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公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
終 章 とりあえずの結び
17/18

とりあえずの結び(その1)

「本日は態々(わざわざ)お越し戴き申し訳ありません。今回は例の一件、その後の顛末(てんまつ)についてご報告しようと思いまして、ご足労をおかけいたしました」

「いえ、あの件は我々としても気になるところでしたからな」



 真面目(まじめ)な表情でシーラ嬢の挨拶(あいさつ)に応じる「上司」氏であったが……これは社交辞令などではなく、掛け値無しに彼の本音である。

 卒業記念のパーティで主演男優(れっくすおうじ)が大熱演(笑)だったと聞いて、彼のみならず関係各位がうち揃って、その後の顛末(てんまつ)を気にしていたのである。


 悪魔の力を(もっ)てすれば、王宮に忍び込んで事情を探り出すなど造作も無いが、下手にそんな真似をして教会にでも気付かれ、依頼主(シーラ)に迷惑がかかってはいけないと、動くのを自粛していたのである。

 悪魔のくせして……いや、契約に厳しい悪魔なればこそなのか、そういうところは律儀な連中なのであった。



「結論から申し上げますと、(わたくし)と殿下の婚約は目出度(めでた)く白紙撤回……とはなりませんでした」



 シーラ嬢の発言とその微妙な(こわ)()に、悪魔たちは意外の表情を隠さない。

 あそこまでやらかしたバカ殿下と婚約を続ける意義がどこにある? シーラ嬢ならその辺りは(わきま)えている筈だし、デュモア家も切り捨てる気満々だったと聞いているが?



「それが……どういうわけか、陛下が予想外の粘りを見せたのです。表向き、婚約は一旦解消にするが、殿下が心を入れ替えた折には考え直してくれ――と」

「心を入れ替えるねぇ……」

「頭を()げ替えた方が簡単なんじゃないですか?」

(わたくし)も同感ですし、お父さまも内心では同意していると思いますが……同時に、あまり王家を追い詰めるのも得策ではないと考えられたようです」

「「はぁ……」」

「それに最悪、シェイプシフターを頼るという手も考えられますし」

「「あぁ、なるほど」」



 (はた)で聞いていれば大概な話であるが、遺憾ながら内実は、彼らの言動の方に理がある。シェイプシフターどころか()(ぐる)みの方がまだマシ――というのは、王子近辺に控える者たちの偽らざる総意であったりする。だって、()(ぐる)みは余計な事を言わないし。


 だが、それはともかくとして……



「そうしますと……場合によってはお嬢様とバカ殿下が()りを戻すという可能性も……?」



 多少疑わしそうなヘクトーの問いかけを、しかしシーラ嬢は言下に切って捨てる。



「あり得ませんわ。当家ではどうやって婚約を決裂させるか、その算段を巡らせている最中ですもの。陛下もどうして、今頃になってこんな(おう)(じょう)(ぎわ)の悪さを発揮したのか……」



 (しき)りにぼやくシーラ嬢であったが、王家には王家の都合と困惑があった。

 事態の急展開――もしくは急転回――に頭を抱えていたのはシーラ嬢だけではない。何より王家がその筆頭であったのである。


 それもこれも問題の根源は、平民出の一少女に過ぎぬサンドラが聖女に認定されるという、誰も彼も夢想すらしなかった成り行きにあった。


 そもそも「聖女」というものは、王家の権威に対抗すべく教会がデッチ……掲げる旗印である。ゆえにこそ、聖女は王家とは距離を置く事が要求される。

 それなのに、あぁそれなのに、()(たび)教会が聖女に認定したのは、あろう事か第三王子――まだ一応は王籍にある――が思し召しを示しているという少女であった。これに驚かずして何に驚けと言うのか。

 まぁ(もっと)も、(くだん)の少女サンドラの立場というのがまた微妙であった。何しろ第三王子は(れっき)とした婚約者を持つ身。その婚約者を(ないがし)ろにする勢いで、王子は彼女に言い寄っているというのだから……王家が(くだん)の少女を取り込む事は――政治力学の上からも――あり得ない。ならば彼女を聖女に認定しても、王家の既得権益を侵害した事にはならない……そう教会が考えたとしてもおかしくはない。


 ――しかし、これを王家の側から見ればどうか。

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