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86話 江戸川の空に③

「ど、どうですか?」


 真鶴さんによってほぼ強制的に浴衣を着せられたが……どうなんだろう。似合っているか心配になってくる。


「……」


 何故だか押し黙っている真鶴さん。


「な、何か言って下さいよ」


「はっ! ごめん、あげはちゃんが可愛すぎて気が飛びそうになってたわ……!!」


 んな大袈裟な……


「似合ってます、馬子にも衣装ってヤツですね」


 揚羽の声が聞こえる。全く素直に誉めてくれればいいのに。一言余計だぞ!


「私の分の浴衣は!?」


 と、いつの間にか側にいたアリスが叫ぶ。


「はっ! 忘れてたわ! ……ごめんなさい、ダメな大人を許して……」


 しくしくと泣く真鶴さん。そうしてギャーギャーと喚くアリス。


 ってか、浴衣あっても連れて行く気ないぞアリスよ。君をバッグに入れて連れ歩いたら人混みで押し潰されそうだし……


「──それにしても安心しました。てっきり浴衣って下着を着ないものだと」


 なんとなくだけど、そんなイメージがあったから安心した。


「あら? その方がよかったかしら?」


「ないです!」


 どうしてそういう方向になるんですか真鶴さん……


「ふーん、似合ってるじゃない」


 探偵事務所の入口から聞こえる雫の声。私は彼女の方に振り向く。


「……」


 そこには、普段の彼女とはちょっと違った和風美人風の雫がいた。


 涼しい印象を感じさせる寒色系のカラーリングの浴衣。長くて蒼っぽい髪を後ろで纏め普段とは違った、淑やかながら凛々しい印象を感じさせる。


「……何?」


 はっ、ついつい見惚れてしまった。……なんて言ったら確実に得意げな顔されてからかわれそう。


「雫も、すごく綺麗だよ」


 取り敢えず、ものすごく無難な言葉でその場を流しておく事にした。


「あ、ありがとう……」


 あれ、ちょっと照れてる? 可愛いなぁ。


「うんうん、二人とも最高ね。いやはや眼福眼福」


 真鶴さん、女子がそんなオヤジくさい言い回ししないでください。


「──ん? いやいや、ちょっと待ってあげは」


 雫が私の太腿あたりを見て、何かに気がついたようにそう呟く。どうしたのだろうか。


「ちょっと、捲って太腿見せて」


 私は彼女のいう通り捲って太腿を見せてあげた。


「それ付けてくの?」


「それって、これ?」


 私の右腿にはいつものようにガンホルスターが巻かれ、ストライクフェイスとドットサイトでデコレーションしたグロック18C(あいぼう)が格納されている。


「……風情もクソもないわね」


「まあ、何があるか分からないし」


 影霊というのは空気を読んではくれない。花火大会の最中にも何処かに出現する可能性は大だ。


「そうだけど……はぁ、折角の浴衣なのになんだか硝煙の匂いが漂ってきそうね」


 失礼な、私はそんな血生臭い人間じゃないぞ。


「すみません、お待たせしました!」


 と、そこに桜子ちゃんがやってくる。彼女は霧に着付けを手伝ってもらったようだ。


「桜子ちゃん……」


「な、なんですか?」


 彼女もまたなんとも可愛らしい。桜の枝、そうして桜の花弁が舞い散っているデザインが施された浴衣を着ていた。


「……」


 私は無言でサムズアップする。グッドだ、とてもよく似合っている。彼女の名前、雰囲気にぴったりだ。


「あ、やば。そろそろ行かないと! ほら早く出るよ!」


 そろそろ出ないと遅刻だ。


「じゃあ行きます」「行ってきます真鶴さん!」「行ってくるわ」


 私たち三人は真鶴さんにそう言い残して、探偵事務所を出た。




「あげは、向こうをなんて丸め込むのかちゃんと考えたの?」


 事務所から徒歩数分の最寄り駅へ向かう道中。雫がこんな事を聞いてくる。


「丸め込むって……全部素直に話せばわかってくれるって」


「そう、うまくいきますか? 私はそこまで知りませんけど、四家の対立って根深いんですよね?」


 一抹の不安が拭えない様子の桜子ちゃん。


「そうね……アイツらが素直に話に乗ってくれるか」


 その後、駅に着くまで私たち三人の間には、不安からなるなんとも微妙な雰囲気が流れていた。


「あ、灯から連絡」


 スマホを取り出す。いやはや全く、タイミングが読める親友だ。微妙な雰囲気を吹き飛ばすメッセージを期待してスマホを確認した。


「か、かわいい……」


 送られてきたのは彼女の自撮り写真であった。灯も浴衣を着てくるようだ。


 雫とは対照的に明るい暖色系のカラーリングが彼女によく似合っている。


「ほら、二人とも」


 私は雫と桜子ちゃんにその写真を見せてやった。


「はわぁ……かわいい……」


 感嘆の声を漏らす桜子ちゃん。


「浮かれすぎ、単に遊びに行くって訳じゃないのよ。ある意味交渉の場なんだから」


 対して冷静な様子の雫。


「まぁ、そうだけどさ。折角みんなで行くんだから楽しもうよ。もしかしたら来年は──」


 同じ事が出来ないかも知れない。と言いかけたが辞めた。あまりにも縁起が悪すぎる。


「……そうね」


 私の気持ちを察したのか、雫もそれ以上言うことは無かった。


 そうして、最寄り駅に到着。ここからだと新宿まで行ってそこで乗り換えて小岩駅に行けばいいかな。


 電車内は混んでいた、時間帯もあるしチラホラ私たちのような浴衣姿の女の子もいた。多分目的地は同じだろう。


 灯、それから柚子とは小岩駅で待ち合わせする事にしている。残念ながら舞花さんは来れないようだ。


 そうして私たち三人は最寄り駅へと向かう。

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