39話 20XX Kichijoji
「ようこそ! 混沌の都に!」
腕を広げて歓迎、みたいな態度の彼女。
「あなたが……連れて来たんですか?」
どういう理屈か知らないけど、私は再びこの世界に迷い込んでしまったようだ、影霊が跋扈する未来の東京に。
「うーん、正確にはちょっと違うけど今はそういう事でいいよ」
また何とも微妙な、解釈に困る答えを投げつけてくるなこの人は。
「何が目的で? あなたホント何者なんですか?」
「うんうん、気になるよね……でも今は教えてあげない」
何なのこの人、本当にさっきから喧嘩売ってるのかな?
「アナタの存在により、世界は確実に変化を迎えつつある、今は微細な変化でしかないけど……確かに本当の歴史よりズレつつある……かもね」
唐突に真面目な話をしてくる、テンションの落差が激しい人だ。
「前に言ったよね? アナタは歴史の中の歯車でしかないって」
前? いや、その言葉確かに聞き覚えが……
「アナタはもしかして……」
夢の中の人ですか、と聞こうとしたけど辞めた。何となく怖かった。
「……歯車ってどういうことですか?」
私は話を変える。
「そのままの意味だよ? アナタは繰り返されている時間の中の、たった一つのパーツ。歴史という名の時計の歯車にすぎない……って事」
なんとなく、イラッとした。この人が言いたいのは定められた歴史の通りに歩く、予定調和な存在と言いたいのだろう。
「私はパーツなんかじゃないです」
「わかってるって、時計には故障がつきもの、たまに違う動きをしちゃう事もあるし」
「さっきから何が言いたいんですか?」
まるで、運命を全てを知っているような傍観者風、とんでもなく上から目線な語りにいい加減イライラしてきた。
「そう怒らない怒らない、今日あげはちゃんをこっちに連れてきたのはね、テストをするためなんだよ」
テスト……? 一体私は何をさせられるというのだろうか。
『不明なユニットが接続されました』
と、左腕に付けているスマートウォッチが警告の音声を発する。
「え、なに……」
腕をチラリと見る、スマートウォッチに何やら赤い線のような物が引っ付いていた、その線は……目の前にいる、謎の女性の指から伸びていた。
『発行元が不明なソフトウェアです、起動しますか?』
なにやら、物騒な機械音声が流れる。
「ちょっと! 何勝手に変なこと……」
「はい、っと」
彼女は私の抗議に耳を貸すことなく、淡々と何かの作業を進めている。
『アップデートファイルの適用を確認しました、再起動を行います』
そうして、それは電源が落る、そして"天空橋"というロゴが現れて再び起動する。
「私からのプレゼントだよ。新しい力、いずれ使う日が来ると思うからね、じゃあそろそろ私はいくから……あげはちゃんに揚羽、また会おうね〜」
「あ、ちょっと待って……元の時代に戻してくださいよ!」
そうして女性は、私の言葉に耳を貸すことなくスゥーっと、まるで幻のように消えて行った。
「嘘でしょ……」
私を勝手にこの時代に連れてきて、意味深なことばかり言って、スマートウォッチに変なソフトをインストールして……そうして私を残して消えた。
「なんなのあの人……」
まるで、困惑している私を弄んでいるみたいだった。
「ホント、何者なんでしょうか」
揚羽が呟く、私と彼女が話している間、この娘は一切言葉を口にしなかった。まるで相手を見極めているかのように。
「あいつ、私の方も見えていたようですね。時々こっちを見てましたし」
「あ、やっぱり?」
時々、フードの闇の中に光る双眸が私の隣にいる揚羽に向いているような気がした。
ずっと揚羽について言及してなかったから気のせいかな、と思ってたけど。最後の言葉を見るに揚羽の事も見えていたらしい。
「姫神の姿を見る事が出来るのは、同じ退魔巫女の力を持つ者だけです」
「え……じゃあ、あの人退魔巫女かもしれないの!?」
何気に衝撃の事実なんだけど。誰なんだろう、もしかして私も知っている人だったりして。
「ともかく、まずは元の時代に戻りましょう」
揚羽がそうキッパリといい放つ。確かに何がともあれ早く戻ったほうがいいだろう、と思ってたんだけど。
「戻り方なんてわからないし、それにここが本当に未来の東京だとしたら……」
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。この崩壊した東京で、何かこの未来を回避できるような手がかりが見つかるかもしれないし。
それに、またアイツに会って色々聞きたい。そう、スティーブンだ。私を影霊との争いに巻き込んだ張本人。
……そして、最後に。この時代においての雫や灯の事についても知りたい。二人は何をしているのだろうか、影霊と戦い続けているのだろうか。
「よし、前みたいに突然もとの時代に戻されちゃうかもしれないし。手早く行動しよう!」
「え、一体何を……」
私はバッと、左手を真っ赤な空に掲げる。
「姫神揚羽、私に力を!!!」
序詞を叫ぶ。
「……はぁ、何をする気か知りませんけど」
揚羽の姿が淡い光に包まれて、スマートウォッチの中に吸収される。そうして私の身体も柔らかな光に包まれ……
「退魔巫女、北條あげは! 八年後の東京に参上!!」
そうして、私の姿はいつもの女忍者……くノ一みたいな格好に。
……さて、まずは公園を出てこの周囲を探索してみよう。




