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公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
第二章 物語の綻び
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4.突き落とし偽装の顛末

 納得いかない部分は多々あれど、ともかく犯行現場の予定地というのを下見しておこう。そう考えて現場(予定)を訪れたヘクトーであったが、()ぐさま別の問題の存在に気付く。それは、眼光紙背に徹する依頼人(クライアント)であるシーラ嬢ですらも言及しなかったもので……



(参ったな……この階段、()っといたら勝手に崩れそうだぞ……)



 誰も気付いていないようだが、問題の階段を支える柱が一本、虫喰いのため折れる寸前となっていた。危ない状態になっているのは一本だけで、他の柱はそこまで虫喰いが進んではいないところをみると、自然に腐朽や食害が進行した結果だとも考えにくい。恐らくは過去に手抜き工事か施工ミスがあって、基準を満たしていない材木が使われたのだろう。

 他の柱はそこまで酷くはないので、階段全体がいきなり崩落するような危険は無いだろうが、



(仮にもお嬢様が使われる階段に、そういう不安要因があるというのもなぁ……)



 単純に考えれば、問題のある柱を補修すればいいだけの話なのであるが、



(後に残るような、不用意な強化は駄目だと言われているからなぁ……)



 前回の教科書の件では、発想の柔軟性は評価されたものの、後に証拠を残すような真似は爾後(じご)の影響が読めないので控えるように――と、(しっか)り釘を刺されたのだ。ここで同じ(てつ)を踏むようであれば、自ら無能を宣言するようなものではないか。


 どうしたものかと考え込んでいたところに、天啓のごとく脳裏に舞い降りてきた名案――或いは()案――があった。



(要するに、いつ壊れるか判らないというのが問題なわけだから……先んじて壊してしまえばいいのではないか? 犯行現場が事前に消滅していれば、あの小娘もバカな真似はしないだろう)



 (ごう)()にぶっ飛んだ発想ではあるが、依頼人(クライアント)の要求は全て満たしている。突如として階段が崩落するというのは騒ぎになるだろうが、崩落の原因すなわち不良品の柱が厳としてそこにあるのは事実なのだ。少し首を(かし)げる者は出るだろうが、非生産的にそこを掘り下げようとする酔狂人は少ない筈。それよりも、由緒あるこの学園で手抜き工事などやらかした不届き者を吊し上げる方に走るだろう。こちらとしても好ましい展開ではないか……


 (しば)し思案して問題が無さそうだと判断した後、階段付近から人がいなくなるタイミングを見計らって、階段を崩落させたヘクトーであったが……〝人がいなくなるタイミング〟を見計らっていた者がもう一人いた事を忘れていた。



・・・・・・・・・・



「きゃあぁっっ! 何これ!?」



 自壊しつつある階段に悲鳴を上げて突っ込んで来たのは、予想外というか想定内というか、お約束どおりのサンドラであった。さすがに階段の階段の天辺(てっぺん)からのダイビングをやらかすつもりではなかったようだが、所定の位置まで急いで駆け下りるつもりではあったようだ。その直前で階段が崩れ落ち始めたため、踏みとどまろうにも勢いが止まらなかった――というのが事の真相らしい。



(――なっ!?)



 〝近くに人がいない〟――すなわち、容疑者に祭り上げるべきシーラも、証人となるべき目撃者もいない状況で、こんな茶番に踏み切るなどとは思いもしなかったため、ヘクトーも不意を()かれる事になった。健全で良識的な先入観が邪魔をした形である。もう少し相手(サンドラ)の非常識性を考慮に入れるべきであったろう。

 だが、後知恵をどうこう(ひね)くるよりも、今は現状への対処が優先される。依頼人(クライアント)たるシーラ嬢本人が、〝小娘(サンドラ)が命を落とすのは望まない〟と明言しているのだ。ここで手を(こまね)いて、対象が死亡もしくは負傷するのを見過ごすわけにはいかないではないか。


 (とっ)()に放ったヘクトーの結界魔法が奏効して、崩落する階段と共に落下したサンドラが傷を負う事は避けられた。


 ……そう、階段と共に崩落したにも(かか)わらず、サンドラの身には傷一つ付かなかった。


本日はもう一話更新します。

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