59話 幻影
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明治神宮を巡った後、私と柚子はその近辺を見て周りそうして集合場所であった原宿駅、新駅舎前に戻ってきた。
「今日は色々とありがとうございました、とても楽しかったですわ」
例のごとく礼儀正しく頭を下げる彼女。
「こちらこそ、なんだかいい経験になったよ」
特にあの竹下通り、あそこを巡った事でなんだか自分の女子力がアップしたような気がする……あれ? これっていい事なのか!?
まあとにかく楽しかったのは事実だ。
「一つ不満があるとすれば、大した情報は得られなかった事くらいですわね」
情報……例の"組織"の事だろう。
「やっぱりタダの関係ない噂なんじゃ?」
彼女の情報網とやらを疑うわけじゃないけど……何というか耳にして噂の域を出ないような話ばかりだったような気がする。
「──というより、もう遅かったのかもしれませんわね」
「というと?」
「その組織、もうここには居ないのかもしれません」
目的を達成して去っていったという事だろうか。
「まあ、当ては他にもあります。地道に追っていくとしましょう」
と、柚子にはそこまで落胆した様子は見られなかった。
「あげは、あなたも勿論協力してくれますわよね?」
「え? あぁ、まあ自分にできる事なら」
私のその返答を聞いて、柚子は安心したような表情を見せる。
「……やはり退魔巫女というものはお互いに力を合わせていく事が大事なのですわ、北條さんもそれをわかってくれれば」
至って真剣な口調の彼女。退魔巫女同士力を合わせる……かぁ、もしあの事件に南野家が関わっているのならこれ以上ないほど白々し過ぎる言葉だけど────
「あげは、どうかしました?」
おっと、ついつい難しい事を考え込みすぎてしまったみたいだ。
「なんでもないよ……なんでも」
……なんだか自分でも笑えるくらいに下手な誤魔化し方だと思ってしまった。
「そうですか……その、よろしければまたこうやって一緒に何処かに遊びに出かけませんか?」
若干、控えめな感じでそう提案してくる柚子。
「うん、いいよ」
「ありがとうございます、あっ、迎えの車が来ましたので私はこれで失礼しますわ」
柚子が道路の方に目を向ける、そこには柚子が来た時に乗っていたのと同じ黒い高級セダンが路肩に止まっていた。
そうして、ペコリと頭を下げ彼女はそのセダンの方に歩いていく。
セダンから出てきた運転手さんと思わしき人がドアを開け彼女はそれに乗り込む。
「またねー……」
私はボソリとそう呟き去っていく彼女を見送った。
「ふぅ……それで」
後ろを振り向く。
「結局ずっと追っかけてきたわけ?」
背後の物陰に隠れている二人に向かいそう話しかけた。
「あれ〜、気がついてた?」
灯が出てきてこちらにやってくる。
「そりぁ、気がつかないわけないでしょあんな下手くそな尾行……」
むしろ何故気がつかれていないと思ったのだろうか。
「柚子にもバレバレだったからね……雫もこっち来なよ」
何故だか隠れたまま出てくる気配のない彼女、まるでいじけた子供みたいだなぁ。
「ふん、随分と楽しそうだったじゃない」
彼女の若干怒った様な声が聞こえる。っていうか……
「何で怒ってんの?」
私は灯にそう尋ねると、彼女は「さぁ?」ととぼけた様な様子で首を振った。
「そんな事より、私ら色々原宿の噂聞いて回ってみたぜ」
灯が話題を切り替える。というかなんだ……二人もそれについて調べていたのか。
「聞いてみた限りガセネタっぽいんだけどなぁ……全く具体的な話が出てこなかったというか、柚子はなんて言ってたよ?」
「うーん、もうココには居ないんじゃないかとか言ってたけど」
というか、未だにその組織とやらの具体的な情報が分からないんだけど、その辺りはどうなんだろうか……なんだか幻を追いかけている様な気分にでもなってきた。
わかっているのは、柚子曰くただその組織が影霊と関係があるという事。
まあだからこそこうやってみんな調査してみているんだろうけど。
影霊と関わっているなら退魔巫女の領分だ。だけど残念ながら今日の調査ではどういう形で影霊と関わっているのかは全くわからなかった。
「霧姉も、もうソイツらの痕跡は殆ど残ってなかったって言ってたわ」
と、いつの間にか物陰から出てきて会話に混じっていた雫がそう呟く。
「なんかホント、幽霊みたいな奴らだな」
「幽霊ね……言い得て妙かもしれないわね」
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高級セダンの後部座席に座る柚子は、スマホを取り出してメッセージを確認する。
『お嬢! あげはちゃんとのデートはどうだった!?』
「……あのバカ」
『デートじゃないって何回言えばわかるんですの!?』
と、柚子は怒りを込めて舞花にそう返信する。
『もー恥ずかしがっちゃって。で、何か情報は手に入った?』
と、舞花のメッセージは急に真面目なテンションになる。
『大したことは何も』
そう短く返して柚子はスマホの画面を切る、そうして車の窓越しに流れていく外の景色を見つめる。
(……奴らが探してる"混沌の姫"が本当にあげはなのだとしたら)
柚子はあげはの事を思い浮かべる。どこか懐かしく、放っておけない感覚を覚える彼女の事を思う。
そうして、彼女はスマホのスリープを解除してある人物に電話をかける。
「……もしもし、沖宮さんですか?」




