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69話 鬼退治

 薄暗かった地下空間が照明によって照らされる。


「あれは……」


 そうして、先程まで天空橋明乃が立っていた場所に展開される魔法陣のようなサークル。


 肌を突き刺すような感覚が走る。


『来る』


 霧の静かな呟き。そうして──魔法陣によって召喚されるかのようにゆらりと自らの巨体を誇示するかのように一体の大きな影霊が出現した。


「でか……」


 そいつ……まるで昔話に出てくる赤鬼のような出立ちをした影霊が勢い良く大きな咆哮を上げる。


「なんだ? 鬼退治でもさせようってのか?」


 灯が面白そうにそう言ってみせる。


『ただの鬼じゃないよ〜、その子はちょっと特別な強化をしてあってね』


 天空橋明乃の声が地下空間内に響き渡る。


「……強化?」


 そんな事が可能なのだろうか、一体ここでどんな研究をしていたんだ……?


『そこの子はね、新鮮な魂を喰らってるんだよ』


「は?」


 ヤツは一体何を言っているのだろうか。


「アンタまさか……!」


 何か心当たりがあるような真鶴さん。


『その通り。まあこの子は失敗作だけどね……じゃ、やっちゃって』


「オオオオオォォォォォォォォオ!!!」


 赤鬼が再度咆哮を上げて、手に持っている棍棒を振り回しながらこちらに突っ込んでくる。


「ちっ、とっとと退治するぞあげは!」


 そう言って、灯は序詞を詠唱し退魔巫女の姿に。


「真鶴さんは下がっててください!」


 私と灯が前に出る。私はVz61の銃口を向け弾をばら撒く。


「──っあ! 催眠弾のままだ……!」


 と、1マガジンを空にしてから今更ながら気がつく。赤鬼に撃ち込まれる催眠弾……だが効いてる様子はなかった。


「銃なんて使ってるから!」


 灯が赤鬼の方に真っ正面に駆け出す、振り下ろされた棍棒をジャンプで軽々と躱して背後に回る彼女。


 私はその間にバッグを漁り、別に用意されていた退魔弾入りのマガジンを取り出して交換する。


 アラハバキの力を借り、レーザーで仕留めることも考えたが、威力が抑えづらいし使うと暫く行動できない、ここは温存することにした。


「そりゃっ……!!」


 私がもたもたしてる間に灯は既に赤鬼に一太刀を入れていた。


「はぁ、中々しぶとそうだな」


 私の隣にスタッと戻ってきた灯がそう呟く。赤鬼は背中に一閃、切り傷を入れられ怒りに呻いていた。


「筋肉すごそうだしね」


 あの赤鬼、めちゃくちゃムキムキだし。


 そんな会話をしているうちに、赤鬼が三度、大きな咆哮を発した。まったく喧しい影霊だ。


「はっ、なら一気に決めてやるまでだ」


 そうして、灯は腰の鞘に紅く煌めく刀をしまう。瞬間、ブワッとした火の粉が辺りにバチバチと揺らめく。


「下がってなあげは」


 私は言われた通り距離を取る。再度こちらにズシンズシンと大袈裟な足音を立てて向かってくる赤鬼。


「──西嶋流抜刀術、焔参型」


 払われる刃先、一閃が地下空間に走る。


 赤鬼の胴体に走る紅く光る線のような傷。そうしてヤツは後ろに大きな音を立てながらバタンと倒れ込んだ。


『──やったか?』


 天空橋明乃の声が響き渡る。って敵がそれを言わないで欲しいんですけど……


『……やってないみたいだね』


 と、霧。紅い傷を受けて倒れた赤鬼は、何事もなかったかのように立ち上がる。


『残念だったねー、やれてなくて。この子はね、普通の影霊と比べてかなり頑丈なんだよ』


 一体何が面白いのだろうか。愉快そうな口調の天空橋明乃。


 それよりも。普通の影霊と比べて、か……


「それは……さっき言ってた魂を喰らってるとかなんとかと関係があるんですか?」


 さっきからそれがずっと気になっていた。あれはどういう意味なんだろうか。


『大有り、この実験台にはね、五人くらいの人を喰わせてるんだよ』


「……は?」


 一体何を言ってるのだろうか、人を喰わせてるとは何かの比喩表現なのだろうか。


『人を喰らった影霊はその魂を取り込み、強力な個体へと成長できる。理論としては随分昔からあったんだけどね』


 自らの研究成果を誇示するように自慢げにそう呟く彼女。


 そこでようやく私は天空橋明乃がどういう人物なのかを理解した。あぁ、この人ってそういうタイプの人間なんだと。


「ちっ、ありえねぇだろ胸糞悪りぃ……」


 心底気分が悪そうにそう吐き捨てる灯。


「一応聞きますけど、喰わせたってそういう意味なんですか?」


 私は何処にいるかもわからない天空橋明乃に向かってそう問いかける。


『あ、安心してね。グロテスクにムシャムシャと生々しい感じの話じゃないから。ちょーっと死にたがってるバカを集めてね、ちょちょいのちょいって感じ』


 ……一体何が面白いのだろうか、私には到底理解できなかった。


『どうやら想像以上にエグい実験してたみたいだね、この人』


 霧がそう呟く。


「ホント、想像以上の悪党だなアンタ……!!」


 怒り満ちた声色でそう叫ぶ灯。二人のいう通り、彼女予想以上にヤバい人間だった。


『あれー? なんで僕が責められなきゃいけないのかな、死にたがってる自殺志願者の命を有効活用してあげただけじゃん』


 自分の正当性を主張する彼女。


『それに僕は国のプロジェクトを引き継いでるだけだしさぁ』

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