第4話 最高の義妹出撃!!!
Michika!So sweet!
政志さんが史佳と別れ、一年が過ぎた。
大学を卒業した政志さんは就職した会社で毎日仕事を頑張っている。
心配していたストーカーのデマも史佳が全て嘘だったと会社側に謝罪し、大事にならなかったのはなによりだ。
「...出来た」
完成したおかずを二つの弁当箱に詰める。
一つは私が大学で食べる物で、もう一つは政志さんの分。
私は現在政志さんと同棲している。
といっても、私達が住むマンションの隣には姉さん夫婦が住んでいる。
理由は単純で、姉さんに子供が出来たのだ。
私の住んでいた部屋にはベビーベッドが置かれ姪っ子ちゃんの物。
政志さんの住んでいた部屋は頻繁に孫を見に訪ねて来る両親が使っている。
だから同棲っていっても実質は以前と同じ。
産休中の姉さんの家事を手伝うのは楽しい、何といっても姪が凄く可愛いのだから。
そんな私と政志さんだけど、まだ正式なお付き合いはしていない。
交際に何の問題も無いのだけど、政志さんの負ってしまった心の傷は簡単に癒える物では無い。
史佳と終わったから次は私、そんな安易に考えられる人で無いのは知っている。
何しろ8年も彼を見てきたのだ。
慌てず、ゆっくり歩み寄って行ければ良い。
だけど油断は禁物、また政志さんを狙う人間が現れる危険がある。
だから政志さんに対する好意は常に向けてアピールするのは忘れない、前回の失敗を無駄にしてたまるもんか。
「おはよう美愛ちゃん」
「おはようございます」
政志さんが起きて来る。
ボサボサ頭の政志さん、着崩れたパジャマ姿も素敵だ。
時刻は朝の六時。
政志さんは毎朝会社の就業二時間前に着いて、仕事を早く覚えようと頑張っている。
「朝食出来てますよ」
「ありがとう美愛ちゃん」
にっこりと笑顔で私の名を呼ぶ政志さん。
まるで新婚家庭...
ダメ朝から鼻血が出そう、慌てて上を向き呼吸を整えた。
「おいしい?」
「うん」
朝食を食べる政志を熱い目で見つめる、なんて愛おしいの、食べてしまいたい...
いかん、これでは姉さんと変わらないではないか。
私はあんな趣味は持ってない。
「はいこれ」
「いつもありがとう美愛ちゃん、行ってきます」
「いってらっしゃい」
仕事に出る政志さんにお弁当を渡して見送る。
小さなスーツに身を包んだ彼の姿、なんて愛らしい。
「...仕事頑張ってね」
閉まった扉に呟く。
「美愛ちゃんか...」
まだまだ年下の義妹扱いなんだよね。
呼び捨てでも構わない、いや美愛って呼んで欲しい。
「...さてと」
まだ大学の授業には時間がある、部屋の掃除と洗濯をしよう。
家事は得意だ、ずっと政志さんの奥さんになる為スキルを磨いて来たのだから。
「危うく無駄になるところだったけど」
また史佳の事を思い出してしまう。
現在、遠く離れた町で両親と暮らしている史佳。
新しい仕事を見つけ、ようやく新しい生活を始めたらしい。
なぜ知っているかといえば、史佳が自分の近況を姉さんへ連絡して来たのだ。
『もういいから、新しい自分の人生を歩みなさい』
姉さんは史佳に伝えた。
『私は許されない事をしました。
本当に申し訳ございません』
そう史佳は言ったそうだ。
メス猿といつも史佳を罵っていた私だが、それは本意じゃ無かった。
史佳に対する醜い嫉妬と自分でも自覚している。
告白する勇気が出せない隙に政志さんを取られてしまったのは自分の失敗なんだから。
史佳が政志さんに告白したのは決して悪い事じゃない。
誰だって愛らしい政志さんを見たなら恋に落ちてしまうだろう。
姉さんがセックスに制約を掛けたのは二人にとってどうだったのか?
史佳は不満を持ち、それが政志さんへの過剰な束縛となり、自滅に繋がってしまったのではないだろうか。
おそらく史佳は自己肯定が出来なかったのだ。
だからクズに引っ掛かり、自分を見失った。
史佳のした行為は最低最悪なのは間違いない。
政志さんは史佳を愛していた。
史佳だって政志さんの事を愛していたはずだ。
誰だって最初から裏切るつもりで告白なんかしないだろう。
私は絶対に裏切ったりしない自信がある。
でもその事をどうやって政志さんに分かって貰えるのか、堕ちてしまった恋人を目の当たりにしてしまったんだ。
「時間を掛けるだけじゃ、ダメって事よね」
本当に愛されているか不安になってしまう気持ちは誰でも持っている。
姉さんの言っていた互いの胸の内なんて、よっぽどの信頼関係を築けていないと無理な話。
政志さんから聞いた話によると、史佳は必死でアプローチを繰り返していたが、政志さんは自分に自信を持てなかった。
亮二さんという憧れの兄さんと自分を比べ、劣等感を持ってしまったのが原因だろう。
確かに義兄さんは頭も良く、身体も大きくって優れた容姿、更に空手二段。
対する政志さんは身体が小さく、運動が苦手、空手も始めたが直ぐに辞めてしまった。
『兄さんは凄いんだよ』
政志さんは事ある毎にそう言う。
自分の事を『俺』って言うのも兄さんの影響で、大学に入るまで『僕』だった。
似合わないから止めるように言ったけどね。
「気持ちは分かるよ」
私だってそう。
姉さんと10歳も年が離れているんだ。
昔から姉さんは綺麗で運動も出来、社交的で友人も沢山居た。
そんな姉に敵わないと私も思っていた。
「...でもね」
それだけに姉さんの秘蔵コレクションを見つけた時はビックリした。
当時まだ中学生だった私には刺激が強すぎたが、穢らわしいとか、軽蔑の気持ちは抱かなかった。
むしろ姉さんも普通の人間なのだと、どこかホッとした物だ。
「義兄さんもちょっと弱い所を政志さんに見せたら良いのに」
完璧な兄を演じ過ぎなのだ、本当は姉さんに甘えん坊なくせに。
「ありのままの政志さんが大好き...」
無理しなくても好きなんだ。
決して背伸びしなくても大丈夫、私はそのままの政志さんが一番好き。
「...好き」
政志さんの部屋に置かれていたパジャマを握りしめて呟く。
決して変な事をするつもりは無い、洗濯をするだけ。
「好き...大好き」
どうした事か溢れる気持ちが収まらない。
「私は政志さんが好き...早く、お願い...」
「美愛...」
「...え?」
振り返ると真っ赤な顔をした政志さんが...
「インターホン押したんだけど...」
「...いつから?」
いつから見てたの?
「何にも見てない!なにも聞いてないから!!」
「...アゥゥ」
それって全部聞いてたって事でしょ?
恥ずかしくて顔を上げられない。
「忘れ物しちゃって...」
政志さんは自分の部屋から紙袋を持ち出す。
部屋には沈黙が...
「僕も好きだよ」
「ハイ?」
今なんて言ったの?
「僕も美愛が好きだよ!大好き!!」
「政志さん!!」
真っ赤な顔をした政志さんに飛び付く。
こんな幸せがあるんだろうか!!
「ずっと一緒だよ...」
「...ありがとう美愛」
政志さんに口づける。
ようやく実った私の恋、幸せを噛み締めながら、時間ギリギリまで政志さんを抱き締め続けた。
んで、次はエピローグへ。