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34話 信頼

「そういや、お前って男女で未来に行ってきたんだっけ、面白いよなそれ!」


 灯は軽い口調でそんな事を言った。今更ではあるが、灯には私の事情は話している。


「面白がってる場合? この娘が行った未来だと、東京は影霊の巣になってるのよ?」


「わかってるって、そうならないように出てくる影霊を倒したり、色々真鶴が動いたりしてくれてるんだろ?」


 そう、最近知ったけど真鶴さん。私の未来の話を聞いてから何やら色々と調べたり駆け回ってくれているらしい。いつも事務所でダラダラとしているわけではないのだ。


 私たちも何か……とは思っているのだが、正直な話何をすればいいのか。今の時点ではあまりにも鍵が少なすぎる。だから今は取り敢えず出てくる影霊を倒す、これくらいの事しか私たちには出来ない。


 ところで、私の事情を知っているのは雫に霧、灯、真鶴さんの四人だ。こうして見ると周りの人はみんな知ってる事になるのか。


 正直言って、何でみんなこんな突拍子もない話を理解してくれるのかと疑問だったけど……


 よくよく考えたら退魔巫女と影霊といったいった存在、朧や霊道といった空間自体突拍子もない存在だし、おかしくはないのかもしれない。


 特に真鶴さんは何か深い事情を知っていそうな感じだったし。時隠しという単語からして案外珍しい事ではないのかも?


「というかさ……二人はよく私をこうやって受け入れてくれる……というか、怪しんだりしないんだね」


 未来が云々の経緯はともかく。側から見れば私は出所不明の退魔巫女。もしかしたら何処からかのスパイかも? と思ったりはしないのだろうか。


「それは……ねぇ」


「な〜」


 お互いに視線を合わせる雫と灯。


「あなたがそんな器用な人間には思えないし」


「なー、絶対そういうタイプじゃないだろ。何か考えて……とかできなさそう」


 それは貶されているのだろうか……? というか灯! それ殆ど悪口でしょ!


『私がずっと監視してたけど怪しいとこは無かった』


 テーブルの上に置いていたスマホが鳴る。霧……やっぱり色々見てたのか……


「それに真鶴があなたの事を認めてる、なら言うことはないわ」


 ……あの人、意外と信用されているんだな。


「なー、あげはって元はどんな男だったん?」


 灯が唐突に、興味津々な様子で聞いてきた。


「え……? そう言われてもなぁ、なんというか思い出そうとすると記憶に靄がかかった様になるというか……」


 苗字や名前はもちろんの事、その他細かいこと、例えば親の事とか周りの人間のこと。


 はっきりと忘れているわけではないけど、何というかあやふやというか……あー! 言葉にできない! もやもやする!!


「……まあ、一つ言えるのは多分普通のつまんない男子高校生だったよ」


「ふーん、まあそんなもんだよな大体」


 そんな普通の奴が、まさか女になって退魔巫女(まほうしょうじょ)するなんて夢にも思わなかったなぁ……


「話を戻しましょう、四家会議でこの娘の扱いをどうするべきか」


 と、雫。


「だなぁ、正直言って貴方の存在はもう向こうに知られてると思うし」


 確かに、東坂家の退魔巫女、東坂舞花……彼女はあの夜学園近くにいて、さらにアリスを狙撃していた。多分私の事も見てると思う。


「多分、四家会議じゃ間違いなくアナタの事を問い詰めてくるはず」


 北條&西嶋は南野&東坂とあまり仲がよろしくない。こちらサイドが何やらコソコソと出所不明の退魔巫女を仲間に入れている……むこうサイドにとっては格好の攻撃の的だろう。


「もういっその事、素直に全部話しちゃえば?」


 対立気味とはいえ、あちらさんも志は同じ退魔巫女である筈だ。


「まあ、最悪それもありね」


「あの堅物が素直に聞いてくれるかなぁ」



〜〜〜〜〜〜〜〜



 そうして六日程、影霊が出る事もなく、特に何もなく平和に過ぎていった。そして七日目……


南野家(ホスト)から日程と場所の指定が届いたわ」


 夕方、学園から帰ってきた私に雫がそう声をかけてきた。


「ホント? どこ?」


「場所は井の頭公園、日時は……この日ね」


 雫は事務所の壁にかかっているカレンダーを指さした。


「体育祭の次の日かぁ」


 そうして場所。井の頭公園は吉祥寺にある大きな都立公園だ。正式名称は井の頭恩賜公園とかなんとか。


「ってか公園なんだ、てっきり何処かお洒落なバーとかでするものかと」


「そうね、まあでもああいう場所の方が落ち着いて話ができるでしょ」


 それもそうか。


「はぁ……なんか緊張してきた」


 南野家の退魔巫女……果たしてどんな娘なのだろうか。

 


〜〜〜〜〜〜〜〜


-井の頭公園-



「……」


 井の頭公園、静かな湖の湖畔。一人の少女が空を眺めていた。時刻は夕方、辺りは夕日に照らされている。人はまばらだ。


 その人物は夕暮れの空に向かい手を掲げる。


 フードを深く被り表情は窺い知れない、手や腕にはまるで何かを隠すような包帯が巻かれていた。そうしてマントを纏い身体を覆い隠している。


「……ん、やっぱりこの時代の空気は美味しいな」


 ボソリと一言だけ呟いた、掠れたような声が静かに響く。彼女は手を下ろして湖に背を向けた。


「さて……この時代のみんなとは初めて出会うわけだし、正体わからないような格好しとかなきゃ、どんな格好してたっけ……」


 そうして、少女はその場から立ち去っていった。

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