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夢幻喫茶店  作者: 泡沫
1/3

第一夜 リスタート・ワールド

初めての作品なので、お手柔らかに感想・誤字脱字の報告等お願いします。

時計の針が進む音と、ゆったりとしていて心がなぜか落ち着く音楽。

ただそれだけが、まだ一人しかいない店内を支配している。


(まあ、ここに流れ着いてかなりの時間が経つ私も、どういう原理で時計が動き、

音楽が流れているのか、さっぱり分からないんですがね...)


やがて時計は午後十一時半を指し示し、鐘が鳴ってマスターに開店の時刻である

ことを告げた。


「おおっ、もう開店の時刻になりましたか」


その時、弱々しく入口の扉が開いた。開けたのは少し背丈の低い少年。

中二...あるいは中三くらいですかね、とマスターは考察した。


「あれっ、僕寝てたはずなのに..? ここどこ...」

「ようこそ、夢幻喫茶店へ。どうぞそこにある椅子に座って。さて、坊ちゃんは

 何か飲みたいものとか、食べたいものはありますかな?」


マスターはいつも通り、カウンターにある椅子に座るよう促して、少年に注文を

聞いた。


(喫茶店のマスターなんて流れ着く前は全くやりませんでしたが、時間がたてば案外

それなりにできますね..といってもやっていることがあっているかなんて、私には

わからないですが)


なんて思考を巡らせていたら、少年が口を開いた。

「えっ、おじさん誰? 知らない人のいうことは聞いちゃダメってお母さんが...」

「はえ?」

「ここよく分かんないし、おじさんは雰囲気が怖いし、僕帰る!!」

「ああっ、ちょっと待った、私がちゃんと説明しなかったのが悪かったから頼む、

 座ってくれ~~!」


マスターは少年を何とかなだめて1つしかないカウンターの椅子に座らせた。


これまで、夢幻喫茶店にはさまざまな人が流れ着いた。スーツに身を包んだ

サラリーマンがきたかと思えば、明らかに異なる世界の住人、時には見た目が

猫の人まで (獣人種っていうんですかね、あれ)


そして、今回のようなこどもも例外ではない。だから必ずしも、すべての客が

マスターの説明を素直に待ってくれるとは限らないのだ。


(私としたことが、すっかり早く説明をすることを失念していましたね。

いつだったか、首元に剣を寸止めされたときに学習したはずでしたが..あの時は

さすがに死ぬと思いました。ええ。

...おっといけません、坊ちゃんに改めて説明しなければ...)


「坊ちゃん、先ほどはここのことについて詳しく話さなくて申し訳ありません

 でした。ここはおそらく夢の世界であると私は思っています。そして、ここは

 いろんな人の夢の世界と()()()。」


「夢の世界と繋がる...?」


「そうです。今日はあなたの夢の世界と。

 今まで一日一人しか来店していないので私の考えでは、毎晩1人ずつしか繋がら

 ないのでしょうね。ああ、私のことはマスターと呼んでください。かれこれ

 ここの店主?になって一年くらいになりますかね..」


「...」

「さて、私が話せるのはこれくらいですかね。何か質問があればわかることは答え

 ようと思っていますが.. 無ければひとまず、何か飲みたいもの食べたいものを

 頼んでみてはいかがですか。お代は一切いただきませんのでね。ああっ、天ぷら

 とか頼まないでくださいね?あれはものすごく手間がかかりますから。」


一息に説明を終えたマスターは、用意したグラスに水を注いでいくらか飲んだ。

少年の方は首をかしげながら考えるそぶりをしていた。まだ納得はしていない

らしい。



「...じゃあ、おにぎりと烏龍茶で」

「おおっ、おにぎりとは渋い選択をしますねぇ。オレンジジュースとか頼まなくて

 もよろしいので? あと具は何がお好きかな?」

「僕、他の物を食べるとお母さんに怒られちゃうから...、具もマスターの好きな

 ものでいいよ。」


そう言い終えた後、少年は少しだけうつむいた。どうやら何か事情がありそうだと

察したマスターは、とりあえず烏龍茶だけ先に用意した。


「烏龍茶をお持ちしました。おにぎりは現実世界ほどではないですが、時間かかる

 のでね。」

「ありがとう。」

「暇なのもなんですし、そろそろ坊ちゃんの事について聞かせてくれませんか。

 ここに来る人たちは、何かしら心にとめていることを抱えてやってきますから。

 おそらく坊ちゃんにもそういうことがおありなのでは?」


そうマスターに言われた少年は烏龍茶を手に取り一口飲んだ。グラスを持つ少年の

手は震えていた。


「...僕ね、夢から覚めて明日になったら死のうと思っているんだ。お父さんお母

 さんとも、学校の友達ともうまくいかなくてさ..。ゲーム機も今日壊されて。

 なんで、こんなにつらい日々をすごしてるのに明日を迎えようとしてるん

 だろう、ってふと思っちゃったんだよね。」

「ふーむ、それはそれは..」


少年の脳裏に数々の思い出したくない記憶がよぎる。

自分をロールプレイのいちキャラのように動かそうとする父親、偏見に囚われ自分

の話を聞こうとしない母親、瘦せ型の自分の容姿をあざ笑うクラスメイト。どこに

も自分の味方なんていなかった。


(..... おい、ゾンビがやってきたぞー。.. うわ、ゾンビはこっち来んなよ気持ち

悪い。 ..ねえ、生理的に無理だから近寄らないでくれる? 人間じゃないみたい。)


学校から家に帰ってくれば待っているのは父親の暴行と成長期の自分にはとても

足りない量の夕食。毎晩吐きそうになるのをこらえ、父親の気配におびえながら

ゲームをしていた。


「自分のHPも削られてて、バッドステータスにもなってるのに回復できなくて。

 僕の四方は全部敵に囲まれてて。もう、僕の人生ってこのままじゃ

 ゲームオーバーだよね..」

「..なるほど、確かに坊ちゃんの人生は一見すると詰んでいるのかもしれません。

 ですが、坊ちゃんはついていますよ。ええ。坊ちゃんは幸運ですとも。」

「えっ?」


突然、自分の想像の斜め上からきた言葉に少年は思わず顔を上げた。このマスター

と名乗る男は敵に囲まれ、回復薬も解毒薬も持たず死を待つしかない自分を幸運で

あると言ってのけたのだ。


「坊ちゃん、生きていると良いことって何だと思いますか?」

「ゲームができること、かな。でも僕にはもう...」

「ふふっ。新たな体験、新たな出会いができることですよ。あくまで私個人の意見

 ですがね。」

「新たな出会い..?」

「ええ。まさに坊ちゃんはこの世界で私に出会えたではありませんか。」


少年は二口目を飲んだ。もう手は震えていない。


「私自身は今まで何の名誉、功績も残せませんでしたが、大切な人たちには出会う

 ことができました。その人たちの笑顔を見るたびに、生きててよかったと思うん

 ですよ。おっと、何も出会いは人だけじゃありませんよ?」

「...そうなの?」

「ええ。」


マスターは少年へ微笑む。少年にはその顔がなぜか眩しくみえた。


「イベント、趣味も入りますよ。例えばゲームとか。もしかしたら、ゲームが仕事

 になるかもしれませんねぇ。」

「ははっ、マスターそんなことはないよ。」

「坊ちゃん、私はあなたにもっと生きていることのいいことを知ってほしい。

 しかし、この状況をまずは打破しなければなりません。私は普段は客の

 話を聞くだけで、そんなに何かすることはないですが..」


そういって、マスターはタブレットを取り出した。そして、何か準備をし始める。


「マスター、どっからそのタブレット取り出したの?」

「ああ、私がこの世界で唯一使える魔法、収納術ですよ。ある時を境に使える

 ようになりました。」

「ええ..」

「坊ちゃん、ここは私にまかせてみませんか? こう見えても悪い計画を立てるのは

 得意なんですよ.. さあ、作戦会議といきますか。」



数刻後、少年は半信半疑の表情でタブレットをのぞき込む。


「マスター、これ本当にうまくいくの?」

「うまくいくかは、坊ちゃん次第ですよ。糸のように細いチャンスを坊ちゃん、

 自分自身でつかむのです。」

「何だろう、不安になっちゃうな。」

「まあまあ。そんな緊張せずにこれでも食べて元気出してください。それと、

 何か追加の飲み物はいりますかな?」

「オレンジジュースが飲みたい。」


そう言って少年は微笑んだ。その目には確かに希望が宿っているようにマスター

には見えた。


「かしこまりました。ちょっと待っててくださいね。」

「うん、ツナのおにぎり? おいしい。」

「そうですか。どうやら作ってよかったみたいですね。」


もう一度鐘がなり、閉店の時刻を指した。どうやらもう夜が明けるらしい。


(なぜでしょう、お客さんの世話をしていて、いつも気づいたら閉店時刻なん

ですよね..。私もその間は時を忘れているのか、この世界の法則なのか..)


「マスター、今日はありがとう。うまくいくかわかんないけど、また、0から

 人生を歩めるように頑張ってみるね。」

「それなら、私も骨を折った甲斐があるものです。坊ちゃんの幸運をお祈り

 していますよ。」

「うん。さよなら、マスター。」


マスターと少年は最後の握手をした。そして、少年は振り返らずに店を出た。

ここから少年の新しい物語は歩き出すのだ。



数年後、とある大会にて...


「ドリームイースポーツ、ここは苦しい展開を迎えています。これは一旦

 後ろに引いて立て直す必要がありそうですか?」

「はい。ですが、だれか囮になる必要がありますね。」

「おおっと、ここでZEROがトリプルキルだ!!これレイブンス詰められ

 ませんよ。そして、ZEROまだ耐えている。なぜまだ死なないのか、ええ..」

「これで、ドリームイースポーツ立て直し間に合いましたね。」


「そして、ドリームイースポーツ詰めています。ZEROがその間にツーキル、

 いや、レイブンスがエリミネイト、そしてタワーが陥落しました。

 勝者はドリームイースポーツ、優勝を決めました!!」

「ZEROの異次元の耐えがチームの立て直しにつながりましたね。」


優勝チームのインタビューが始まる。そして、出てきたのは成長こそしているが

あの少年だった。少年はステージに案内され、渡されたマイクを持った。


「ZERO選手、優勝おめでとうございます。チームは一時絶望的な状況でしたが、

 ZERO選手の耐えからこのチャンスが生まれました。あのプレーはなぜ生まれ

 たと思いますか?」

「そうですね、自分の人生が一旦0になった時があったんですけど、そこから

 リスタートできた経験が生きたんだと思います。今はこんなにいい仲間にも

 恵まれて、本当に感謝しています。」

「ありがとうございました、ドリームイースポーツ、ZERO選手でした。」


あの日、少年は父親を挑発し暴行を顔に受け、その足で警察に逃げ込んだのだ。

そして、保護されて紆余曲折あって、今はとあるゲームのプロゲーマーになって

いる。


「よし、次の大会も勝つぞ!! みんな!」


少年の新しい冒険は確実に今一歩ずつ前に進んでいた。

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