63話 夏休み……の前に
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「終わった……ようやく終わった……!」
開放感から思わず机に突っ伏してしまう私。過酷な期末試験を乗り切り、モヤモヤとした気持ちがようやく晴れた気分だった。
「そんな嬉しそうって事は、結構出来たのか?」
と、隣の席にいる灯が声をかけてくる。
「────聞くな! 赤点は回避できてると思うけど」
おそらく決していい点数と言えるものではないだろう。
「まー、終わったものを嘆いても仕方ない仕方ない」
対して、余裕そうな雰囲気を崩さない灯、どうやら彼女は楽勝だったみたいだ。
「おーい雫ぅー!」
灯が、少し離れた席にいる雫に向かって手を振る。
「……何」
こちらの方にやってくる雫、ちなみに彼女はちゃんと教室で試験を受けた。
「何じゃねーよ、ほら! 夏休みー!!」
子供か! というくらい騒いでみせる彼女。
「はしゃぐのもいいけど、その前の"仕事"を忘れてないかしら」
腕を組み、あくまで冷静な声色でそう呟く雫。
「あー……そうだったな」
急に現実に引き戻されたかのように大人しくなる灯。仕事……私も無関係な話ではない。
ここ一週間ほど、霧と真鶴さんの調査で"組織"の全容が掴めつつあった。
そこで、私たち退魔巫女の出番だ。拠点の一つと見られる場所への潜入調査を行う事にした。
かなり危なげな話でもあるが、霧曰く内部には影霊の反応も多数確認されているらしい。なので私たちが出向くしかない。
「いざという時の保険も用意してあるから、安心して潜入していいわよ〜」
と、真鶴さん。保険というのが気になる。一体どんな手を用意しているのだろうか。
私はチラリとスクールバッグに入れてある、ある箱に視線を向ける。今朝になって紫電さんに渡されたものだ。
「これ使えば、人と対峙しても戦いやすくなるだろ」
ジャラリと金属の音が聞こえるその箱。この中には魔力を利用した特殊な催眠弾が入っている。
人に撃つとあら不思議。殺傷する事なく敵を無効化できる代物らしい。
……というか、組織の人間と戦う事前提なのね。
まったく、十代ちょっとのうら若き乙女達をそんな危険な場所に向かわせるなんて……
と思ったけど、真鶴さんはどうも"保険"とやらにかなりの信頼を寄せているらしく「あの人達が後ろについてるからみんな安心してね!」と言ってみせた。
ホント、その保険って一体なんなんだろう?
「そいつらがあげは行ってきたっていう未来の情報を握ってるんだろ? もしかしたらその組織倒したらその未来回避できるかも!」
なんとも楽観的な様子の灯。間違いなくそんな単純な話じゃないと思うよ……
「兎も角、それを乗り切らなきゃ夏休みもクソもないから」
「はいはいわかってるって、相変わらず雫は口うるさいなぁ」
スクールバッグを手に取り、椅子から立ち上がる灯。
「ほら、早く帰ろうぜ。今日から紫電さんが潜入調査のいろはを教えてくれるって話だろ?」
「そうだったわね、行きましょうか」
そう、今日から数日。紫電さんがこの手の活動のいろはをみっちり叩き込まれる事になっていた。
なぜそんな専門的な事に精通しているのだろうか……あの人ってホント何者なんだろう?
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そうして数日。私たち雫、灯の三人は紫電さんに厳しく潜入調査の極意を指導された。
同時に、調査の綿密な計画も立てられた。霧が入手した情報によればその組織の施設は違法なカジノのような場所になっているらしい。
影霊に関係する組織の施設というから、もっと研究施設みたいな想像していたんだけど……なんというか思ったより俗っぽかった。
どうやらその違法カジノは運転資金を集める為の単なるダミー組織みたいなモノらしい。
私たちの本命はそんなカジノではなく、影霊についてだ。
一体彼らが、どのように私が見た未来に関わっているのか。
ある意味この潜入調査がこの先の道を決定する為の重要な分岐点なのかもしれない。
潜入調査を数日後に控えたその日の夜。私はいつものように気晴らしに射撃訓練場にやってきた。
「どうも」
そこには先客、桜子ちゃんがいた。
というか、この射撃訓練場はほぼ私と桜子ちゃんしか使っていない。だってウチらの中で銃を使ってるのって私たちだけだし……
「潜入調査、頑張ってくださいね」
こちらを向く事もなく、ひたすらターゲットに弾を撃ち込みながらそう短く言ってみせる彼女。
ちなみに桜子ちゃんはこの潜入調査に参加しない。本人は行く気満々だったんだけど……潜入調査中に都内に影霊が出現した時の事も鑑みての判断らしい。
まあ、そもそもその時は柚子や舞花さんがいるんだけど……
ちなみに柚子にはそれとなくこの潜入調査の事は伝えてある。そしたら「なんで私も誘わないんですの!?」と激怒された。
怒るのも仕方ないけど、この作戦はこっちの陣営主導で進んでるし……今は柚子には大人しくしてもらうことにした。
「私も行きたかったですけど……まあここは先輩たちに任せます」
「うん、任せて」
彼女がいるレーンから一つ間を開けた場所に立つ、そうしてグロックを取り出し、ノーマルの9×19mmパラベラム弾が装填されているマガジンに入れ替える。
しっかりとグロックを両手で構えて……ターゲットに向かい一発撃った。
パスッ──と短い弾着音。弾はターゲットの黒い影から少しズレたところに命中した。
「はぁ、やっぱり心配です」
「あはは……」
不甲斐ない先輩ですまない……




