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49話 惨劇の記憶

「は……?」


 雫がそのメッセージを見て怪訝な顔をする。


「もしかして私ナンパされてる? いや、ごめんて。そんな怖い顔で見ないでよ雫……」


 それにしても、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。まあここは取り敢えず……


『いいですよ、楽しみにしてます』


 と、送っておいた。


「ちょ、あなた本気?」


 驚く雫。


「まぁ、いいんじゃない? 同じ退魔巫女同士で仲良くしておくべきだと思うし」


 というか、雫の南野家嫌いは少し度が過ぎているような気もする。そこにはやはり、私が知らない何か深い事情があるのだろうけど。


「──聞いてもいい?」


 私はスマホをしまい、意を決して聞いて見ることにした。


「アナタが聞きたいことは分かってるわ……私も今までずっと話してこなかったし」


 私から顔を逸らす彼女。私が何を言いたいのかは察しているようだ。


「あなたが知りたいのは、私が何で南野家(アイツ)らを敵視しているかって事でしょ」


 私はその言葉に静かに頷いた。積み重なる退魔巫女の歴史の中でそれぞれの家の対立関係が深まっているというのは私も知っている。


 だけど雫のそれは、何やら歴史という面とは別な感情から来ている様な気がする。


「ねえ、あげはになら……話してもいいわよね?」


 と、雫は誰かに向かって話しかける。多分彼女の姫神である"翡翠(かわせみ)"だろう。


 雫はそっと手を差し出す。そこに何処からか現れた、一匹の綺麗な鳥が止まる。蒼とオレンジ色のその綺麗な鳥は静かに嘴を動かす。


「あげは、アナタはこの娘の過去を一緒に背負ってくれる覚悟はありますか?」


 聞いたことのある声、やはりこの鳥は翡翠のようだ。というか、結構重い事を言ってくる娘なんだな……


 でも、確かに人の過去に踏み込むというのはそういう事なのだろう。中途半端な気持ちで聞くものじゃないのは百も承知だ。


「うん、だって雫は仲間だし友達だから」


「え? 私とアナタっていつ友達になったのかしら?」


 ちょ、雫さんそれどういう事ですか……! 友達だと思ってたの私だけ!? 確かに、女の子同士の距離感ってまだ掴めきれてないけど……


「冗談よ冗談」


 慌てふためく私を見て雫はクスリと笑う、なんとも意地が悪い。ついでに心臓にも悪い……


「アナタがそう思ってくれて、私もちょっとは嬉しいわ。私今まで友達一人もいなかったから」


 なんとも切実な言葉を漏らす彼女。


「そ、そうなんだ〜、それは意外」


「……ちっとも意外そうな口調じゃないけど?」


 ギクッ、いやいやそんなことは無いですよ。


「はぁ……全く、初めての友達がこんな男女だなんて」


「あはは、なんかごめん」


 だけど雫も嫌そうじゃないのは、こっちも嬉しかったりする。


「いいわ、話してあげる」


 そうして彼女は語り出した、"北條家"の事情について。そして"北條家襲撃事件"について……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 江戸四家とも呼ばれる東京を守護する四つの家。その中でも北條家は江戸に召集される以前からの歴史を持つ。


 北條家は、はるか昔から退魔業を行う最古参であり、その起源は平安時代、平安京を守護(まも)る為に組織された"退魔衆"というものに由来するとの事。


 歴史が古いと規模も大きくなる。北條家は四家の中でも最も規模も功績も多い家"だった"らしい。


 だった、そう。ここが重要になる。つまり今はそうではないという事だ。


 それが変わったのは今から五年ほど前、五年前の冬にある事件が起きた。


 その日、北條家本家の屋敷が襲撃を受けた。影霊の軍勢と──そして人による襲撃だった。


「私たちは影霊退治のプロだけど……人間相手じゃ普通の人となんら変わりはないわ」


 影霊と重火器をもった武装集団という、本来あり得ない組み合わせにより急襲された北條の家。


「お母さんも、おばあちゃんも……雪姉も……」


 雪姉……霧と雫の姉だろうか。


 酷く悲しく、そうして影霊とその謎の集団に対する怒りを感じさせる雫。


「雪姉は……霧姉と私を庇って目の前で……」


 彼女は今にも泣き出しそうだった。


「雫、もういいから」


 私は震える彼女の手にそっと自分の手を添えた。


 大凡の事情は把握できた……この話と雫の南野家への態度を察するに。南野家がこの事件に関わっているという事だろうか。


 でも、対立してはいるらしいけど、そこまでするものなのなのかな。


「……分かってるわ、アイツらが関わってる直接的な証拠なんてない。私の勘違いなのかもしれない……でも……」


 声を震わせる雫。


「私もどうしたらいいのか……憎しみのぶつけどころがわからないの……」


 私は雫の手を両手で握る、彼女の気持ちはわかる。何処にも行き場がない怒りと憎しみ。


 そこから、仲が元から極めて悪い向こうに疑いの目を向けてしまう事も。


「ごめんなさい……改めて見ると私、凄く嫌な人間ね……」


「大丈夫だって、誰も雫を責めたりなんかしないから」


 私は雫が落ち着くまでずっと側にいた。


「──今、この日本で……いやこの世界で北條の血を受け継いでいるのは私と霧姉だけだわ」


 冷静さを取り戻した雫が再び語り出す。


「あの事件とほぼ同時にね、日本に散っている北條の関係者もみんな同じように消されたわ」


 そこまで……一体北條家を襲ったのは何者たちなのだろうか。


「……でも何故か私と霧姉は見逃されてる、どうしてかしらね。霧姉は真鶴がいるから手を出せない……なんて言ってるけど」


 真鶴さんか、あの人も割と謎な人だけど。彼女がいるから手を出せないとはどういう事なのだろうか。


 あの人の"前の仕事"が影響する? いや、それだけじゃないような気も……


「……私はただ、ソイツらが『お前らなんて生き残ってても取るに足らない存在だ』って言われてるように感じるわね」

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