表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
第二章 物語の綻び
4/18

2.教科書汚損の顛末(その2)

「はぁ……はぁ……何て丈夫なのよ、この本。……力を入れるところが間違ってるでしょ……」



 高価な教科書がそう簡単に破れたり(ばら)けたりしては困るだろうから、それなりに丈夫に作るというのは間違ってはいない筈だ。まぁ、問題の教科書は、悪魔の力で補強済みなのであるが。



「……仕方がないわね。あまり派手な真似はしたくなかったんだけど……」



 そう(つぶや)いて懐に手を入れるサンドラ。一体何を始めるのか――と、ヘクトーも思わず身を乗り出す。ドキュメンタリーも愈々(いよいよ)佳境に入るようだ。


 ワクワクしながら見ている観客(ヘクトー)の目の前で、サンドラはペンナイフを取り出すと、えいや!――とばかりに教科書に突き立てる!

 ……が、当然ヘクトーの【状態維持】と【不壊(ふえ)】の魔法に弾き返され、傷一つ付ける事ができなかった。



「……何なのよ、これ……幾ら何でも()り過ぎじゃないのよ……」



 むきになったサンドラが目を血走らせて繰り返し凶刃を振るうが、強化済みの教科書はその(ことごと)くを涼しげに弾き返す。ぜいぜいと肩で息をしているサンドラとは対照的に。



「……くっ……仕方ないわね。次善の策を採るしかないか……」



 おや、他にも手立てを考えていたのか――と、興味津々のヘクトー。何やら悪女と悪魔の知恵比べの様相を呈し始めたようだ。

 ヘクトーがワクワクと見ている前で、サンドラが(かばん)から取り出したのはインク(びん)。なるほど、傷付けるのが無理というなら、インクで汚してやろうという(はら)らしい。しかし――生憎(あいにく)な事にその教科書には、先程ヘクトーが【不穢(ふえ)】の魔法をかけたばかりである。内心でせせら(わら)っているヘクトーの前で、何も知らないサンドラは()(ゆう)綽々(しゃくしゃく)といった態度で、



「見てなさいよシーラ・デュモア。貴女を追い落として、あたしが物語のヒロインになるんだから!」

 


 何やら不穏当な決意を表明したサンドラが、今まさにインク(びん)を傾けんとしたところで――



「サンディ、ここにいたんだ」

「ひゃうっ!」



 教室の入口から声をかけたのは、レックスことレクサンド王子の取り巻きの一人。現宰相の次男でもあるシム・ウーゾリーであった。



「シム……脅かさないでよ」

「ご、ごめん、別に脅かすつもりは無かったんだけど……」

「ビックリして手が滑っちゃったじゃない。見てよこれ」

「うわ……これはまた……」



 驚いた拍子に手が滑って、インク(びん)を取り落としたため、教科書はインク(まみ)れの状態である。一瞬狼狽はしたものの、(むし)ろこれでインクを落とした説明が付いたというものだ――と、内心で〝結果オーライ〟と思っていたのだが……



「……あ、でも……教科書にはそれほど染み込んでいないような……えぇっ!?」

「あ……あれ?」



 狙いどおりに事が進んだと内心で(ほく)()()んでいたサンドラであったが……豈図(あにはか)らんや、シムがハンカチで教科書を(ぬぐ)ってみたところ、そこに現れたのは汚れ一つ無い美品のままの教科書であったから、シムもサンドラも驚きの表情を隠せない。独りウンウンと得意げなのはヘクトーであるが、生憎(あいにく)とその姿は凡人二人の目には映っていない。



「奇跡だ……これは奇跡だよサンディ! 神がサンディの清らかな心をお認めになったんだ!」

「え? えぇ……?」



 さて、このシム・ウーゾリーという少年、先にも述べたように宰相の次男であるが、冷徹な政治家である父親への反撥からか、神だの信仰だのに走る傾向が強かった。そんな彼がこの〝奇跡〟を目にした事で、サンドラを巡る状況は(いささ)かおかしな事になっていくのだが……それはもう少し先の話になる。

本日はもう一話更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ