29話 闇夜のスナイパー
「え、ちょ……どうなってるの?」
一体どうしたというのか、いきなり倒れ出したけど……
『……この反応、やっぱり来てたんだ』
雫が静かに呟く。何か心当たりがあるのかな?
私たちは倒れた影霊に駆け寄る、大きな巨体は微動だにせず横たわっていた。
「しっかし、デカいしボロボロだなぁコイツ」
影霊を見下ろす灯。確かに、改めて見ると可哀想なくらい欠けやヒビが多い。
煤けた青い服を着たその少女のような人形、汚れで分かりづらいが髪色は金髪である事がギリギリ分かる。
……無駄にデカいから不気味に見えてたけど、こうして見ると結構かわいい。
ドールの世界とかよく知らないけどこんな可愛く作れるモノなのかな?
「ここ、見て」
雫がある一点を指さす。人間で言う丁度心臓の辺りに弾丸で貫かれた様な穴が空いていた。
「もしかして、あいつか?」
弾痕を見た灯が辺りを見渡す。
『多分、三個離れたビルに反応がある』
「何? 知り合いが来てるの?」
どうも話についていけない。
「知り合いというか……なぁ?」
「……はぁ」
なにやら「面倒くさ……」みたいな雰囲気を漂わせる灯と雫。
「あれ……なんかこの人形キラキラ光ってない?」
倒れ込んでいる人形の周りに煌めく粒子が瞬いていた、私たちはそっと人形から距離を取る。
『……存在が変質してる?』
「え? どういう事?」
私のその疑問に霧が答えるより先に、人形の周りを青色の魔法陣が取り囲んだ。そうして、人形はどんどんと小さくなっていき……
「どうなってんだこれ……?」
最終的に丁度500mlの缶くらいの大きさにまで小さくなっていった。魔法陣は徐々に薄れて消えていく。
「ちっこいな〜こいつ、これが本来の姿って事か?」
灯がその人形に近づき、持ち上げようとしたその瞬間であった。倒れていた人形が急に立ち上がり灯の手をパシッと跳ね除ける。
「触るなです!」
しゃ、喋ったぞこいつ!?
「影霊って日本語喋れるの?」
『影霊と人間が意思疎通を交わしたという報告は今まで一例もない』
そうなのか? でもここには現に喋る影霊が居るんだけど……
「よし、捕獲しよう! 霧!」
『了解』
そうして、何処からともなく霧の使い魔が現れ、人形の頭上に静止する。
「ちょ、何を……」
慌てて逃げようとする人形。しかし、上空に静止したドローンから何やらうっすらと光る網のようなものが射出された。
「うぎゃー! 何するのよ!!」
哀れ、影霊は網に捉えられてしまった。そうしてまるで水揚げされる魚の如くドローンに網で吊り下げられる人形。
「私を誰だと思ってるんです!? 私は職人の手によって作られた超高級なドールなんですよ!」
「はぁ、いちいちうるさいなぁ……霧、とっとと運んでよ」
灯がダルそうにそう呟くと、霧のドローンからシュッと旗のようなモノが飛び出した。
『大漁』
旗にはそう書かれていた。うん、説明するまでもなく大漁旗だ。何でそんな機能付いてるのこのドローン……
『帰還する』
そうしてドローンは静かに飛び去っていった。
「さー、終わった終わった、私たちも帰ろうぜ」
周囲を取り囲む朧特有の雰囲気が薄れつつあった、例の影霊を排除した事で消えかけているのだろう。
「結局、あの人形がこの朧を生み出してたって事でいいの?」
私は雫にそう聞いてみた。
「そうじゃない、あれ以外に反応はないし」
……あの人形、ホント何なんだろう。明らかにいつもの影霊とは雰囲気が違うような気がする。
そんな会話をしているうちにスゥーっと朧から抜ける感覚があった。どうやら学園に発生していた朧は完全に消滅したようだ。
「これで学園も元通りかな」
まあ、あの人形の悪戯で生まれた噂はしばらく残ると思うけど……
「あれ、よく考えたらもう終電の時間過ぎてね……?」
灯が唐突にそんなことを言った。私は腕のスマートウォッチで時刻を確認。
「……まだ間に合う、急ごう!!!」
終電の時間は事前に調べていたけど……かなりギリギリの時間だ!
「うおー! 急げ!!」
〜〜〜〜〜〜〜
「へ〜……あれが新しい退魔巫女ねぇ、かわいいじゃん」
学園より少し離れたビルの屋上、一人の少女がPSO-1越しに一連の光景を覗いていた。
「人形を使って正解だったね、それにしてもあの黒髪の忍者みたいな格好してる娘……ちょっとお嬢に似てるなぁ」
スコープから顔を上げ、得物を抱え立ち上がる少女。長い銀色の髪、サイドテールが夜風に晒されゆらゆらと揺らめく。
そうして、少女はポケットからスマホを取り出して何処かに連絡を入れる。
「あ、もしもし〜お嬢? 聞いて聞いて、今ねー、どこにいると思う?」
『こんな時間に……一体なんですの?』
電話越しの相手は不機嫌そうな様子で少女に返答する。
「まあ聞きなって、この前お嬢が話してた北條の新しい退魔巫女がさ……あ、私明日早いんだった、ごめん切るね、また今度連絡するから〜」
『は、はぁ!? ちょっと待ちなさい、非常識にも程が』
プツッ……と電話は切られる。
「いやはや、退魔巫女とアイドルの二重生活は大変ですなぁ」
スマホをポケットにしまう。
「ありゃ、もう三人とも帰っちゃったのか」
学園の方には顔を向けずに、気配で三人がいない事を確認する少女。
「こっちの朧もそろそろ消えそうだし、私も退散するかぁ」
そうして、銀髪の少女は闇夜に紛れて消えていった……




