28話 遊びはお終い
剣を落とし動きを止める騎士、私はソイツにスタスタと近寄り頭の隙間から脳天に一発撃ち込む。
9mm退魔弾の薬莢が地面に跳ね転がる音、そうして……人形の騎士は静かに霧散した。
「遅いわよ」
雫は私なんかよりも早く、速攻で騎士を倒していた。流石というべきか。
「ご苦労ご苦労」
後ろで偉そうに腕を組む灯、いやちょっとは手伝ってよ……
「さぁーて、これで後は本命だけだね」
先程とは一変して静かな様子で私達の戦いを眺めるようにしていた影霊。
手下を倒されたというのに、なんだかまだまだ余裕そうな様子だけど……
そして、大きなビスクドールの影霊はケタケタと笑い出す。
「あいつ、なにがおかしいんだよ」
「……ちょっと待って、なんか喋ってない?」
微かに声が聞こえる様な気がする。
「あ……そ……ぼ……」
掠れた少女の声、口の動きとも一致する。間違いない、あの影霊が喋っている。
「遊ぼう……だってさ」
「はっ、上等! たーっぷり遊んでやる!!」
灯の叫びがホール内に響き渡る。
「……あれ?」
なんか足音が聞こえる。この足音って……さっきの騎士と同じ?
「ちょ、マジ?」
そうして、先程と同じ様な人形騎士が何処からともなく、暗がりから現れる。
しかも一体や二体だけじゃない。何体も何体も続々と影霊を守る様に集結する。
「……灯が変な事言うから」
「私のせいかよ!?」
まあ、こういうのはお約束というかなんというか。
「姫を守る騎士団……ってとこかしら」
冷静な様子でその騎士団を観察する雫。騎士団の後ろに控える姫は面白そうな雰囲気でこちらに視線を向ける。
「あ……そ……ぼ……?」
再び聞こえる声。
「くぅー、イラつく奴だなぁ!」
『一体一体は大した事ないけど、あれだけ多いと面倒』
確かに、パッと見た感じ概算九体くらいいる感じがする。
「一人三体ね」
と、雫。いやはや簡単に言ってくれるなぁ……
「まあ待て待て、ここは私に任せな」
灯が私たちの前に出る、何か策があるのかな?
『灯の"あれ"なら一掃出来るはず』
「あれ? 何それ?」
いったい何が飛び出してくるというのか……
「まあ見てなって」
そうして、フワリと灯の周りの空気が変わる。暖かい……いや、熱いくらいの闘気が渦巻いているようだ。
その熱さに気圧されたかの様に、騎士団たちは動かずに警戒した様子で剣を構えこちらの様子を伺っている。
「来なよ!! 火狐!!!」
灯の叫び、コンとは彼女の姫神の事だろうか。
そうして……灯の周りに鮮やかな炎が渦巻く。
『あ、解説するとあれは本物の炎じゃなくて魔力の残滓がそう見えているだけだから』
……ご丁寧にどうも。
霧の解説の後。一瞬だけ狐の様に見える、ユラユラとした炎のオーラが灯の腰の刀に纏わりつく様子が見えた。
「────西嶋流抜刀術、焔参型」
静かに横に払われる紅い刃先。メラメラとした炎の弦……例えるなら真っ赤なレーザーの様な物が騎士団たちを一閃した。
「マジか……」
相変わらず技のスケールが段違いだわこの娘。
炎の弦はそのまま洋館の壁にぶち当たる。パックリと、まるで人の傷跡のように……肉が切れたような空間の揺らぎを見せた。
「ちっ、勘の鋭い奴、ついでにと思ったけど」
なす術もなく切り払われた騎士たちとは違い、奥に居座る姫は……何やら魔法陣の様なものを展開して攻撃を防御していた。
『あれ……西洋魔術、やっぱりなんか変……』
なにやらブツブツと呟いている霧。
だが、影霊も完全に攻撃を防げたわけではない様子、直線的な赤い傷跡が影霊に付いていた。
私は銃を構え、パタパタと手裏剣を周りに飛ばす、隣にいた雫もシュッと薙刀を振り下ろしとどめを刺すための攻撃の体制に入る。
だがその時。
「あれ? 空間が……」
ブワッとホール内が揺らぐ、そうして洋館の大食堂の様な光景から元の現代的なホールに戻ってきた。
「元に戻った……」
どうやら影霊の幻術は灯の技の影響で消え去ったようだ。
「さー、遊びは終わり。そろそろ大人しく倒されてくれないかなぁ?」
余裕そうにビシッと影霊に向かい指をさす灯。
「……」
静かにコチラをギョロっと見渡す影霊……そして次の瞬間、なんとその影霊はスゥーっと姿を消した!
「なっ……!」
『落ち着いて、転移魔術を使った。あの様子なら多分遠くには行かない』
霧の冷静な解説。っていうかさっきから気になってたんだけど。
「あいつなんか変じゃない? 影霊なのに変な術ばっか使ってきて」
まるで魔法使いの様だ。
「あれって西洋の魔術だろ?」
灯は心当たりのある様な口調でそう答えた。
「西洋……魔術?」
なんかいきなりファンタジックなノリになってきた様な。
『まあ、その辺りのことは今度説明してあげる。とにかく今はあいつを追おう、屋上に反応あった』
気になるけど、まあ確かに今はあの影霊を追う方が先だよね。
そうして私たちはホールを出て屋上に向かう。
「いやがった……!」
屋上、気味が悪いくらいに綺麗な月明かりが辺りを照らしまるで昼間のような明るさが屋上を包んでいる。
「鬼ごっこはお終い?」
雫が子供に問いかける様に、夜空を眺めながら立ち尽くしている影霊に声をかける。
「おい、なんか様子変じゃないか?」
そうして、影霊はフラッと静かに倒れ込んだ。
「……え?」




