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23話 噂

〜東京都 八王子市 某所〜



「新しい退魔巫女……ですか?」


 広々とした豪勢なお屋敷、その一部屋。一人の少女が部下の報告を聞いていた。


「はい、なんでも北條性だとか……しかしデータなど一切なく、素性が全く不明なのです」


「……」


 和服を纏ったその少女は、長い黒髪を弄りながら真面目な様子でその報告を聞く。


「北條はあの事件以来完全に大人しくなったと思ったのに、最近はまた活動が目立ってますわね……で、その新しい退魔巫女、生き残りでしょうか?」


「いえ……北條家で生存が確認されているのは北條霧、およびその妹の北條雫の二名のみですが……」


 それを聞いた少女は深いため息をつく。


「現に北條の姓を名乗る新しい退魔巫女が現れたのでしょ? まったく……調査不足にも程がありますわね、その新しい退魔巫女、徹底的に調べなさい!!」


 ピシャリとそう言い放つ少女。


「は、はい……!」


 部下は頭を下げて逃げるように部屋を去っていった。


「……黒猫、どういうことですの!」


 少女が、部屋の中でダラダラと、気持ちよさそうに寝っ転がっている猫に話しかける。


「さあね〜、姫神同士の事情なんて、お互いなんもわからないし」


 と、少女の問いに答える黒猫。


「宣託もなかった……その姫神と退魔巫女、一体どこから湧いてきたのかしら」


 ブツブツと呟きながら考え込む様子少女。


「ま〜た始まった、別にいいだろ? 一人や二人増えたってなんも変わらんって」


 黒猫は呆れたような様子を見せる。


「なりませんわ、影霊との(いくさ)において、この南野家が把握していない事などあってはなりません」


 少女は立ち上がり、部屋を出る。縁側、豪華な庭園越しに遠くに見える高尾山を始めとする山々を、使命感を帯びた視線で眺める。


「やれやれ……人間同士の縄張り争いってホント面倒くさいねぇ」



〜〜〜〜〜〜〜



 地下二階の射撃訓練場、乾いた発砲音が響き渡る。


「うーん……当たらん、いつまで経っても慣れないなぁこれ……」


 ターゲットが自動的にこちら側に寄ってくる。私はそれを確認、命中率はお世辞にも高いとは言えない。


 実銃の反動には慣れたつもりだけど、それをうまく扱えるかは話が別だ。


 一度フルオートでも撃ってみたけど、反動が凄まじくか弱い少女の私には到底扱えなさそうだ。


 そもそも普通の十七発のマガジンじゃ一秒で弾切れするし、どういう時に使えばいいんだろうか……


 空になったダブルカラムマガジンを抜く、退魔弾入りのマガジンに入れ替え、スライドを戻したグロックを置き、耳当てを外す。


「こっちもトレーニングしとかなきゃな……」


 制服の胸元についている蝶の飾りを外す。黒鉄の冷たい光を浴びきらりと光るそれ、そうしてパチンという音と共に飛び出る刃。


「そりゃっ!」


 横に振りかぶる、ヒュン……という音ともに隣のレーンのターゲットに向かい飛んでいく手裏剣。


 スパン……と綺麗に二つに切り裂かれるターゲット。その勢いのままガンッと壁に突き刺さる。


「……こっちの腕も、あんまりだしなぁ」


 当たったは当たったけど、黒い人影のような部分には掠りもしていない。切れたのは右斜め上、隅っこの方部分だ。


 ちなみにこの蝶の手裏剣、変身していない時でも少し念じれば実体化してくれた。


 最近ではアクセサリー兼、何かあった時用の為にいつも服に付けている。


「おーい、もどってこーい」


 そう呟くと、壁に刺さっていた手裏剣はスッと消えて、刃がしまわれた状態で私の手元に戻ってきた。なかなか便利な力だ。


「それっ」


 手裏剣を上にポイっと放り投げる、手裏剣は落ちないでぷかぷかと浮かぶ。


 私は自分の周りをそれがクルクルと回るイメージを思い浮かべる。プルプルと拙い動きでそれは私の周りをクルクルと回り始めた。


 ……うぅ、なんでこうも頼りなく安定しない動きなんだろう。


「もうちょいうまくコントロールできればカッコ良く戦えそうなんだけどなぁ……」


「まったく……銃も手裏剣も、どっちも下手くそってレベルじゃないですねホント」


 後ろから私の様子を眺めていた揚羽。


「悪かったな、下手くそ以下で……んー、最初に変身した時は凄く綺麗に飛ばせたんだけどなぁ」


 スティーブンは飛んでいくイメージを浮かべろとか言ってたけど、何か他にもコツがあるのだろうか。


「頭の中がえっちな事でいっぱいだからですよ、もっと煩悩を捨ててください」


「……もうその話はやめてください」


 穴があったら入りたいですホント。


 あれから数日、流石に控えるようにはしている……ホント黒歴史だ……


 私は制服の胸元に蝶の飾りを付け直し、銃を腿のホルスターにしまう。


「はぁ、そろそろ行こうかな」


 そばに置いてあったカバンを取り射撃訓練場を出てエレベーターに乗る。


「雫〜? いないの?」


 探偵事務所に戻る、真鶴さんはまだすやすやと寝ていた。


 私はそれをスルーして雫の部屋の前に立つ。声をかけるが応答がない。そもそも気配も感じない。


「どこいったんだろう……まあいいか、どうせ今日も行かないだろうし」


 私は事務所を出て学園に向かう、駅に行き地下鉄に乗る。朝はめちゃくちゃ混んでるから憂鬱なんだよなぁ……


 電車の中で雫に『どこ行ったの?』『今日は学校来ないの?』とメッセージを送ってみたが反応は無かった。


 電車を降り、駅で灯と合流。


「あ〜……ねむ、帰りたい」


 大きなあくびをしながらそう呟く灯。私たち二人はダラダラと気怠い朝の雰囲気の中学園への道を歩く。


「ねえ聞いた?」「聞いた聞いた! あの話でしょ?」


 何やら、同じ道をいく百合々咲の生徒達がヒソヒソと噂話をしているのが耳に入った。


「学園内で変な幽霊見たって!」「それウチも聞いた事ある〜」


 幽霊、いやまさかとは思うけど。


「……なぁ、灯。もしかして」


「考えすぎでしょ」


 だといいんだけど……

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