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公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
第二章 物語の綻び
3/18

1.教科書汚損の顛末(その1)

「恐らくですけど、次に彼女が行なうのは、自分の教科書を傷付けたり汚したりして、それを(わたくし)のせいにする事でしょう。場合によっては、(わたくし)の机に隠すところまでやるかもしれません」



 なぜか自信たっぷりに言い切るシーラ嬢に、ヘクトーの方は疑わしげな態度を隠さない。仮にも王立学園の生徒に、そこまで浅はかな行動をとる者がいるのか?



「……我ながら嫌になりますけど、彼女がやりそうな事はある程度見当が付くのですわ」



 なぜか憮然とした表情で、それでも確信有り気に言い切るシーラ。

 その自信の根拠は判らないが、シーラ嬢が自己嫌悪に陥っている理由は察しが付く。バカの心理が理解できるというのは、自分とバカの間に一脈通じるものがあるという事だ。そりゃ、嫌になるのも道理である。



「彼女は人目の無い時機を見計らって、自分の教科書を傷つける筈です。恐らくは自分のクラスでそれを行なう筈ですわ」

「はぁ……」

「なので貴方には、それを阻止して戴きたいの。手段については任せます」

「は、承知いたしました」



・・・・・・・・・・



 姿を消してサンドラの教室へ急ぐヘクトーであったが、さて具体的にどういう手段を採るべきかと、内心で思案を巡らせていた。


 対象の行動を監視して、それを阻止するのが基本なのだろうが……頭のおかしい小娘一人のために、そこまでの手間暇をかけるというのも業腹(ごうはら)だ。なら……



(……愚行を阻止するというより、その愚行が(じょう)(じゅ)するのを妨げてやれば、結果としては同じだな……)



 お嬢様(クライアント)からの要望は、小娘(バカ)冤罪(えんざい)をでっち上げるのを阻止するというものだ。言い換えると、犯罪としての要件が成立しなければいい。



(教科書を傷付ける事ができなければ、対象(バカ)(もく)論見(ろみ)は失敗に終わる筈。態々(わざわざ)バカに付き合って張り付く必要も無い……これでいこう)



 そう判断したヘクトーはサンドラの教室に先廻りすると、彼女の教科書および道具の一式に【状態維持】の魔法をかける。念のためにと【不壊(ふえ)】と【不穢(ふえ)】の魔法まで重ねがけする(おう)(ばん)(ぶる)(まい)である。つい先程までただの教科書類だったものが、一気に加護持ちアイテムに化けた。



(……ん? 監視対象が戻って来たか? 間一髪だったな)



 処理済みの教科書を机に戻し終えたところで持ち主(サンドラ)が戻って来る気配を感じ、速やかに教室の隅に引っ込むヘクトー。丁度好い、ここで高みの見物としゃれ込む事にしよう。



「……ったく……シーラったら何で動かないのよ。話が進まないじゃないの」



 はて? ――と、彼女の台詞(せりふ)に注意を向けたヘクトーの耳に、続けられた彼女(サンドラ)(つぶや)きが届く。



「おかげであたしがあの子の代わりをやる羽目になっちゃったし……」



 (いぶか)しみつつ見ているヘクトーの目の前で、サンドラは辺りをキョロキョロと見廻して目撃者がいない事――ヘクトーの姿は見えていない――を確かめると教科書を取り上げ、握った両手に力を()めて教科書を引き裂こうとしたのだが、



「――くっ! 何よこれ。無駄に丈夫な作りにしてくれて……ふんぬっっっ!」



 満面に朱を注いで歯を食い(しば)り、悪鬼の形相も()くあらんかとばかりに力を()めるが……そんな事でどうにかなるほど、悪魔の「加護」(笑)は(やわ)なものではない。持ち手を替え、体勢を変え、果ては一端を足で踏ん付けてから他端を両手で引っ張る――などの(わる)足掻(あが)きまで演じるサンドラ。

 姿を消して見ているヘクトーは、笑いを(こら)えるのに必死であったが、やがて〝これは映像を記録して、お嬢様にも見て戴いた方が良いのではないか〟――との考えに思い至る。これだって或る意味では証拠映像であるし、何なら上司に見せてもいい。そう思い付いたヘクトーは(おもむろ)に記録の魔術を――こっそりと――発動する。後日になって(悪魔の力ではなく)〝魔道具で記録した〟と主張できるように、態々(わざわざ)記録方式を揃えるという念の入れようである。こういうところに気が回る辺り、実は結構優秀なのかもしれない。

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