82話 夏は続く②
「あげはちゃん、ちょっといいかしら」
バイトを終え、二階の探偵事務所に戻ると真鶴さんにそう声をかけられた。
「何ですか?」
「この前潜入した"湾岸プラント"の捜査が一通り終わったから、一応みんなにも報告したくて。雫ちゃんも呼んできてもらえるかしら?」
湾岸プラント、この前みんなで潜入調査を行った場所だ。天空橋明乃率いる謎の組織の拠点の一つでもある。
「わかりました」
私は雫の部屋に、ドアの前に立ちノックをする。
「雫〜? いる?」
私がそう声をかけるとドアが開かれ雫が顔をだす。
「なに?」
「真鶴さんが話あるって、ほらこの前の」
それだけ伝えると、雫は「あぁ……」と面倒くさそうな様子で部屋を出てくる。
そうして、私と雫は真鶴さんの元に戻った。
「連れてきました」
事務所に戻ると、桜子ちゃんがいた。
「遅いです」
「ごめん、この娘が中々部屋から出てこなくてさぁ」
私たちは応接用ソファーに座る。テーブルにはトキを模したと思われる置物が置かれていた。
「……霧はどうせ会話聞いてるからいいですけど、灯は呼ばなくても良いんですか?」
灯もあの潜入調査に参加した訳だし。報告を聞くなら一緒の方が良いような気がする。
「あの娘も呼んだわ、そろそろ来るはずだと思うけど」
呼んであるのか、リモートでも良さそうな気もするけど……まあこういう大事な話は直接の方が良いか。
と、その時。まるで見計らったかのようなタイミングで事務所のインターホンが鳴る。
ソファーから立ち上がって私が出迎える。
「いらっしゃい、会話聞いてた?」
タイミングがドンピシャ過ぎる。
「……? 何の話だよ」
「じゃ、みんな揃ったとこで話を始めるわね」
改めて、話を仕切り直す真鶴さん。テーブルの上にはいつの間にか用意されていたケーキが三つ。
「結局、アイツの行方はわからないのか?」
と、灯がケーキの乗ったお皿を手に取りそう聞く。アイツというのは勿論"天空橋明乃"の事だろう。
「今ウチで行方を追ってるけど、中々厳しいわね」
真鶴さんはそう答える。
「お台場でヤツが出てきた時も、幻みたいに消えやがって……どんな幻術使ってんだか」
湾岸プラントの時も、お台場の時も。まるで煙のようにあの人は消えていった。
『幻術というより、魔術と言った方が良いかな』
テーブルに置かれているトキの置物から聞こえる霧の声。
「魔術、ねぇ……」
確か、ロンドンに出現する影霊は魔術が使えるんだっけ。
「天空橋は世界中あらゆる地域の影霊の分析を行なっていた、彼女が何らかの方法で影霊の力を使い魔術を使いこなしている可能性は高いわ」
それを聞くと、なんだかとんでもないなあの人。もう人間辞めてたりするのだろうか。
「……そうだ、聞きたかったんですけど」
と、私はあの湾岸プラントで拾ったファイルの事を思い出す。
「未来予測計画ってなんなんですか?」
「なんだそれ?」
灯が頭に「?」を浮かべたかのような反応をする。私はみんなにその名前が書かれたファイルを拾った事を説明した。
「ふーん、そんなものが……で、真鶴さん。それの詳細は?」
灯がそう真鶴さんに尋ねた、すると真鶴さんは何か難しそうな表情をする。
「天空橋は、どうやら"二月"に何か変化が起きる事を知っていたみたいね」
二月というのは……あれか、来年の二月。
「私が未来の灯から聞いた、世界に変化が起きるタイミングですよね?」
「そうね、天空橋はそれを回避する方法を探っているみたい」
やはり、あの人も破滅の未来を変えようとしているのか。でもその為に……非道な実験をしている。
なんだか複雑だ。目的は同じ筈なのにあの人とは分かり合えないのだろうか。
「……真鶴、他にも何かあるでしょ?」
と、そこで今まで黙っていた雫が口を開く。
「…………雫ちゃんには隠し事出来ないわね」
真鶴さんは椅子を回して私たちに背を向ける。
「隠し事はよくないぞ」
ケーキを食べ終えた灯が、テーブルに皿を戻して真鶴さんにそう言ってみせる。
「真鶴さん、私気になってたんです」
私も真鶴さんに問いかける、感じていた疑問を。
「天空橋は『国から引き継いだプロジェクト』って言ってました、つまり……未来予測計画というのは元々国が関わっていたものなんじゃないですか?」
あの時、地下で彼女に邂逅した時。天空橋はこんな事を言っていた。
『それに僕は国のプロジェクトを引き継いでるだけだしさぁ』
あの言葉がずっと引っかかっていた。もしかして……あの非人道的な実験は国が関わっているものなのではないだろうかと。
「……大人が犯した罪を、あなた達みたいな娘に背負わせる訳には──」
「真鶴!!!」
雫がガタっと立ち上がる。
「ちゃんと話して、私たち仲間でしょ?」
珍しく、感情的になる雫。だが……ここは彼女に同意だ。
「そうです、私だって……まだ三ヶ月くらいしかここに居ないですけど。でも一緒に影霊退治の為に駆け回って」
雫ほど、真鶴さんと一緒にいる訳ではないが。それでもこんな隠し事をされるのは嫌だ。
「私もちゃんと聞きたい。隠し事なんてらしくないぞ〜」
「私も、本当のことを聞きたいです」
私たちの言葉に同意する灯と桜子ちゃん。
「……わかった、話すわ。ずっと隠してて……ごめんなさい」




