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78話 ロウとカオス

「アナタは私がその混沌の姫と言いましたね、一体何なんですかそれ」


「その話する前にさ、ちょっと影霊について語らない?」


 影霊? 混沌の姫と関係があるのだろうか。


「あげはちゃんはさ、影霊って一体何だと思う?」


 なんだか随分と抽象的な問いかけだ、何だと言われても──


「人の影響を受けてる怪物、朧が奴らの住処……くらいしか私には」


「うーん、その答えだと五十点くらいかな」


 ……いちいちイラつく人だ。


「アナタは国立超常生物研究所にいたんですよね、そこで影霊研究をしていたとか」


 ならば逆に私が聞きたい。


「影霊って何なんですか?」


 私がそう聞くと、天空橋明乃は待ってましたかと言わわばかりに語り始めた。


「私はさ、影霊ってのは人の可能性だと思う」


 可能性? どういう意味なのだろうか。


「影霊ってのはそれこそ原始時代から存在したんだよ」


「原始時代、ですか」


 なんだな随分と気が遠くなるような話だ。


「人間の歴史の中に影霊あり、影霊ってのは人間の裏の側面なんだ」


 裏の側面か、影霊が人間の影響をモロに受けているのは知っていたけど……


「人をコップに例えてみようか、コップにどんどん憎悪や嫉妬、そういう"液体"を注いでいく」


 天空橋明乃はショッピングモールにある人達を眺めながら話を続ける。


「どんどん注ぎ続けたらやがて、許容限界を超えて溢れ出してしまう」


「──それが影霊だと?」


 なんとなく言っている事はわかるけど……


「影霊とはよく言ったものだね、奴らはまさに人間の(ファントム)だよ。混沌を愛し、束縛を嫌う」


 確かに彼らは、人間の影そのものなのかもしれない。


「いわば彼らは人間のカオスの側面の象徴という事だね」


「それで結局、影霊と混沌の姫になんの関係が?」


 私が知りたいのは"混沌の姫"についてだ。


「四つ結び、月夜に浮かぶ、唄月華、影霊どもの、饗宴の儀……」


「は?」


 いきなり短歌を詠み出したぞこの人。


「聞いた事ない? それならもう少し四家の事を調べてみたほうがいいかな」


「四家、ですか」


 ……確かに、退魔巫女の歴史というものについて今まで本気で調べてみた事は無かった。


「影霊が人間のカオスの側面だとしたら、姫神はその逆。彼女たちは人間のロウの部分になるのかな」


「姫神も人間と関係が?」


 姫神も人間から生み出されたとでも言いたいのだろうか。


「そ、あの娘たちもね。人の正義感や信念や愛情。影霊とは反対のプラスの感情から溢れ出た存在の化身」


『……だって、そうなの揚羽?』


 脳内で揚羽に問いかける。


『さぁ? 私にはよくわからないです』


 ……やれやれ、適当な姫神だなぁ。


「……単語からするに、混沌の姫は影霊側の存在という事ですか?」


 カオス、そして影霊。今までの話からして混沌の姫とは無関係とはとても思えない。


「私はその"混沌の姫"こそが未来を救う鍵だと思ってる」


 そ、そこで言葉を切りあたりを見渡す天空橋明乃。


「どうかしましたか?」


「やれやれ、余計なのが来ちゃったね」


 余計なのがって……


「あげは!」


 そこに、聞き慣れたよく知る女の子の声が聞こえる。


「あ、灯……!」


 私の隣に駆け寄ってくる灯。


「てめえ! なんでこんな場所に!」


 天空橋明乃に向かい、敵意むき出しなテンションでそう問いかける彼女。


「はぁ、私も嫌われたものだなぁ」


 と、少し悲しそうな様子の天空橋明乃。


「大人しくお縄に──ッ!?」


 何かを感じ取ったようなリアクションを取る灯、私も今感じた、この気配は──


 バッグの中に入れていた携帯がピピピピピ……という音を鳴らす。取り出して確認してみると霧から影霊出現のメッセージが。


「ったく、空気読めねぇヤツらだな! いいか、そこを動かな……って居ねえ!?」


 驚愕する灯。私もスマホから視線を外しあたりを確認するが……天空橋明乃は煙のように姿を消していた。


「ちっ、もしかしてまた幻影だったのか?」


「かもね……今はとにかく現場に向かおう!」


 仕方ない、今は影霊を優先すべきだろう。


「つーか、すぐ近くだなこれ。狙ったみたいに」


 狙ったみたい、まさかとは思うけど……


「あの人が何か仕掛けたのかな?」


 影霊のスペシャリストである天空橋明乃なら、もしかしてそういうのを仕掛ける事も可能なのかも。


「わからん、とにかくいくぞ!」


 そうして、私と灯は駆け出す。雫や桜子ちゃんにも連絡は入っているだろう、二人とは向こうで合流しよう。



 影霊が出現したのはここから程近く。お台場海浜公園だった。


 お台場の通りを駆ける、途中朧に突入した感覚を感じた。人は消え空が赤い……お馴染みの光景が広がってくる。


 そうしてお台場海浜公園、海岸部の砂浜に到着。


「──来な! 火狐(コン)!」


「来て! 揚羽!!」


 灯と私の序詞が重なる。溢れる柔らかな光、そうして私たちは退魔巫女へと変身。


「霧、敵は?」


 灯が霧に敵の詳細を聞く。


『もう少し待って、なんか──めちゃくちゃ反応がある』


「めちゃくちゃ? またこの前みたいにやたら数多い感じが……?」


 一体、どんな影霊が待ち受けているのだろうか……?

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