27話 ビスクドールの宴
「いつまで経っても見つかる気配もないしなぁ」
と、面倒くさそうに呟く灯。
「ねえ、やっぱり放置して帰っても……」
『それはダメ』
一瞬で却下される。まあわかってはいたけど。
「せめて、元凶の影霊と接触できれば……」
雫が考え込む様子を見せる。
『ん……ちょっと待って、何か今……!? 魔力がそのホールに集中してる! なんでこんな急に……』
「霧? どうしたの!?」
私が霧に状況を尋ねようとしたその時であった。暗かったホールが急に明かりに包まれる。
「な……!」
バッ、バッ、と次々と明かりを点す照明、そして……ステージの上、モヤモヤとした黒いモヤのようなものが集まりつつあるのが見えた。
「何? 急に……」
「ようやく影霊のお出ましか!?」
雫と灯は臨戦体制をとる、私もすぐに武器を取れるように構えた。
そして……ステージのモヤが徐々に薄れていき、大きな人影のような物が見えた。
「あれは……」
現れたのは大きな女の子の姿をした人形。あれはビスクドールというやつだろうか。しかし所々崩れ、欠けて……着ている衣服もボロボロだ。
「でけー、なんじゃありゃ!」
驚く灯。確かに、ここからステージまでそこそこ距離はあるのにそれでも「デカい」と感じる。三、四メートルくらいはあるだろうか。
『どうやらビンゴだったみたい、このホールが影霊の巣っぽい』
なんという偶然……あれだけ探しても見当たらなかったのに。
『でもなんだろう……普段感じる反応より少し違うような気がする』
煮え切らない雰囲気の霧、何か気になる所があるのだろうか。
「とにかく、あれが影霊なのは間違いないんだろ? なら倒すだけでしょ!」
灯は鞘から刀を抜く。すると、ステージ上の影霊はそれに呼応するかのように大きな声を上げた。
「……ッ、うるさ!」
女の子の悲鳴のような叫びがけたましくホールに響く。若干の眩暈を覚え目を擦る、そうして気がつくと……
「ちょ、ここ何処!?」
辺りを見渡す。私はホールにいたはず……だよね?
「洋館……?」
まわりの様子は一変していた。現代的なホールは何処へやら、私たちを取り囲むのは古めかしい洋館のような内装だった。
上方のシャンデリアがユラユラと揺れている。広さはあまり変わっていない、そして規則正しく並べられたテーブルや椅子。
そう……例えるなら洋館にある大食堂のような場所にいた。
「これもヤツの幻術?」
だとしたら厄介な相手極まりないな……
『気を付けて! 攻撃くる!!』
霧の叫び、それとほぼ同時に影霊の近くにあった大きなテーブルがフワッと持ち上がり……こちらに向かい飛んできた。
私は横に跳びそれをかわす、勢いよく背後の壁にぶつかるテーブル。随分と手荒い歓迎だ。
「しゃらくせえ!!」
灯が影霊に向かい駆け出した。影霊もそれに呼応するかの様に次々と椅子、テーブルを射出してくる。
それを軽々と避けていく灯、そのまま影霊に斬りかかる。
『ちょ! 灯ストップストップ!!』
慌てたような様子の霧。
その時だった。突如上方から人影が現れ灯に向かっていく。そいつの手には……剣のような物。
「……ッ!?」
鍔迫り合い、現れたのは影霊と同じようなボロボロの人形であった、灯は後ろに跳び距離を取る。
「驚いたー! まさか他の人形もいたなんて」
現れたもう一体の人形はまるで騎士のような格好をしていた。奥の影霊とは違いサイズは普通の人間くらい。
姫を守る騎士という事だろうか?
『だからストップって言ったのに』
「はぁ……なんの考えもなしに突っ込むから」
呆れ気味にそう呟く雫。
「あれ、もう一体いる?」
暗がりからもう一体、騎士が足音を立てて現れた。
二体のナイトは主人を守るかの様に大きな影霊の前に立ちこちらに剣を向けている。
「しゃーない、手分けしよう。雫とあげははあの騎士みたいなのお願い!」
「……はいはい」
薙刀を構える雫、私も胸の飾りを手に取り刃を出す。
……少し、新しい技を試してみようかな。
私は頭に蝶の手裏剣が増えるイメージを思い浮かべた。すると手にあるそれがフワッと揺らぎ……新しくもう一個、同じ手裏剣が現れる。
それをポイッと上に投げる。二つの手裏剣はフワフワと蝶のように私の周りを飛ぶ。
動きは不安定だが、逆にそれが蝶っぽく見える。
「あげは、なにそれ? おしゃれだね〜」
「でしょ? 成功してよかった……」
奥の影霊は攻撃をせずにこちらの様子を伺っていた、いや……手下の騎士に全てを任せているようだ。
先に飛びかかってきたのは騎士の方だった、二体の騎士が剣を構えこちらに駆け出してくる。
私は腿のホルスターからグロックを抜いた。そして脳内で二対の蝶が勢いよく直線的に飛んでいくイメージを浮かべる。
一匹が私の方に向かってくる。騎士の甲冑はボロボロだ、首の間に隙間があるのが見えた。
「慎重に……慎重に……」
狙いを研ぎ澄ませる、トレーニングのようなミスはしてはならない。全神経をコントロールに集中させる。
一個は正面から、首を狙った。しかし……
キィン……!!
剣によって弾かれる、真っ直ぐ捻りのない動きだし仕方ない。
だけどもう一個は……
「!?」
騎士が気配に気が付いたようだ、だけどもう遅い!
背後から回り込み、急カーブを描きながら騎士の首に向かいスッと飛ぶ黒い蝶。
そして……手裏剣鮮やかに騎士の首元に突き刺さった。
「……っし! 当たった!」




