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73話 そして夏休み

「……んっ」


 徐々に意識がはっきりしてくる、何処からか聞こえてくる蝉の音。朝から元気なものだ……


 枕元にあるスマホを取り時刻を確認──


「……っえ! ち、遅刻!」


 慌ててベッドから飛び起きる。


「あ、今日から夏休みだっけ。焦ったぁ」


 あー……心臓に悪い。



 湾岸プラントへの潜入調査から数日、いよいよ高校生活初めての夏休みがやってきた。


「──と言っても、特にする事ないけど」


 スマホ放り投げて、再びベッドにダイブする。こういう時は二度寝するに限る。


 期末試験は、ギリギリ全教科赤点回避。これで補修漬けの夏休みはなんとか回避ができた。


「ふわぁ……」


 大きなあくびが漏れてしまう、瞼も重くなってきた。そうしてうとうと気持ちいい眠りの中に…………



 ピピピピ……!



 ベッドに放り投げて足元の辺りに転がっていたスマホから聞こえる音、あぁ……影霊は寝かせてくれないのね。



〜〜〜〜〜〜〜〜



「っし、これで最後?」


 手にしていたグロック18Cを太腿のホルスターにしまう。


 そうして私の周りにふわふわと飛んでいた三枚の手裏剣を、刃を格納した状態で手のひらの上に。


 ガチャンガチャンと落ちてくる手裏剣、私はそれを念じて一つにまとめ、胸元にパチンと付け直した。


「やたら数が多かったわね……」


 薙刀を持った雫が「ようやく終わった……」みたいな雰囲気でそう呟いた。


 今日の相手は戦国時代の足軽のような装いをした百体以上のガイコツ人間たちであった。


 数は多かったが、一体一体は物凄く雑魚だったので苦戦することもなかった。


「──名付けるなら、スケルトン足軽」


「何の話?」


 ギャグも滑ったところで、私は灯の姿が見えないのに気がつく。


「灯、何処まで行ったんだろう?」


 なんか色々と追いかけ回して、気が付けば私達の視界からいなくなっていた。


「さぁ?」


 と、その時。スタッと私たちの目の前に灯が現れる。側のビルから降りてきた様だ。


「何処行ってたの?」


「いや、ほら桜子が心配でさ」


 そう返答する灯。


「あいつすぐ単独行動しがちじゃん?」


 桜子ちゃんはいつも私たちとは少し距離を置いて戦っている様な気がする。


「まあ、一人でもなんも問題なさそうだけどな」


 灯の言う通り。彼女は日本唯一の影霊使いなら恥じぬ戦いっぷりを披露してみせる。


 相棒であるタロウとともに、持ち前の射撃技術と。何処で教わったのか規律の取れた丁寧な刀捌き。


 正直言って私たちが心配するレベルじゃないくらいは戦えてる。


「何かあったら霧もあるし」


 とはいえ、いつも単独行動なのは流石に心配になる。何かあったら霧が伝えてくれるようにはなっている。


「ってか、終わったら先に帰っちまったよあいつ」


 なんだか、桜子ちゃんはとことん私たちから距離を置いている様な気がする。


「なんというか、全然打ち解けてくれないね」


 歩きながら彼女の話を続ける。


 一人でいたがってる娘を無理矢理私たちの輪の中に入れようとするのは、それはちょっと違うと思うけど。


 それでも、なんだか今の状況はあまりよろしいモノでもない様な気がする。


「な、同類としてどう思うよ雫」


 と、灯。


「……どういう意味それ」


「いやぁ、だって桜子ってまんまミニ雫みたいな感じだしなぁ。今は大人しいけどあげはが来る前とかホントあんな感じだったぞ?」


『言えてる、雫ちゃんも昔は狂犬だった』


 側で飛んでいる使い魔(ドローン)でこの会話を聞いているであろう霧からも同意の言葉が出てきた。


「そんな凄かったの?」


 私がそう聞くと灯は懐かしそうな口調で「いやー、あの頃は凄かった!」と言ってみせる。


「入学式の次の日、クラスのほぼ全員と口論になってなぁ。どんどんと言い負かしてクラスの連中を泣かせてたぞ」


 武勇伝を語るが如く、大袈裟なリアクションでそう語る灯。


「灯! それから霧姉も余計なこと言わない!!」


 やたら恥ずかしそうにする雫。その頃の事は黒歴史なのだろうか。


「──ってかなんの話だっけ」


 気が付けば、朧から現に出ていた。気がつかれない様にすぐ側にあった目立たないコンビニの陰に隠れ変身を解く。


「桜子ちゃんの話でしょ……ってか暑い」


 ジリジリと照りつける夏の日差し、朧はそこまででもないのに現実世界は酷暑だな……


 暑いし喉も乾いたので側のコンビニに寄ることにした。その間も私たちは桜子ちゃんについて話す。


「なんとか距離を縮める方法ないのか?」


 灯が、ガラスケース越しアイスを吟味しながらそう呟く。


「どうだろう、一緒に何処か遊びに行こう、とか誘ってみる?」


 実際、私はそれで柚子とはだいぶ距離が縮まった様な気がする。


 一緒に楽しい時間を共有すると人の仲というのは随分と良くなるモノだろう。ただ──


「あいつがそれに乗ってくれるかねぇ」


 ケースを開け、カップのバニラアイスを取り出した灯。私は同じシリーズの抹茶味を選んだ。


「……どうだろう」


 そういうの一緒に行ってくれるタイプなのかなぁ、誘っても断られそう。


「誘うだけならいいんじゃない」


 ペットボトルの炭酸飲料を持った雫が私たちの元にやってきて会話に混ざる。


「だな、あげは。場所考えて誘っておけよ〜」


「わ、私に丸投げですか……!?」

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