6.サンドラ・デ・フォークス
(ま、拙いわ……どうしてこんな事に……)
この一連の事件の中心人物――と言うか元凶――であるサンドラ・デ・フォークスは、学園の人目に付かない片隅で、目下のところ一心不乱に悩んでいる最中である。
(……レックス――レクサンド王子の愛称――に近付いて煽て上げ、落とすとこまでは上手くいったのよ、うん。なのに……悪役令嬢の筈のシーラが、ちっとも筋書きどおりに動こうとしないし……)
そのせいで、本来ならばシーラが行なう筈のアレコレを、サンドラが自分で行なう事になり……
(……嫌な予感はしたのよ。ヒロインが虐めを自作自演するなんて……ラノベの悪役令嬢ものの定番展開じゃないのよ……)
その定番の行動に走った挙げ句、定番どおりに自作自演に失敗し、ざまぁルート一直線かと慄いていたところが……
(……何だか妙な流れになってきてるのよね。こんな展開、公式には無かった筈だし……)
聖女というルートも一応検討はしたのだが、教会に所属する事のデメリットが正確に読めなかったため、最終的には候補から外したのだった。それなのに……
(選ばなかった筈のルートに進みつつあるのはどういう事よ……)
こんなルートはサンドラの予測の中に入っていなかった。なのでこのまま流れに乗った場合、どういう展開になるのか見当が付かない。
(……ひょっとして、隠しルートか何かなの? いえ……そんな話は無かった筈だし……)
わけの解らない話になってきているが、このまま流れに身を任せた場合、どういう展開になるのか予想が付かない。然りとて流れに抗った場合、その結果がどうなるのかもやはり予想が付かない。ただ……何となくだが、流れに逆らうのは下策のような気がする。経験的に、この手の予感は無視しない方が良い。
(一体どこで選択を間違えたのよ? それとも……)
それとも――密かに懸念していたように、ここは「悪役令嬢ざまぁ篇」の世界なのだろうか。
だとしたら……定番どおりの展開を避けるという意味では、このまま聖女ルートに入ってしまった方が少しはマシなのかもしれない。
なのに――
「……レックスが何か余計な事を企んでそうなんだけど……」
心の奥に蟠る不安が、思わず口を衝いて出てしまう。
詳しい事は教えてもらえなかったが、今のレクサンド王子の動きは、「卒業パーティでの婚約破棄」イベントの兆候を見せ始めている。このまま進むとどうなるのか。
――と、そこまで考えが進んだタイミングで、サンドラの脳裏に突如「バッドエンド」という単語が浮かんできた。これでもかと不安を掻き立てる不吉ワードである。
「……冗談じゃないわよ。卒パでの婚約破棄って、数ある中でも最悪のパターンじゃない」
サンドラの「予測」に拠れば、レックスが独断で卒業パーティでの婚約破棄に踏み切った場合、レックスは国王の怒りを買って廃籍、サンドラもその巻き添えを喰らう公算が大きい……と言うか、高確率でそうなる筈だ。
仮にレックスがシーラとの婚約を破棄するにしても、それは穏便に内々に済ませるべきであって、公衆の面前で大々的に発表するなど、愚の骨頂でしかない。穏便に婚約を解消した上で、一~二年後に改めてサンドラとの婚約を結ぶ……それが最善のルートであった筈だ。今のままではバカ王子と一蓮托生になって、地獄へ真っ逆さまである。そんな未来は望んでいない。
「かと言って……聖女ルートの見通しが立たない以上、今の段階でレックスを切り捨てるのは悪手よね。……はぁ……物凄く面倒だけど、レックスが暴走しないように抑えるしか無いか……」




