7話 翡翠
「ふ、影霊? どこにいるんだよそんなの」
というより……この時代にもいるのか?
「とにかく、向こうの裏路地に行ってみましょう」
そうして真鶴さんはスタスタと歩いて行った、私と雫もそれに続く。それにしても……
私はチラリと先を行く雫を見る。彼女からは……物凄いプレッシャーの様な感覚を覚える。いや、確かに近寄り難そうな女の子なんだけど、単純にそれだけじゃなくて。
「……!?」
と、一瞬何か彼女の背後にボーッと……気のせいか?
「……何?」
私の視線に気が付いたのか、雫はこちらを振り返る。
「あ、いやなんでも」
その時、何か彼女の耳元がきららと光った様な気がした。あれは……イヤリングだろうか?
「うーん、この娘どうも雫の事ばっか見てるね〜、もしかして一目惚れしちゃった?」
!? 今何か聞こえた……!
「えっと……雫さん何か言った?」
「……あなた、聞こえるの?」
聞こえる? どういう事なのか……
「やっほー!」
そうして、雫の背後にゆらゆらと何かが揺めき……次第ににはっきりとしていった。
「と、どちら様!?」
空中に浮かぶ様にしてこちらを見ている少女……なんだ、幽霊!?
「この娘、私が見えるみたいね〜」
鮮やかな水色とオレンジの和服の様なモノを纏っている少女は面白そうにそう呟いた。
「二人とも何してるのー? 早く行くわよ!」
と、そこに沖宮さんの声。
「……あれ?」
気がつけば少女は居なくなっていた。夢でも見てたのか私。
「いま行く」
そうクールに答えた雫は私の事など気にも留めない様子で背を向けてさっさと路地の奥へと進んでいった。
「なんだったんだホント……」
気にはなる……いや、気になりすぎるけど。今しつこく追求すると怒られそうなので一旦スルーしておこう。
そうして、私も二人について行く。
「……この路地、長すぎね?」
おかしい、進んでも進んでもどこか大きな通りに出る様子もないというか……
「もうここは現じゃないから」
「え、うつ……なに?」
聞き慣れない単語だ。一体どういう意味……
「な……!」
ふと空を見る、空が茜色に染まっていた。夕暮れ……? いや、まだお昼時だぞ……
私はその茜色がなんとなく未来の東京で見た真っ赤な空と被って見えてしまい恐怖を覚えた。
そうして、さらに歩みを進めると少し広めの空き地の様な空間に出た。
「ここね、反応は」
沖宮さんは手に持っている端末を確認しながらそう呟いた。
「あの……一体何が……?」
「すぐに分かるわ、アナタは危ないから陰に隠れてて」
雫がそう返してくる。取り敢えず私と沖宮さんは少し離れた場所、ブロック塀の陰に隠れた。
「あ、そうだ。はいこれ、大丈夫だと思うけど一応渡しておくわね」
そうして、沖宮さんは手に持っていたケースから何かを取り出した。
「えっと……モデルガン?」
渡されたのは黒く冷たい輝きを持ったハンドガンであった。
多少FPS知識があるので銃の名前くらいはわかる。多分これははグロック、それも後ろの方にセレクターがついているのでフルオート機構がついている18Cであろうか。
すごくリアルだけど、まあ勿論本物じゃないと思う。
「なんでこんなモノ?」
「自分の身は自分で守ってね♡」
と、その時だった。突如辺り一面に耳鳴りの様な不快な音が鳴り響く。
「な、何これ……」
思わず耳を押さえてしまう。
「現れたみたいね」
沖宮さんは不協和音を気にもとめない様子でそう言った。しばらくすると音は鳴り止む。
「……あ、あれは」
少し遠く、雫と対峙するかの様に現れた謎の存在。ローブを深く被った……人? それにしては大きすぎる。多分目算三メートルくらいあるぞ……
「もしかして……」
私の直感が囁く。あれからは未来で戦った土人形の様な雰囲気を感じる。
「そう、影霊よ」
あれが……
「クラス丙型ね、大した影霊じゃないわ。解析ありがと」
と、沖宮さんは端末に向かって話しかけている。誰かと通話しているのかな?
私は陰から様子を伺う。
「北條家十五代目退魔巫女。北條雫、参る!!」
と、名乗りを上げる雫。
そうして……影霊が雫に向かって動き出した。大きく爪のようなものを振りかぶり襲いかかる。
雫はそれを余裕でかわす。そうしていつの間にか持っていた薙刀を下方から上に向け振り上げる。
「オォォォ……!」
大きな悲鳴をあげる影霊。奴の右腕が切り落とされ地面に落ちる前に霧となって消えた。
「す、すごい……」
あまりにも華麗で優雅な動き。すごいとしか言いようがない。
だが、影霊も諦め逃げる様子はなかった。再び雫に残った左手で攻撃を仕掛ける。
それをバックステップで躱した雫。綺麗に着地をした雫は攻撃が空振りに終わり体勢を崩した影霊に向かい跳躍。
そうして。空から一閃。
哀れなり、影霊は真っ二つ。まさしく完璧としか言いようがない戦い方であった。
「終わった……?」
辺りは静けさに包まれていた。周辺に漂っていた重苦しい雰囲気はもうない。
「影霊の反応なし……もう大丈夫みたいね」
沖宮さんがそう呟く、私はブロック塀の陰から出る。
「あれが……対魔巫女」
霧散する影霊の残骸をつまらなそうに見つめる雫。心なしか彼女のクールな印象が増した様な気がした。




