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83話 夏は続く③

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ここに居たのか」


 背後から聞こえる灯の声。


「……ん」


 その問いかけに短く答える。私は沖宮ビルの屋上からボーッと外の光景を眺めていた。


「……はぁ」


 思わずため息が出てしまった。何というか今の気持ちはかなりブルーだ。


「まぁ、そうなる気持ちもわからなくもないわ」


 灯が私の隣に来る、彼女の声のトーンも少し低めだった。先程真鶴さんから聞いた話が堪えてるのだろう。


「なんてういか、スケールがね」


 予想していた話よりもかなりスケールの大きな話だった。


「だなぁ」


 示された"未来予測計画"の概要、あの計画は元々国立影霊研究所において進められていた研究の一つであるらしい。


「繰り返される滅び、か……」


 国立影霊研究所は、古い時代の文献を調査している際。ある書物を発見した。


 その名は"国乃巫女調記"、おおよそ平安時代末期に書かれた書物である。


「平安時代ねぇ、気が遠くなるわ」


 今から千年以上前の話だ、その書物にはある種それ以降の時代の予言のようなものが書かれていた。


 その時代以降、日本という国が歩んできた道。それらが大まかに記載されたその書物には"滅び"という単語が何度か登場する。


 国立影霊研究所は、その滅びが影霊によって引き起こされ。現実世界に大厄災をもたらすものであると結論を出したとの事。


「"滅び"が起きそうになる度に、退魔巫女が"ある手段"を使ってそれを回避してきた……か……」


 そうして、その書物には"滅び"は退魔巫女により打ち払われると記されている。


 この千年以上で幾度となく発生してきた"滅び"の未遂事件。そうして──


「で、一番最後に書かれてる"滅び"のタイミングが来年っと」


 最後に発生した"滅び"。そうしてその次に滅びが訪れるのが丁度来年。


「──ダメだ、スケールが大き過ぎて混乱してきた」


 灯に同意だ。歴史の教科書に出てきた様な出来事に、まさか退魔巫女や影霊が関わってくるとは思いもしなかった。


「ってか、もうその"二月"まで六ヶ月も無いんだよね……」


 今は八月半ば、おそらくその滅びが訪れると考えられる来年の二月まで半年を切っている。


「結局、その研究所も手段を回避する方法見つけられなかったんだろ?」


 そう、国立影霊研究所は滅びを回避する"手段"について断定できなかったらしい。


 いくら調査しても、その手段というものの手掛かりが一切残っていないとの事。


「なんだか不思議な話だな、そんな一大事なのに肝心な方法がわからんなんて」


「天空橋は影霊を使って何かしようとしてるみたいだけどね」


 おそらく、彼女は"滅び"を回避するなんらかの方法を考えついたのだろう。それが彼女のいう"混沌の姫"に関係するのだと思う。


「……私らがなんとかしなきゃならないんだよな」


「でしょ、それが使命なんだろうから」


 とは言ってみせたものの。果たして何をどうすれば良いのか私にはさっぱりわからなかった。


「ご先祖様に聞いてみたいね、どうやって滅びを防いだんですか? って」


「それが出来りゃ苦労しないでしょ……」


 でも"聞いてみる"か──


「ご先祖様達は何か残してくれてないの? それこそ国乃巫女調記みたいな書物とか」


 そんな大事なら、教訓を覚書として後世に残してくれてはいないだろうか。


「どうだろう、でもまあ少なくとも北條の家にはそういうのは無さそうだな……ほら、あんな事あったし……」


 そうか、北條家は例の事件で……なら恐らく何も残ってはいないだろう。


「灯の家は?」


 灯の家、西嶋家はどうだろうか。


「どうかな。ウチの家ってさ、古いもんとか全然残ってないし、ちゃんと調査してみないと分からんけど」


 西嶋家もなにやら事情がある様子だ。


 北條と西嶋に"滅び"というのが伝わっていなかったのはやはりそれぞれの家の事情のせいなのだろうか。それにしては何か違和感の様な物もあるが。


 となると後は……


「柚子と舞花さんの家か」


 残りの二家、南野と東坂の家には何か残っていないのだろうか。


「特に南野は古いもんとか溜め込んでそうな家に住んでるからなぁ」


 と、灯は思い出した様にそう呟いた。

 

「でも、アイツらがウチらと手を組んでくれるかなぁ」


「それは……」


 確かにこの二勢力の間には強烈な確執がある。でも──


「日本、いや世界の危機かもしれないのにそんなくだらない諍いしてる場合じゃ無いでしょ」


 この期に及んでまだ"お前らは敵だから協力なんかしねーよ"なんて言う奴がいたらぶん殴ってやりたい。


 それに柚子はそんな人間ではないはず。今の南野家トップの彼女ならわかってくれる……と思うはず。


「だな、ともかくあっちと連携しないと話にならんよな」


 そうして、灯は私に背を向け屋上から出て行こうとする。


「どこいくの?」


「一階の紫電さんの店、ややこしい話で疲れちまったから。あげはも行こうぜ? 奢るぞ?」


「……灯、さっきケーキ食べてたでしょ」


 でも、こういう時は確かに甘い物に限る。


「おススメある?」


「あぁ、それなら──」


 まずはともかく糖分補給……かな。

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