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58話 慌てすぎな雫

〜〜〜〜〜〜〜〜



 明治神宮、緑が多く雑多な都会とは切り離され、静かな雰囲気が漂っている場所だ。


 今日は日曜日ということもあって参拝客は多めだったが、あの人でごった返していた竹下通りに比べれば可愛いものだ。


 私もなんとなく、ここには来たような記憶がある。原宿には来たこと無かったと思うんだけど……もしかしたらココには来たことあるのかも。


 ……なんというか、男だった頃の記憶は相変わらず曖昧だ。


 参拝を終えた私たちは、鳥居が目の前に見えるカフェで再び一休みする事にした。


 このカフェは木造で開放感の漂うデザインであった。さっきの隠れ家的なカフェも良かったけど、こっちも中々……


「ん〜、やっぱりこういう場所の方が落ち着く……」


 その建物を見ながら私はそう呟いた。


「あ、ごめん別に今までがつまらなかったとかそういうわけじゃ──」


 私は振り向いて慌てて取り繕おうとする、だけど彼女は私の話なんて聞いているのかいないのか、どこか上の空であった。


「どうかしたの?」


 ジーッと私の事を見つめている柚子。


「……え、あっ、いやなんでもありませんわ」


 慌てた様子の彼女。


「……?」


 一体どうしたのだろうか。


「前にも誰かとここに来た記憶が──」


 柚子は何かを頑張って思い出そうとしている感じだった。


「さっき自分で何回も来てるって言ってなかった?」


「いや、そういう事ではなくて……はぁ、まあいいですわ。それより。あなたに問いただしたいことがあります」


 先程までの曖昧な雰囲気から一転、真剣な表情で私を見つめる柚子。


「うん、何?」


 一体何を聞かれるのだろうか。なんだかちょっと緊張してきた。


「あなたは北條家の人間ではありませんよね」


「……あー」


 そう来たか、何というかド直球。


「どうしてそう思うの?」


 取り敢えず否定も肯定もするのではなく、そう思った理由を聞いてみた。


「細かい理由は沢山あります、ウチは沢山の情報網を持っていますから」


 まあ確かに、その片鱗は今まで何度も見せられている。


「でも……一番の理由はアナタから感じる感覚です」


「感覚?」


 いきなりフワッとした言い方になった様な気がする。


「あげは、アナタは南野(ウチ)の人間ではないかしら?」


 そうして出てきたのは意外な言葉であった。


「どういう事?」


 思わず聞き返してしまう。


「正直言ってこれはただの直感です、きちんとした根拠があるわけではありません」


 そう言って、柚子は私のそばに来る。そうして……ゆっくりと私の手をとった


「ゆ、柚子?」


 一瞬ドキッとしてしまった。だけど今はそんな場合じゃない。一体なんて返せばいいのやら。


「どうなのですか?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ね、ねえ。なんか二人の雰囲気おかしくない?」


「ホントだ……どうしたんだろ」


 あげはと柚子、二人の様子をこっそり伺う雫と灯。


「なんかいい雰囲気?」


「…………あれはそういう感じじゃないと思うけど」


 そうして、柚子があげはの手をとりぎゅっと握る。


「な、何してんのよアイツ……!!」


「バカ、声でかいって……」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はぁ……」


 全く、雫も灯も隠れる気はあるのだろうか。


「あの二人、隠密ミッションには全く向いていませんわね」


 柚子にもとっくに気が付かれていたようだ。


「──ふふっ、いい事を考えましたわ」


 何やら妖艶な笑みを浮かべる彼女。


「どうしたの……って、え?」


 柚子はさらに私と距離を詰め、何故かそのまま抱きついてきた。


「ゆ、柚子さん?」


 あまりにも突然の出来事だったので少し混乱してしまう、何で私抱きつかれてるんだろう……?


「せいぜい嫉妬するといいですわ」


 悪戯っぽくそう呟く柚子。彼女はそれで満足したのか、私から離れてさっさとカフェの方に歩いて先に進んでいってしまった。


「どういうこと?」


 残された私はただ混乱するばかりであった……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ちょ、抱きついたぞ!? 何があったんだ?」


 何やら楽しげな口調の灯。対する雫はというと──


「……帰り道、やるしかない」


 なにか物騒な事をぶつぶつと呟いていた。


「おいバカ、止めろよ? 変な真似するなよ?」


 慌てる灯、それ程雫の呟きには殺気が満ち溢れていた。


「……なんか知らないけど、めっちゃ距離が縮まってるような気がするなぁ、ウチらが見てない間になんかあったのか?」


 二人も常にあげはと柚子の事を見ていたわけではない、知らぬ間に何かあったのではと灯は推察した。


「ありえない……南野の人間なんかと……」


「雫? 喋り方が霧みたいなテンションになってるぞ?」


 灯のツッコミも聞こえないほど、雫はソワソワしていた。


「……なんていうか意外、雫がそんな慌てるなんてなぁ」


「は、はぁ? 私が慌ててる? そんなバカな事あるわけないでしょ」


 わかりやすいくらいに慌てふためいてみせる雫。


「私はただあの娘が心配で……南野の人間なんて……そう! 友達を心配するのは当たり前のことでしょ!」


「あーはいはい」


(なんというか、その友達を他人に取られちゃう! みたいな感じだなぁコイツ)


 そんな事を思いながら灯は温かい視線で雫を見る。


「あ、そういえばさっき二人が見てた楠って夫婦円満……」


 思い出したようにそう呟く灯。


「ふ、ふ、夫婦!? あの二人がそうだって言いたいの!?」


「いやいやそんな事を言ってないから! まったく……女の子同士で抱きつくなんて、友達同士ならそんな珍しくないでしょ」


 と、灯はフォローを入れる。


(でも、柚子ってそんな性格じゃないよなぁ。もしかして……いや無いかぁ)


 若干その辺が気になったが、面倒なので灯はスルーする事にした。


「そ、そうなの? なら私も今度……って、いない! カフェに入っていだんだわ! ほらさっさと追いかける!」


「えー……まだやんの」


 二人の愉快な追跡劇は続くのであった。

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