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公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
第一章 物語の始まり
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2.実務者との相談

 上司だという悪魔と相談して詳細をアレコレ詰めた後で、正式な契約を締結し、当事者となったご令嬢――デュモア公爵令嬢シーラ――は改めて見習い悪魔に向き直った。ちなみに、上司は既に契約書を持って礼儀正しく退散している。



「それでは……(わたくし)の事はご存じだと思いますけど、改めて名告(なの)らせて戴きますわね。シーラ・デュモアと申します。貴方の名前は何とお呼びすれば宜しくて?」

「は! 我々の間では真名を知られると色々不都合が多いので、任務(ミッション)中はコードネームを使用する事となっております。今回の任務(ミッション)において設定された自分のコードネームは、-y~N9gPk_*Z+($……」

「ご存じかしら? 発音できないものは『名前』とは言いませんのよ?」



 (しと)やかに、しかし断固たる不同意と若干の(いら)つきを覗かせて、シーラ嬢は見習いの若者――と言うか少年――の台詞(せりふ)を遮った。少年がビクンと身体を()()らせた様子を見ると、この一言で格付けが済んだ模様である。



「貴方の事は『ヘクトー』と呼ぶ事にいたします。構いませんわね?」

「は、承知しました。(よろ)しければ、名の由来を伺っても?」

「そうですわね……ヘクトーというのは、大昔の物語に出て来る英雄の名前ですわ」

「ヘクトー……()(ぶん)にして存じませんでしたが、承知しました。以後、自分はヘクトーと名告(なの)らせて戴きます」

「えぇ。(よろ)しゅうに」



 こうして、当事者二人の相談は具体的な部分に入っていった。



・・・・・・・・・・



「……そうしますと、そのサンドラとかいう小娘が婚約者の方に色目を使うのを()めさせたい。それも目立たないように――というのがお嬢様のご要望で? ……ご無礼を承知の上でお訊ねしますが、それだけで宜しいのですか?」

「えぇ、(じか)に手を下すとレクサンド殿下(ば か)(うるさ)いのと、騒ぎを大きくすると学園の体面にも関わりますし」

「はぁ……」



 あまり納得していない様子のヘクトーであったが、依頼人(クライアント)の意向がそうだとあれば仕方がないと割り切ったようだ。



「それに……少し考えている事があって、彼女を極刑にはしたくありませんの」

「……そこまで悪感情は抱いておられない――と?」

「どちらかと言えば、小娘一人の言動に振り回されて失態を繰り返す、バカたちの方に問題があるでしょうね」

「なるほど……」

(むし)ろ、バカが相手とは言え一応は王家の者を、ああまで手玉に取る()(りょう)()めるべきかもしれません。……()(くだ)(いささ)か下品に過ぎますけれど」



 ――なるほど。その歳で男を意のままに操る術を心得ているのなら、ハニートラップ要員としても優秀かもしれない。コロリと転がされる男に使(つか)(みち)など無いが、男を転がす女の方は色々と使(つか)(どころ)がありそうだ。未成年とは言え公爵家の一員であるシーラ嬢が、確保を考えるのも解らなくはない。



「それに……あまり時間は無いかもしれません。彼女は(わたくし)の悪評を流そうと試みて、上手くいかずに()れているようですから」

「……その、〝悪評〟というのをお訊きしても?」

「幾つかありますけれど……そうですわね。まず、(わたくし)は身分を笠に着て、彼女に意地悪をしているそうなのですわ」

「……思い当たる節がおありですか?」

「多分ですけれど、学園内でのマナーについて注意した事を言っているのではないかと。目上の(バカ)への態度が()()れし過ぎると言っただけなのですけれど」

「そのご指摘に反撥したと?」

「えぇ。学園内では生徒は平等の筈だ――とおっしゃって」

「……は?」



 説明するシーラ嬢は失笑を浮かべているが、説明を受けたヘクトーの方は困惑の(てい)である。



「……自分は人間社会の事はあまり詳しくありませんが……学園というのは確か、人間が社会で生きていくための知識などを学ぶ場所では?」

「そのとおりですわ」

「そうしますと……学園外が階級社会である以上、その社会で生きていくためのマナーを身に着ける事は、学園における教育の一環なのでは?」

(わたくし)たちはそう考えていましたけど、彼女の考えは違うようですわね。この国とは違う社会の『良識』とやらをお持ちのようですわ」

「……これは……一度なりとその小娘を観察しておきませんと、思わぬ不覚を取るかもしれません」

「その機会は作ってあげられると思いますわ。二つ目に、(わたくし)は彼女が大事にしているアクセサリーを盗んだのだそうです」

「……は?」



 目の前にいる少女は(れっき)とした公爵令嬢。そのお嬢様が、どこの馬の骨とも知れぬ平民出の小娘のアクセサリーを盗んだ?



「いえ、木の実で手作りしたブローチとかいうのではなく、レクサンド殿下からの戴きものだそうですわ」

「……要するに、それが紛失して、盗難の嫌疑がお嬢様にかけられた――と?」

「えぇ。幸いにして()ぐに晴れましたけれど」

「……仔細をお伺いしても?」

「えぇ。ブローチの盗難があったというその日、(わたくし)は王妃様に呼ばれて王城へ出頭しておりましたの……婚約の件についてお話があって」

「ははぁ……」

「その話はレクサンド殿下にも通っている筈なのですけれど……なぜかご存じでない様子でしたわね」



 大方届けられたメッセージに目を通してもいないのだろう――と、小さく冷笑するシーラ嬢。王子としての先が思い遣られる為体(ていたらく)である。



「ちなみに問題のアクセサリーとやらは、下町の宝飾店に持ち込まれたのを当家の者が確認していますの。……持ち込んだ者の人相書きも含めて」

()(よう)で……」



 どうやら相手の残念指数はかなり高いようだ。まともに相手してやるのは馬鹿らしい気もするが、



「……かなり変わった思考を持つ相手のようですから、油断しない方が良さそうです」

「その意気で努めて下さいましね」

ヘクトーまたはヘクトルとはギリシア神話に登場する英雄の名前ですが、夏目漱石の飼い犬の名前もヘクトーといいました。

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