84話 江戸川の空に①
「……という訳で、来年の二月に起こる危機を回避する為には四家による協力が必須だと考える」
真鶴さんに"滅び"について聞かされた日の翌日。霧の部屋に集合して、みんなでこの先の方針について話し合っていた。
「桜子ちゃん、改めて聞くけど……私たちに協力してくれる?」
私は部屋の隅で居心地悪そうにしている櫻子ちゃんにそう聞いた。
彼女は退魔巫女ではない、影霊使いではあるがある意味"滅び"を防ぐという退魔巫女の使命とは離れた存在にいる。
そんな彼女を巻き込んでもいいものか、私は密かに葛藤していた。
「同じこと聞かないでください。事情を知っているのに、見て見ぬふりなんて出来るわけないじゃないですか」
「……わかった、桜子ちゃん。あなたの力を貸して」
そうして、そのままこの先の方針について話を進める。
「向こうが持っている情報が欲しい」
と、パソコンに向かい何か作業をしていると思われる霧が呟く。
「あっちが何かしらの情報を握っているのは確かだと思う」
「確かに、もし持ってなかったとしてもこの先"滅び"を回避する為には協力関係は取らなきゃダメだよね」
私たちの話を静かに聞く雫。その表情はどこか複雑なモノであった。
「かといって、向こうが素直にオッケーしてくれるかねぇ」
スナック菓子をポリポリと食べながらそんな事を言う灯。
「柚子なら……素直に聞いてくれると思うよ」
そう、舞花さんはちょっとよく分からないけど。柚子ならきっと"家"という垣根を超えて協力してくれるはず……あくまで希望的観測だけど。
「やっぱり、向こうにコンタクト取るのはあげはが一番だな。この中じゃ柚子と仲良いのお前だけだし」
ビシッと、私の事を指さす灯。
「まぁ私は別にいいけど」
自分から名乗り出ようと思ってたし丁度いい。
「決まりだな、じゃあ今連絡とってみろよ」
「い、今から?」
それはまた随分と急な話で。まあでもこういうのは急いだ方がいいか。
私はスマホを取り出す。メッセージを送ろうかと思ったがこういうのは声で話した方がいいと思い彼女に電話をかける。
『もしもし、あげは? どうかしましたか?』
電話越しに聞こえる彼女の声。
「あ、柚子? ごめん急に電話かけて」
『いえ、別に構いませんわ』
……うーん、直接電話してみたはいいけど。なんと切り出せばいいのだろうか。
未来の為に私たちと協力して? いやいやなんというか直接的過ぎるしフワッとし過ぎてる。どうしよう。
『あげは、そういえば数日後に花火大会があるらしいのですけど……』
私が何を話そうか迷っていると、向こうから話を切り出してきた。
数日後……花火大会……もしかして江戸川区でやるヤツだろうか。
隅田川の花火大会と並んで有名なヤツだ。八月第一週の土曜日に開催される大きな花火大会。
「江戸川区の? それがどうか──」
と、そこで私はある案を思いついた。
「──みんなで行かない?」
やはり、こういう真剣な話は面と向かって話した方がいいだろう。そこで私はその花火大会を利用する事にした。
灯と雫。霧は……多分無理か。あと桜子ちゃん。向こうは柚子と、後出来れば舞花さんにも来て欲しいけど厳しいかなぁ。あの人忙しそうだし。
『私もそう言おうと思ってました……本音を言えば二人で……あ、いえ何でもありません!』
よく分からないが、オーケーという事だろう。
「あと、大事な話があるから」
『……ええ、わかりましたわ』
暫く間が空き、柚子がそう答えた。この間は果たしてどういう意味合いの物なのだろうか。
南野家と東坂家は果たしてこれから先に起こる事についてどれだけ把握しているのか。そうしてこの先ガッチリと協力体制をとる事が出来るのか。
ある意味かなり重要な分岐点になるかもしれない。
「じゃ、待ち合わせ場所とかは後で送るから」
『わかりましたわ』
そうして通話を終える。
「という事で、花火大会行く事になったから」
私は、通話を聞いていたみんなにそう報告をする。
「どういう流れ?」
不思議そうな顔をする灯、私は思惑について軽く説明する。
「……なるほど、たしかにこういうのは全員揃って面と向かって話した方が良い……」
と、霧。彼女も俺と同じ考えなようだ。
「はぁ、勝手に予定決めないでほしいんだけど」
「雫、どうせお前は暇だろ。ずっとエアコンのかかった部屋に引きこもって」
灯の言う通りだ、ちょっとは外に出た方がいいよ雫……
「桜子ちゃんも、ついてきてくれる」
「……」
何故か無言の桜子ちゃん。もしかして嫌だったのだろうか。
「桜子ちゃん?」
「は、いえ! その……決して東京の"花火大会"という響きに感動していたわけじゃ──」
花火大会に都会も田舎もあまり関係ないような気がするんだけど……まあ、乗り気なようだしいいか。
「決まりだな、ま。ウチらあんま夏らしい事楽しめてないし。ついでに花火大会も楽しもうぜ」
「だね、じゃあみんな土曜はよろしく」
そうして、ある意味東京の未来を決めるかもしれない夏の一大イベントが決まったのであった。




