31話 アイドル退魔巫女
またおかしな夢を見た。
「東京はまもなく滅びる……影霊が跋扈し、カオスが望んだ混沌の地に……その時、あなたはどう動く?」
……この人は何を言っているんだろう。
私に語りかける枯れたような女の人の声。
「これは、いくら積み重ねても変えようがない……歴史の流れ、"北條あげは"は歴史の中の歯車に過ぎない……」
おかしな事を言っている女性、輪郭がボヤけてハッキリと見えない。
「滅びゆく東京の中で……あなたはどう抗う?」
女性はフードを深く被っていた。身長や身体つきからして、私と同じくらいの年齢だろうか。そしてどこか聞き覚えのあるような声。
「……なさい」
遠くから別の声が聞こえる、この声はハッキリと覚えがある。
「起きなさいってば!!」
「うひゃ!!」
情けない声を上げてしまう私。
「……んあ?」
徐々に意識がハッキリとしてきた。
「雫……あれ、今何時?」
私は枕元に置いてあったスマホを取る。時刻は午後十時を過ぎていた。
「はぁ〜……マジかぁ、完全に遅刻だ……雫、もう少し早く起こしてよ……」
側にいる雫にそう文句を言った。
「夜更かししてるからでしょ、それに別に学校の為に起こした訳じゃないわ」
前半の部分はまあ、言い返す言葉もないんだけど。
私はチラリと部屋の隅、ソファーにもたれぐーすかと寝ているアリスを見る。
「あいつも寝坊か……」
あれから一週間ほど、なんだかんだ言ってコイツはココに住み着いている。影霊との共同生活なんて不思議な感じだ。
「やれやれ、なんで姫神の私がこんな雑魚と一緒に暮らさなきゃ……」
揚羽の声が聞こえる。
「まあまあ、一応貴重なサンプルらしいし」
私はベッドから起き上がる。
「それで、なんで起こしたの?」
「そんなの一つしかないでしょ」
あぁ、なるほど。そういうことか。
「三日ぶりかー」
私はパジャマをぽいぽいと脱ぎ捨てて制服に着替える。
「……どうしたの?」
私の身体をジロジロと見てくる雫。
「はぁ……なんで元男の方が発育が……なんでこんな無駄にスタイルいいのよ……」
何やらブツブツと恨めしそうに呟きながら、私のある一点を見てくる。
「大きいからっていい事無いよ? 男の視線気になるしさぁ」
女の子になってわかったけど、やっぱり胸に感じる視線というのはかなり分かりやすい。
だから男性諸君。無闇に女性の胸に視線を送るのは辞めよう、ウザいから。
「それは勝者の悩みね、持たざる者の気持ちは持っている者にはわからないのよ……ふふふ」
ちょっと怖いんですけどこの人。
私は机の上に置いてある"SHIDEN KAI"のロゴが入ったケーキの箱をガサゴソと漁る。
「あったあった」
箱に入っていたグロック18C用の拡張マガジンを取り出す。このマガジンは弾が33発入る。取り回しは悪くなるけど制圧力は増す……はず。
「行きましょ」
「あ、ちょっと待って顔洗って歯磨いて来るから」
そうして数分後、部屋に戻ってきて……
「お待たせ」
「はぁ……じゃあ行くわよ」
私達二人は序詞を呟く。部屋の中二つの輝きが生まれ……そうして私達は退魔巫女に変身する。
「真鶴さん、ってまた寝てる」
部屋を出て事務所に、真鶴さんはソファーですやすやと寝息を立てていた。机にはビールの空き缶が。
「はぁ、ホントこの人は……」
私たちはそれをスルーしてガラリと事務所の窓を開ける。そうして……ピョンと飛び降りた。
事務所から下の道路に落ちる間、パリンとガラスを足で突き破ったような感覚を覚える。
「よっと」
そうして降り立ったのは、どこまでも濃い霧が続く静かで、何もない空間……霊道であった。
〜〜〜〜〜〜〜
「あ〜……なあこのまま帰らねえ?」
影霊退治を終えた私と灯は地下鉄で学園への帰路に着いていた。彼女は例の如く学校をこっそり抜け出してきたみたいだ。
時刻は十一時過ぎ、こんな時間帯なので車内は空いていた。
雫はいつものようにさっさと帰ってしまった。ホント、出席日数とか大丈夫なのだろうか?
ちなみに帰りに霊道は使わない。あそこ通るとなんか凄く精神力持ってかれる気がするから……
ここ数日の間、霊道を通れるように特訓をした。特訓と言っても灯と一緒に入って耐えるだけなんだけど。
その甲斐もあって、先程は初めて霊道を通り朧に辿り着くことができた。
「なー、さっきから何見てるの?」
私のスマホを覗き込んでくる灯。
「なになに……人気絶頂! Wild Weaselの魅力について迫る」
私が見ているのはあるニュースサイトの特集ページだった。
"Wild Weasel"とは今大人気のアイドルユニット、別に私がアイドルオタクだからそれを見ているわけではない。注目したいのは……
「まさか、この人が退魔巫女だったなんてなぁ」
そのメンバーの一人に、マイカという人がいた。綺麗な銀髪が特徴的、日本人離れした容姿、美人でスタイル抜群、歌唱力も高い、ユニットの中では一番人気だそう。
あの夜、アリスの胸を撃ち抜いた謎の人物。後から霧にそれがこの人であると教えられた。
本名は"東坂舞花"。そう、名字から分かる通り東坂家の退魔巫女だ。
「なんで私たちの近くにいたんだろう」
「さーな、あいつ気まぐれだから」
適当な返事を返してくる灯。灯はこう言ってるけど……東坂は南野と非常に近しい関係らしい。
そして、その二つと北條&西嶋は対立関係にある、果たして本当にただの気まぐれなのだろうか。
「……なんか嫌な予感して来た」




