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60話 生意気な後輩

〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「南野柚子とのデートはどうでしたか? キスくらいは済ませました?」


 自室で愛銃(グロック)の整備をしていると、ロリ娘姿の揚羽がまるで揶揄うような口調で私にそう話しかけてきた。


「デートなんかじゃないって……ちょっと遊びに行って、ついでに色々調べてきただけだから。揚羽だって知ってるでしょ」


 揚羽はたまにどっか行ったりするけど、基本は私の中にいる。


 何したかなんてわかってるはずだから、そんな白々しく聞いてこないで欲しい。


「やれやれ、鈍感すぎて困りますね。女の子なのに女の子の気持ちが全然わかってないです」


 ……悪かったね、だって元男だししゃーないでしょ。


「少なくとも向こうはただ友達と遊びに来た、というわけじゃなさそうでしたよ」


「どういう事?」


 私は椅子を回し揚羽の方を向く、揚羽は私のベッドに寝そべり漫画を読んでいた。


「まるでアナタを誰かと重ねているようでした」


 出て来たのは意外にも真剣な分析であった。


「誰か、ねぇ」


 なんとなく私も似たような感覚を覚えたけど、一体私を誰と重ねているのだろう。


「……」


 というより、それは柚子だけではないと思う。私自身も柚子にどこか既視感のようなものを覚えていた。


「──それで、結局あげはは彼女をどう見ますか?」


 どう見るか、というのはおそらく"信用に足りる人"であるかどうかという事だろう。


 私だって今日ただ単に何も考えず、ただ遊びに行ったという訳ではない。


「どうだろう、まあ悪い人ではないと思うけど」


 今日一日接した感じ、そこまで冷徹な裏の顔があるようには思えなかった。


 まぁ……これはあくまで私の直感だけど。


「……なんか色々考えすぎで疲れてきた」


 私は整備を終えたグロックを、部屋に転がっていた適当なハードケースにしまい部屋を出た。


 せっかく綺麗にしたばかりだけど、こういう時は気晴らしに射撃訓練をするに限る。


 そうしてそのままエレベーターに乗り地下の射撃訓練場に。地下二階の広々とした射撃訓練場には先客がいた。


「あ、桜子ちゃん」


 一週間ほど前から探偵事務所(ウチ)の新たな住人となった真鶴さんの姪っ子だ。


「……どうも」


 チラリとコチラに視線を向けて、短くそう呟く彼女。彼女の手には銃身の短めな回転式拳銃(リボルバー)が。


 桜子ちゃんが使っているのは、彼女の名前と同じ桜という名前が入っている拳銃"S&W M360J SAKURA"だ。


 彼女はそれを両手で構え、レーンの奥。ターゲットに向かい一発、弾を放つ。


 響く乾いた発砲音、弾丸は見事にターゲットのど真ん中を撃ち抜いた。


「凄いね」


「……別にこれくらい大した事ありません」


 耳当てを外した桜子ちゃんはつまらなそうにそう返答する。


 私は彼女の使っている場所から二、三個ほど離れたレーンの前に立つ。


「もしかして、退魔巫女って結構暇なんですか?」


 と、なんだか馬鹿にした様子の桜子ちゃん。


「えっと、なんで?」


「いえ、休日に遊びに行けるほどする事がないのかなぁと」


 あぁ、なるほどそういう意味か……


「別に遊びに行ってた訳じゃないよ、色々と調査してたんだ」


 半分くらいは遊んでいたというのは内緒にしておこう。


「ふーん……そうですか」


 桜子ちゃんは耳当てを置き、SAKURAを腰のホルスターにしまう。


「じゃ、お先に失礼します()()


 それだけ言って、彼女はさっさと射撃訓練場を立ち去っていった。


「まったく、なんですかあのクソ生意気なガキは」


「……それ、揚羽が言う?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……」


 まただ、またおかしな夢を見てる。


 かすかに見えるのが……二本の大きな塔、あの建物には見覚えがある。なんだったかな──


 なんだかとても息苦しい、呼吸が荒い。まるで何かが身体の中で暴れているようだ。


「──用意されているのは三つの道」


 誰かの声が聞こえた、これは揚羽の声だろうか。


「ヒーロー……あっ、女の子なのでヒロインですね。果たしてヒロインはどの道を選ぶのか」


 息が苦しい、胸に手を当てて呼吸を整える。と、何やら手にカードのような物が握られていた事に気がついた。


 カード(それ)に視線を向ける。不思議な絵柄のカードだった。塔のイラストと「XVI」という文字が描かれている。


「……」


 やがて意識が薄れていく……あぁ、もうそろそろ目が覚めそうだ……



〜〜〜〜〜〜〜〜



「……んぁ」


 目が覚める、なんだか久しぶりに妙な夢を見たような気がする。ここ最近はあんま見なかったのになぁ……


 枕元のスマホを手に取る、時刻は九時ちょっと過ぎであった。


「また遅刻だ、はぁ……」


 深いため息が漏れてしまった。月曜日は起きるのがキツい……まぁ遅刻ならばもう仕方ない、今更慌ててもどうしようもないしのんびり行こう。


『おはよう、起きたばっかで悪いけどついさっき影霊が出た、それも結構大きめな反応』


 と、起きるタイミングを見計らったかのように霧からのメッセージがスマホに届く。


「寝起きはキツい……」


 まったく、影霊というのは相変わらず空気を読んでくれない生き物だ。


 私はベッドから飛び起き、急いで着替える。雫はいないようだ、先に行ったのだろうか。


 準備を済ませて探偵事務所二階の窓からピョンと飛び降りた。


 ……さて、今日はどんな影霊が出てくるのだろうか?

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