87話 江戸川の空に④
そうして、新宿を経由して最寄駅である小岩駅に辿り着く。
「おー! こっちこっち!!」
駅前、元気に手を振る灯を見つける。私たち三人は彼女の元に。
「おまたせ」
灯は、彼女から送られてきた自撮り写真まんまの格好をしている。いやはや生で見るとまた……めちゃくちゃ可愛い。
「へー、あげは似合ってんじゃん!」
と、彼女は私の事を見てそう言った。なんだかんだ言っても褒められるのは、やはり嫌ではない。
「灯も」
私も彼女にそう返しておく。
「おっ、桜子もかわいいなあ〜」
「ふふん、当然です」
なんて灯と桜子ちゃんの会話を横目に見つつ、私は辺りを見渡す。まだ柚子は来ていない様だ。
「まだ時間あるし、ちょっとコンビニ行ってくる」
喉が渇いたので何か飲み物。あとお菓子でも買ってこようかなと思い、私はみんなにそう告げてその場を離れる。
駅前はかなりの人がいた。みんな花火大会に行く人たちだろう。私は適当なコンビニを探して中に入る。
「はぁ、どこも人が多いですね。人間というのは何故こうも人混みが好きなんですか?」
フワッと私の隣に現れたロリ姿の揚羽が、呆れる様にそう呟いた。
『別に好きなわけじゃないでしょ』
と、念話で揚羽とたわいもない会話をしつつコンビニの飲み物コーナーへ。
「私だけ買うのもあれだし、みんなの分も買っておくかぁ……」
適当に選んで、レジに行く。
『揚羽って花火見た事ある?』
「……なんですかいきなり」
何故そんな事を聞いてくる? みたいな雰囲気を漂わせる彼女。
『いや、気になって』
「無いですね、少なくとも私の記憶の中では」
なるほど、なら……
「今日はきっと感動すると思うよ」
あえて、言葉を口に出してそう伝えてあげた。
江戸川花火大会は日本屈指の規模を誇る。初めてなら、きっととても感動するだろう。
「期待しておきます」
言葉こそ素っ気ない感じだけど、密かに期待する様なテンションを含ませる揚羽。うん、かわいい。
「おまたせ〜」
飲み物を買った私はみんなの元に戻る。
「遅いですわよあげは」
待ち合わせ場所には柚子もいた、私がコンビニに行ってる間に到着したのだろう。
「……」
彼女の姿を見る、あー……なんか予想してたけど。やっぱ浴衣がお似合いってレベルじゃないなホント。さすが大和撫子。
「──ありがとう」
取り敢えず、良いものを見せてくれたことに対する感謝。
「? 何故私はお礼を言われてるのですか?」
無事に全員合流出来たので、私たちはそのまま江戸川河川敷に向かう。
「なんか、こうしてみんなで花火見に行く事になるなんて思わなかったな」
と、灯が感慨深そうに言ってみせる。
「……ですわね、まあ私はあげはに誘われたからこそ来たわけですが」
何故だかその部分を強調する柚子。
「一年前だったら考えられなかったわね」
雫はそうボソッと呟いた。灯も柚子もその言葉に頷く。
「そんなに仲悪かったんですか?」
と、あまり退魔巫女たちの事情を知らなそうな桜子ちゃん。
「……ん、まあな。色々あってさ」
色々、か。私は私が退魔巫女になる以前のみんなの関係について深く知っているわけじゃない。
それでも、断片的な言動などから察するに。関係は悪かったのだろうと思う。
まず北條&西嶋と南野&東坂の間には大きな確執があった。
その上、雫は南野家が自分達の家を襲撃したと考えているし。彼女に関してはその確執以上の嫌悪感があるのだろう。
また北條家と西嶋家だって。家としては同じ勢力なのかも知れないけど。数ヶ月前までの雫と灯はあまり仲が良さそうな様子ではなかった。
「……複雑すぎぃ」
こうしてみると、色々とややこしすぎだと改めて思う。
「ま、誰かさんが来てからは大分マシになってきたけど」
「そうね、まるで緩衝材みたいな人間だわ"その娘"は」
うんうんと頷き合う灯と雫。いったい誰の事だろうか。
まあ確かに、最近の雫や灯は数ヶ月前の出会ったばかりの頃と比べて、ちょっとはマシになっている様な気もしなくはない。
「ですわね、その方には何というか。人を惹きつけ、結びつける魅力があります」
そこまでベタ惚れされるような人が居るとは。心当たりが思いつかないんだけど。
「私は元々おかしいと思ってましたわ、同じ退魔巫女同士なのに何故いがみ合う必要があるのかと」
凛、とした表情でそう言って見せる柚子。彼女らしい言葉だ。
「……」
その言葉に微妙な表情を浮かべる雫。やはり彼女はまだ南野家が例の事件の黒幕と疑っているのだろうか。
"北條家襲撃事件"、私は柚子がそんな事に関わっているとは思えないが……
確実な、誰もが一眼見てわかるくらいの確証も無いのに、軽々しく否定するのも違うだろう。
"滅び"に関する情報と同時に、その事件についても調査するべきなのかも知れない。
でも雫にその事件を直視させる様な真似は酷か、いやいやでもコソコソ隠れて調査するのも違うような……
「あげは、なに唸ってるんだ?」
「あ、いやなんでもない!」
この件は、あとで真鶴さんと相談してみる事にしよう。




