37話 魔法少女と退魔巫女
「前々から思ってましたけど、雫さんは少々私たちに当たりが強い気がしますわね」
柚子がそう言うと。雫の纏っている空気がさらに冷え込んだ様な気がした。
「そりゃね、あなた達はっきり言って一ミリも信用できないし」
ズバッと、包み隠すことなく雫が宣言する。いやいやもうちょっとオブラートに包んだ方が良いと思うよ雫。
「何故ですの!? 同じ退魔巫女同士だと言うのに」
……なんとなく、両者はバチバチに対立し合っているのかと思ったけど。柚子の方は案外「協調しよう」という態度なのかな。
まあ表面上だけかも知れないけど。
「……同じ? 私たちとアンタ達が?」
雫のイライラが頂点に達している様な気がした。
「アンタたち南野家のせいで……!」
流石にこれは無理にでも割って入った方がいいだろう、と思ったその時だった。
「あれ、あいつ……」
灯が何かに気がついた、彼女の見た方に視線を向けるとこちらにやって来る一人の女性が。
「遅いですわよ!」
と、柚子は怒った様な様子で叫ぶ。
「いやー、ごめんごめん! 仕事が押しててさぁ」
そうして、私たちの元に来る彼女。綺麗な銀髪にモデルの様なスタイルの良さ。そう、大人気アイドルの東坂舞花その人であった。
「やっほー、みんな久しぶり〜」
フランクな口調で私たちに話しかける舞花さん、ってかこの人オシャレな私服なんですけど。
「……あれ、なんかタイミング悪かった?」
私たちの間に漂う一触即発な雰囲気を感じ取ったのか、彼女がそう呟いた。
「いや、むしろタイミングバッチリ」
「……だね、このままだと大喧嘩になってた」
ここは、彼女に感謝したい。
『そういえば東坂舞花、アナタに聞きたいことがあったんだけど』
私のスマホから流れる霧の声。
『この前、百合々咲に出た影霊の事何か知ってない?』
と、唐突にアリスの事について何故か舞花さんに尋ねる霧。
「どういう事?」
何故今、そんな話をするのだろうか。
「ああ、彼女ならイギリスから私が連れてきたわ」
と、舞花さん。
……って、今この人何気にとんでもない事言ってない!?
「それどういう事ですか!?」
私が舞花さんにそう問いかけると、彼女はチラリと柚子の方に視線を向ける。
「どういう事もなにも、新しい退魔巫女が現れたからその実力を測ってこいってお嬢に言われただけだよ?」
「ちょ、舞花!」
慌てたような様子の柚子。
「……ほーら、そういう事してるから信用できないのよ」
雫は「それ見たことが」とでも言いたげな視線を柚子に向ける。
「私は、ちょっと見て来なさいと言っただけで……まさかこの馬鹿がそんな事をするとは!」
「馬鹿とは酷いよお嬢! 退魔巫女の実力を測るならこの方法が一番でしょ?」
……なんというか、この二人色々と噛み合ってない様な気がする。
『イギリス産、だからあんな変な魔術を使うんだね』
納得したような雫。
「どういう事?」
一人で納得してないでちゃんと詳しく教えてほしい。
『影霊っていうのは日本だけじゃない。特に東京に現れやすいだけで、世界の色々なところで出現している』
「そう、例えばイギリス……ロンドンもその一つね」
舞花さんがそう付け足す。
「影霊にも土地柄というものがあるの、向こう産は古くから伝わる、所謂"魔術"というものを扱える個体が多いわ」
それが、あの夜アリスが使っていた術の正体という事なのか。
「それだけ聞くと、なんか向こうの影霊の方が厄介な気がしてきた」
なんというか、魔術を使うとかいかにも面倒くさそう。
「そうとも限らないわ。所詮影霊だし大した術は使えないし、むしろ日本の影霊の方が生命力……意思というのかしら、しぶとくて厄介ね」
なるほど、うちの国の影霊はしつこく、しぶとい。あれ? というか、向こうにも影霊がいるなら……
「向こうにも退魔巫女いるの?」
他の場所でも、私たちみたいな存在がいるのだろうか。
『似たような存在はいる、似ているだけで全く別の存在だけど』
似たような……とはどういう事であろうか?
その私の疑問を察したのか、舞花さんが携帯を取り出してある一枚の写真を見せてくれた。
「えっと、この人は?」
写真には舞花さんが写っていた、そしてその隣には可愛らしい格好をした少女、例えるならお伽噺の赤ずきんちゃんみたいな格好をしている。
二人は手を繋いでカメラに向かいピースをしていた。この写真だけでもかなり仲が良さそうなのが伺えた。
「魔法少女よ、魔法と書いて少女」
静かな口から意外な言葉が飛び出て来た。
「えっと、それは退魔巫女、私たちとは違うんですか?」
言葉にするとややこしいけど、一般的に「まほうしょうじょ」といえば魔法少女の事を指すだろう。
ただし、私たちの世界においては退魔の巫女と書き「まほうしょうじょ」と読む。
私的には、ただの表記ゆれだと思ってたけど。どうやら違うようだ。
「別物よ、あ……ちなみにこの娘は私の彼女ね」
唐突に彼女自慢をしてくる舞花さん。
「えっと……かわいい彼女さんですね」
「でしょ! アナタよくわかってるわね!!!」
途端にテンションが上がる舞花さん。よっぽど嬉しかったようだ。
「はぁ、仕事が忙しすぎて全然会いに行けないの……あれ、なんの話だっけ?」
……この人、ちょっと天然?




