41話 未来のともしび
東京の街々を駆ける、建物から建物へ例の銃も使いながら素早く移動する。
いくら進んでも、周りに広がっているのは只ひたすら滅びに満ちた光景だけであった。
荒れ果てた街、崩れ去ったビル、放置された自動車たち、何処までも続く真っ赤な空。
「これが……八年後の世界……」
スタッ、と建物の屋上に。下を覗き込むと影霊がワラワラと湧いている。この辺りは何故か特に多い様な気がした。
「面倒くさい、見つからないようにしないと……」
そうして街を進んでいく。
「そういえば、あの人はなんで私を未来に連れてきんだろ?」
今考えると割と謎だ。スマートウォッチに謎のソフトをインストールしただけで消えていったし。
そういえば、あの人これの事を"MG-COM"と呼んでたっけ? それが正式名称なのかな。
「テストと言ってましたね、一体なんのテストなのでしょうか」
「……確かに」
私に何かをさせるつもりなのだろうか……ダメだ、考えてもわからない。
「はぁ、今何処だ?」
あれから結構な距離移動してきた、影霊がいない事を確認した私はピョンピョンと建物の屋根を伝い道路に降りる。
「杉並区……うーん、まだ距離あるなぁ」
東京は意外と広い。
「──あげは、気がついてますか?」
と、唐突に揚羽がそんな事を聞いてくる。
「…………うん、なんかいるね」
先程から妙な気配を感じる。なんというか変な感じだ。知っている雰囲気がする。
「あっちの方かな、どうしよう……スルーしたほうがいいのかなぁ」
でもちょっと気になるし、少しだけ見に行ってみよう。
そうして、私は気配がする方に向かう。そういえばこの辺りは何故か殆ど影霊を見かけない、どうしてなのだろうか?
「この先を左折してください」
「わかってるって」
道路を駆ける、そうしてその先に待ち受けていたのは……
「うわ……! な、なにあれ……」
広い四車線の道路、そのど真ん中に大きく横たわる存在。正面から見るとイマイチ形が分かりづらいんだけど……とにかくデカいのがわかった。
「なんだろう? 上から見てみよう」
私側の高い所、ビルの屋上に登り、それを上から眺めてみた。
「これ、何? 土偶?」
教科書とかで見た事がある。なんか変な形してる土偶。こういうのなんて言うんだっけ? なんか名前あった様な……
「遮光器土偶ですね、でもおかしいですねこれ、普通の影霊です、感じた気配とは別物の様な気がするんですけど……」
と、揚羽。影霊ってマジで色々な形してるな……土偶って、どういう影響を受けたらそんな形になるのだろうか。
「あ……消えてく……」
道路に横たわっていたそれは、スゥーっと霧の様に消えていった。
「こいつ、誰かに倒されたみたいです」
「誰かって……もしかして人が?」
この辺りに誰が、私以外に人がいるのだろうか? それも影霊を倒せる様な力を持った人が。
「────ッ!」
背後からの殺気を感じる! 私は慌てて振り返る。
「ま……嘘でしょ!」
突如、何処からか現れた謎の人物が、私に向かい刀で切り掛かってくる!
私は咄嗟に手裏剣でその刀を受けるイメージを浮かべた。胸につけていた蝶の飾りは素早く私から飛んでいき、手裏剣となって素早く……その一太刀を受ける。
キィィン……! と刀と刃をぶつけ合う私の蝶々、手に感覚が伝わってくる。重い、重い……太刀筋が重い!
「……な! お、お前もしかして!!」
と、目の前の切り掛かってきた人物は驚愕した様な声を上げる。あれ、この声すごく聞き覚えのある様な気が……
その人物はバックステップで後ろに跳ね、私と距離を取る。
彼女の着ていた服はどこか私の知っている人が退魔巫女状態の時に着ている衣装と似ていた。
「あれ、灯……なの?」
あまりにも咄嗟の事だったので、気が付かなかったけど……なんかこの人灯に凄く似ている。
「お前こそ、あげはなのか!?」
私の名前を呼ぶ目の前の女性。刀身が赤っぽい日本刀を腰の鞘にしまい私に駆け寄ってくる。
「なんだよ……本当に、本当にあげはだ! この野郎!! ずっと何処いってたんだよ!!」
「え、ちょ……」
彼女は涙声でそう叫びながら私に抱きついてくる。
「ぐすっ……ひっぐ……」
なんか、この人めちゃくちゃ泣いてるんだけど……
取り敢えず、私も優しく抱き返してあげる。
そうしてしばらく、泣きじゃくる灯を優しく宥めた。
「落ち着いた?」
「あ、うん……悪い、変なところ見せちゃって」
変なところ、というか意外だったあの灯があんな風に泣くなんて。
「で、お前どこ行ってたんだよ! なんでこんな場所にいるんだよ! ていうか、全然姿変わってなくない?」
と、元の調子に戻った灯は幾つもの疑問を私にぶつけてくる。
「あー……」
もしかして、この灯。私をこの時代のあげはだと思っているらしい。
私はチラリと隣に座る灯を見る。なんというか凄く大人っぽくて美人だ。雰囲気がだいぶ変わっている感じ。でも見た目は成長していても性格は全く変わっていないようだった。
「私、多分過去から来たんだ」
「え? それどういう……」
そうして、私はここに来た経緯を未来の灯に簡単に説明する。




