままで彼がとってきた毎日のルーティーンだった。
この世界で彼があげた彼にとっての成果をあげるとするならば、この調査記録と
日記しかなかった。彼からすると何も状況は進んでないと判断するのは当然の
ことだろう。
「..今日もあげるべき変化はありませんか。はい。戻って今日の調査記録と日記を
書くといたしましょう。」
(やはり、私だけではここから出ることはかなわないでしょう。誰かの力を借りなけ
ればなりません。しかし、その時はまだ来ない。)
マスターのこの世界に流れ着く前の記憶は断片的にしかない。ゆえに誰かが必要
である、という所で考えが止まり、一年ぐらいたった今でもマスターは考察を前に
進めることができなかった。
数時間後、調査記録と日記を書き終えたマスターは睡眠をとるべくベッドへと
向かった。
(少し早いですが、睡眠をとることにいたしましょう。働きすぎによる疲れは私に
とって敵、何事もほどほどが良いと日々身にしみていますからね...)
「それに、今日の営業は少し臨場感を持つべきだと私の直感が告げています
からね。ここにはいろんな客がやってきます。一回のミスで、最悪私の命
がなくなります。
それほど危なかった時は、..数えるほどしかありませんが。」
そう言い残しマスターは何度目かの眠りへと落ちた。彼が再度起きたときはまた、
新しい非日常である「夢幻喫茶店」の営業時間がやってくるのである。
えっと...限界でした。(設定決め、時間の点で)ので幕間という形でお茶を
濁しました。
また幕間がはさまれたら、「あっ、作者さん一旦さぼりに入ったか。」
と思って暖かい目で読んでくれると助かります。