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公爵令嬢と悪魔と婚約破棄  作者: 唖鳴蝉
第三章 物語の変容
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8.卒業記念パーティ(その2)

「僕たちは真実の愛で結ばれている! 教会が聖女だの何だのと言い出すよりずっと前からだ!」



 聞きようによっては王子が女生徒に手を出したとも受け取れる発言に、周囲の視線が一斉にサンドラに突き刺さる。〝濡れ衣だ!〟――と、声を大にして叫びたいサンドラであったが……王子(バカ)の発言はそれ以上に厄介な火種を蔵していた。


 王子の言葉が真実なら、サンドラは王子の――()いては王家の息のかかった者という事になる。これはつまり……王家が聖女の一件を仕込んで、教会をペテンにかけたという事か?

 そして……そんな機密情報をこの殿下(バカ)は、大勢の前で声も高らかに(ばく)()したという事か?


 この場に教会関係者が残っていなかったのは、幸運であったのか不運であったのか。ともかく、誰も訂正する者がいないまま、この疑念は目撃者の談話という形で広まっていく事になる。


 もうこれだけでお腹一杯と言いたいところだが、独りレックス王子だけはそう考えなかったらしく、更なる追い討ちがかけられた。



「お前たちの心無い仕打ちのせいで、サンドラがどれだけ心を痛めていた事か……。今回サンドラが聖女就任を受け容れたのも、これ以上デュモア家との確執が強まって、僕の立場が悪くなる事を懸念した結果だ!」



(((((――え?)))))



 聞き耳を立てている野次馬たちが再度呆然となる。


 王家は教会と手を結んで、デュモア公爵家に対抗するつもりなのか?

 先ほどの話では、王家は腹心を聖女に仕立てて送り込み、教会を意のままに操るような事を言っていたではないか?

 一体どっちが本当なのだ?


 思慮は足りないくせに妄想力だけは人一倍ある愚か者(レックス)の一言で、三大勢力の関係が一気に不穏なものとなる。この国はこれで大丈夫なのか?



「だが、僕は負けない!」



(((((――一体何に!?)))))



 支離滅裂もここに極まれりというレックス王子の()演説に、どうやらこの茶番に深い真意は無いようだと察する者もいたが、それはそれとして、近来に無い恰好(かっこう)のお笑いネタなのは確かである。しかも、自ら槍玉に挙がっているのは誰あろう、何かと噂の第三王子。これで面白くないわけがない。

 王家にとっては命取り……とまではいかないにせよ、それなりに手痛い醜聞(スキャンダル)を、面白(おもしろ)可笑(おか)しく(ふい)(ちょう)する気満々の傍観者たち。


 対して当事者たちはというと――



(……他国に向けて国辱を(さら)す事は避けられたみたいだけど、それを補って余りある醜聞(スキャンダル)――いえ、笑い話かしらね?――が広まる事になりそうね……まぁ、これで婚約破棄に関する王家の有責性は確定したし……デュモア公爵家(う ち)にとっては悪くない結果かしら。……王子(バカ)のこのやらかしぶりを見れば、デュモア公爵家(う ち)に対する非難も事実無根だと判るでしょうし……)



 ――と、シーラ嬢は半ば諦めたような表情で現状を検討していた。


 そして、今一方の当事者――もしくは被害者――であるサンドラはというと、



(……これでこのバカの利用価値は無くなったわね。変な(とばっち)りを引っかけられる前に、早いところ切り捨てないと……あぁでも、あまり早く切り捨てるのも外聞が悪いかしら。……不幸中の幸いだったのは、先に聖女就任の告知が為されていた事と、あのバカ王子があたしとの婚約まで言い出さなかった事よね。……純愛云々の話はあったけど。変な誤解をされる前に、教会にはあたしの方から報告しておいた方が良いかしら……)



 ――或いはまた、誰かさんの取り巻きたちはというと……



(……殿下には悪いが、これで殿下とサンディがくっつく目は無くなったな)


(逆に、我々の方はサンディに対してアクションを起こせる立場になったわけだ……)


(かと言って殿下との関係も、()ぐに精算するというわけにもいかないし……)


(当面は黙って様子見か)



 大熱演の独り舞台の結果がこれでは、主演男優(レックスおうじ)も浮かばれないであろう。


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