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88話 江戸川の空に⑤

〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「んーっ、きれい……」


 空に打ち上がる、色鮮やかな花々の数々。弾け飛ぶ花の轟音が身体の芯にも響いてくる。


「どうよ揚羽? 綺麗でしょ?」


 私は、この光景を見ているであろう揚羽に聞いてみる。


「……まあまあですね」


 やれやれ、素直じゃないんだからなぁ。


「──あげは」


 と、何故か隣にいる灯が私の手を取り──


「あの花火より、お前の方が綺麗だよ」


「……は?」


 この娘、いったい何を言っちゃってるのだろうか。


「ノリが悪い! そこは照れるとこだろー!」


 今のそういうフリだったのか?


「はぁー、私渾身の口説き文句が通用しないなんてー!」


 私今、灯に口説かれていたのか?


「ふっ、甘いわね灯。マックスコーヒーより甘いわよ。そんなテンプレじゃあげはを落とすことなんてでかないわよ!」


 何故か得意げな様子の雫。


「なんだと! じゃあ雫、お前ならどうするってんだよ」


 灯のその言葉に答えるかの様に、雫は私の頬に手を添えて……


「……」


「……」


 私と雫の間に流れる沈黙。やがて恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、雫は顔を赤くして手を離し目を逸らす。


「……お前が恥ずかしがってどうすんだよ」


 灯のあきれた様なツッコミ。


「ごめん、思った以上に恥ずかしかったわ」


 やれやれ、二人は一体何をしているのやら。


「オホン、みなさんもう少し花々集中したらどうかしら?」


 と、やりとりを見ていた柚子に怒られる。何で私まで……


「────はぁ」


 そんな私たちのやりとりには参加せず、静かな表情で空を見上げる桜子ちゃん。


 その横顔は、とても綺麗で……でも何処か子供っぽくて。一瞬だけ見惚れてしまった。


「……」


 私も空を見る。数えきれないくらいの空の花が打ち上げられている。


 さすが日本屈指の規模を誇るだけあって、スケールが段違いだ。初めて見る桜子ちゃんはさぞ感動している事だろう。


「来年も見れたら……」


 そんな桜子ちゃんの姿を見て私はふと、そう呟いてしまった。私の言葉を聞き雫と灯は黙り込んでしまう。


「どうしたのですか皆さん?」


 その微妙な空気を感じ取ったのか、柚子がそう聞いてきた。


 ……よし、話すならこのタイミングだ。話そう。しっかりと事情を打ち明けよう。


 花火が上がっているこの間の勢いに任せて全てをぶちまけてしまおう。


「柚子、少し話が」


 そうして、私は改めて柚子の方に向き上がる。


「────柚子、もし来年の二月に東京が壊滅するって言ったら信じる?」


 そうして、私はこちらが抱えている事情について包み隠さずに話した。


 私が元は男だった事、そうしてそうなってしまった事情。初めて八年後の東京に迷い込んでしまった時の事。


 未来はどうなっているのか。"滅び"に関連する事情。私たちはそれらについて、未だ掴めていない事が多いという事。


「……」


 柚子は私の話を黙って聞いていた。その様子は、突飛な話を馬鹿にする様な雰囲気では無かった。


「──って事で」


 私はそこで一度言葉を切る。柚子だけではなく灯や雫、桜子ちゃんの様子も確認する。


 灯と雫は柚子と同様。私が説明する事について特に補足や説明などをいれずに黙っていた。


 桜子ちゃんは……ずっと空を見ていた。この娘多分私が今話してるの気がついてないのでは?


「柚子、それとここにはいないけど舞花さんにも伝えてほしい」


「あげは、少し待って貰えるかしら」


 柚子が、何か考え込む様な仕草をとる。


 そうして、再び流れる沈黙。暗がりの空は相変わらず花火の音と輝きが溢れている。


「……やはり、そういう事でしたの」


 と、柚子が短く呟く。


「そういう事って?」


 私がそう聞くが、柚子はそれには応えず──


「南野の家には古来より伝わる様々な書物、資料が残されています」


 雰囲気を切り替えて、そう語り始める柚子。


「お前の家、すげー大邸宅だからなぁ。蔵とかもめっちゃなかったっけ?」


 と、灯。柚子ってそんなに凄い家に住んでいるのか。一度見てみたいけど……


「ええ、かつての北條家程ではありませんが」


 その言葉に若干反応する雫。だが、特に突っかかって行く様子もなさそうだ。


「単刀直入に聞きたいんだけど、"滅び"の事知ってたの?」


 私は柚子にそう聞いてみる。南野家は"滅び"の事を把握していたのだろうか。


「昔、お婆様に少しだけ。退魔巫女は歴史を繰り返す……なんて言葉を聞いた事があります」


 歴史を繰り返す? なんだか妙に引っかかる言い回しだが──


「今考えれば、それがその"滅び"の事を指していたのかも知れません」


 "滅び"は繰り返されていると聞く。その言葉はそういう意味を含んでいたのかな。


「はっきり言います、私は来年の二月にその"滅び"が起きるという事を今知りました」


 ……知らなかった、のか? 南野家も? やはり何かが引っかかる。何故それらの情報が後の世代に伝わっていないのだろうか。


「あげは!」


 そうして、柚子は私の手をスッと握る。


「そして、灯に雫。桜子さんも」


 改まった様子で、私たちに視線を向ける彼女。


「……私はあげはを信じます。この南野家、"滅び"とやらを阻止する為に北條と西嶋と協力体制を取るとここに約束します」



 彼女の静かな言葉。そうして空に幾重もの花が咲き誇る中。家の垣根を越えた協力体制の確立が宣言されたのであった。

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