30話 新たな住人
「んぁ〜……疲れたぁ」
深夜、戦いを終えた私たちはようやく探偵事務所に帰還した。
「ってか、灯はそのまま反対の電車で帰ればよかったんじゃ」
「いや、ウチ乗り換え考えたら間に合わんし。そういや雫は?」
二階に上がるエレベーターの中、灯が思い出したようにそう私に聞いてきた。
「コンビニ行くって、聞いてなかった?」
「あぁ〜、眠すぎて聞いてなかった」
確かに眠い。まあこんな時間帯だし……
「……あの人形の件は明日にしよっか」
「おー、だな」
そして、エレベーターを降り二階の探偵事務所へ。ドアを開けると聞こえてきたのは……
「ぎゃー! 何してくれてんのよー!」
騒がしいあの影霊人形の叫び声。
「ちょーっとだけ、ちょーっとだけだから!!」
そうして、真鶴さんの声。いったい何をしてるのか。
「戻りました〜」
「あら、あげはちゃん。それに灯ちゃんまで……遅くまでご苦労様」
こちらに振り向く真鶴さん、例の人形ドタバタと事務所の中を駆け逃げ回っていた。
「くるなー!」
部屋の中をぐるぐる投げて回る人形。なんだかこうして見ると小さい子供のように見えてきた。
……さっきまでコイツと戦ってたんだよね、なんだか不思議な感覚だ。
「あー……なんか面倒くさそうだし、私もう寝るわ、後よろしく」
「あ、ちょ……」
灯が事務所を出て行く、バタンと扉が閉まる音。多分私の部屋に入ったのだろう。逃げやがった……
「えっと、何してるんですか?」
「ほら、この娘ボロボロだし。汚れてるし……着替えさせてあげようと」
確かに、この娘。割と悲惨な状態だしなぁ。
「余計なお世話です!! 私は人間の施しなど……ぎゃ!」
彼女が私にぶつかる。よそ見してるから……
ぶつかって尻餅をついた彼女を持ち上げる。
こうして見ると、こんな状態ではあるけど凄く精巧で出来がいいのがわかる。
それにこの手の人形ってなんか不気味なイメージがあったけど、この娘は全くそんな感じがしない。
なんというか、どちらかといえばアニメキャラのフィギュアみたいな感じ……
「作った人の趣味が込められてる感じがする……」
「な、なんです急に……よくわかってるじゃないですか! あなた人間にしてはセンスがいいですね」
おっと、口に出てしまっていたようだ。だが彼女も満更でも無さそうな様子。
「あ、穴が……」
胸には先程の撃たれたものと思われる弾痕が残っていた、サイズダウンしたのでその分穴もかなり小さくなっていたが……それでも目立つ。
と、そこに雫がコンビニから戻ってきた。事務所に入り。人形と戯れている私と真鶴さんの元に来る。
「本当にその影霊連れてきたのね……霧姉ったら」
どうやらあの霧の一連の行動を霧のボケか何かだと思っていたらしい。
『当然、貴重なサンプル』
ピコンと、私のスマホにメッセージが入る。
「だってさ」
私はそのメッセージを雫に見せる。
「誰がサンプルですか! 私は誉高き影霊で……」
「はいはい」
まあ確かに、こんないつもと違う影霊は初めてだ。なにか重要な情報が手に入るかもしれない。
「……こういうのって治せないのかな?」
私は彼女のボロボロの身体をみてそう呟いた、見ていてあまりにも可哀想だ。
「その手の専門のお店行けば修理してくれるでしょ」
雫の答えに影霊は「治してくれるの!?」と反応する。
「あ、そういえば紫電ちゃんの趣味がドール関係だったような……」
唐突に出てきた名前。紫電ちゃんとは勿論一階で洋菓子店を営みながら、密かに武器の面で私たちを支援してくれているあの紫電さんのことだろう。
普段、影霊退治で使う退魔弾や、さっき使っていたフラッシュライトなどを始めとする銃のカスタムパーツなどは彼女から買っている。
「えぇ……意外ってレベルじゃないんですけど」
紫電さんってめちゃくちゃ怖いイメージあるし。
「あら、そう? 紫電ちゃんも女の子だし」
女の子、ねぇ……
〜〜〜〜〜〜〜
数日後、紫電さんが人形の影霊を抱えて事務所にやってきた。
「すごい……綺麗……」
「ふふん、どーよ! もっと褒めてもいいんですよ!?」
自信満々に自らの身体を見せつける彼女。ヒビや欠け、弾痕は無くなり綺麗な状態に。汚れていた髪もサラサラとした綺麗な金髪に戻っていた。
「職人の技って感じ……まさか紫電さんにこんな才能があるなんて……」
意外ってレベルではない。
「ホント、人は見かけによらないわね」
私の隣にいる雫も同じ事を思ったようだ。
「代金はお前のバイト代につけとくからな」
紫電さんはそう言って事務所をさっていった。ていうかお金取るのか……まあ仕方ないけど。
「あ、そうだ。さっき通販で買ったドール用の服買ったとか言ってたよね?」
「ええ、そこにあるわよ」
雫が事務所の机に乱雑に置かれていた箱を指さす。というかなんだかんだ言って雫も結構ノリノリというか……やっぱり女の子ってこういう人形とか好きなのかな。
私はそんな事を考えながら箱を手に取り開封した。
「……雫、これ狙ったでしょ?」
そうして、私は影霊にその服を手渡した。
「へぇ、いい服ですね」
そうして、その服を着る彼女。
流れるような綺麗な金髪ロング、頭にはカチューシャ。そうして青色の可愛らしい服。
「ねえ、あなたって名前ないの?」
私は彼女にそう聞いてみる。
「名前ねぇ……そんなの考えた事なかったです」
どうやら彼女は名無しの影霊のようだった。
「……こりゃ、もう名前なんて一つしかないわね」
雫も同じ事を思ったようだ。
「「アリス」」
私と雫の声が重なる。やっぱそうだよね、このビジュアルならその名前しか思い浮かばない。
「アリス……? なんでそんな名前を?」
若干不満げな様子の彼女。
「いや、その見た目ならこの名前しかないって」
「はぁ、まあ好きに呼んでいいですけど……ねぇ、あなた……あげはって言うんでしたっけ?」
彼女が唐突に私の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
「あなた、私の魅力をよくわかってるみたいですし……あげはを私の下僕一号にしてあげるです!!」
は、はぁ? 唐突に何を言い出すんだこの娘。
「どうせ行く場所もないし、ここを私の根城にするです!」
……そうして、探偵事務所ににぎやかで喧しい仲間が増えたのであった。




