91話 200X年、記憶の中の……
「また未来に来た……訳じゃなさそうだよなぁ」
空を見る。青々とした変わり映えのない空が広がっている。街並みも普通だ。どうも未来に飛んだ訳では無さそう。
「はぁ、ホント何がどうなってるのさ」
あの黒い勾玉は一体なんだったのだろうか。
『揚羽、いる?』
私は頭の中で揚羽にそう問いかける。
『ええ、もちろん』
私の隣にスッと現れる黒髪ロリの姫神。
『いったいどういう事?』
「私に聞かれても……」
知らねーよ、的な反応をする彼女。
『さっきのあの勾玉ってなんなの?』
あれに触れたせいでこんな見ず知らずの場所に飛ばされてきた……んだよね。見た目は普通の勾玉だったけど……
「そうですね、あれは恐らく退魔之勾玉。退魔巫女と姫神を結びつける神器です」
退魔之勾玉、名前を聞くのは初めてだけど。役割はわかる。私以外はみんな使ってるもんね。
「……」
「どうしたの?」
何故か黙り込んでしまう揚羽。
「いえ……あの勾玉、どこかで見た事があるような気が──」
何か心当たりがあるのだろうか。
「あれ……ここって……」
ふと、周りの景色をみて何か既視感のようなものを覚える。
後ろを振り向く、そこには──
「ここって北千住? なんか見覚えあると思ったら……」
どうやら今いるのは北千住のアーケード街みたいだ。北千住は男だった頃に何回か来た記憶がある。まぁ何で来たのかとかは全く思い出せないけど……
でも何か雰囲気が違うような……
「八王子にいたのに何で北千住? 謎過ぎる……」
まったく状況が掴めない。とにかく灯達と連絡を──
「け、圏外!?」
圏外というスマホの表示、おかしいこんな街中のど真ん中なのに。
「あげは、なんだか嫌な雰囲気がします」
と、揚羽が駅の方角を向いてそう呟いた。
『……ん、私も感じる。もしかして影霊? とにかく行ってみよう!』
私は駅の方へ駆け出す。道中、やはり何か違和感があった。私が知っている北千住とか何かが違う。
そうして、駅の西口、駅前ロータリーにたどり着く。エスカレーターを駆け上がり。高架状になっている広場に登る。
「…………あの娘、誰だろう」
ふと、一人の女性の後ろ姿が目に留まる。長い黒髪がふわりと風に揺れていた。
「あげは! 朧に入ります!!」
揚羽の叫び。周囲の空間がパリパリとした雰囲気になり、空は赤く染まっていく。
「──っ、あれ? あの娘も朧にいる……」
周囲に居た人は消えた、たが彼女だけは朧に残ったままだ。
「もしかして、退魔巫女?」
朧に入れている、ならば考えられるのはそれしか無いのだが……
私は彼女の元に駆け寄る。
「ねぇ、アナタ……」
そうして、彼女の横に立つ。声を掛けるが何故か反応が全くない。
「ちょっと、聞こえてる?」
「……」
これシカトされてる? いや、そんな雰囲気じゃない。まるで私が見えていないような感じだ。
「え?」
今一度、じっくりと彼女の顔を確認して私は驚愕した。だってこの娘……
「…………っ!」
その娘が、バッと右手を空に掲げる。手には黒い勾玉が。
「来なさい! 揚羽!!!」
彼女の身体は柔らかな光に包まれる。そうして彼女の姿は──
「な、どういう事……」
彼女の退魔巫女姿は私のと酷似していた。全く同じではないがデザインや雰囲気などかなりの部分が共通している。そして何より。
「今"揚羽"って言ったよね? ちょっとどういう事!?」
「……わ、私に聞かれても。どういう事ですかこれ」
彼女も心当たりは無さそうだった。
「オォォォォォォ……!」
と、気がつけばいつの間にか。駅の入り口前に影霊らしき生物が。見た目は……狼男?
退魔巫女に変身した彼女が、ダッと狼男っぽい影霊に向かい駆け出していく。
彼女は腰に下げている小刀をスッと抜く、そうして影霊に向かいおもいっきり振り下ろした。
「グルルッ……!!」
影霊は跳躍しそれを躱す。だがそれを予想していたかのように、彼女は影霊が逃げた方向に向かいシュッと勢いよく手裏剣を投擲した。
「…………ガ……」
黒々とした蝶のような形をした手裏剣が影霊の心臓部に深々と突き刺さった。
よろける狼男、黒髪の彼女はその隙を逃さずに再び影霊の元に駆ける。
一閃、小刀は狼男の首筋を斬る。ズサリと崩れて落ちる影霊。そうしてヤツは黒い粒子となり霧散していった。
「──か、カッコいい……」
一切無駄の無い、鮮やかな戦い方。今の戦いだけで分かった。あの人私よりもずっと強い。
「何者なのあの人……」
あんな退魔巫女は知らない。でも着ている装束も、使っている武器も。そして何より……
「あの人、あげはにそっくりじゃないですか?」
「……だよね」
揚羽の言う通り、彼女の顔は私そっくり。ちょっと向かうのが大人っぽい感じ。
大学生くらいだろうか……? あ、でも胸は私のが大きいかも。
「……?」
と、私に似た彼女がこちらを見たような気がした。だがすぐに視線を外す。
「やっぱり、見えて無いのかな」
「みたいですね、存在感なさすぎてシカトされているのかと思いましたけど」
……失礼な。私はそんな影の薄い人間じゃ無いぞ。
そうしているうちに、空の色が元に戻っていく。朧が消えて行くサインだ。
「やれやれ、今日のはとんだ雑魚だったわね」
彼女はそう呟いた。全くもって余裕な雰囲気を感じさせる。
「……ん?」
風が吹き、何かが足元にぶつかった。これはスポーツ新聞の一枚だ。まったく誰が捨てたんだ──
「────え?」
その日付を見て私は驚愕した。だって……
「に、200X年!?」
そこに書かれていたのは、私のいた時代からおおよそ二十年ほど前の日付であった。




