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21話 学園を抜け出して

「はぁ……はぁ……最後! 灯! そっちに一匹いったよ!!!」


 ドタドタと、黒々としたイノシシの様な影霊が、毛を逆立てながら灯の方に突進していく。


「おう! 任せな!!」


 巫女服をオシャレにアレンジした様な装束を纏っている灯が自信満々な様子で私にそう答えた。


「そりゃっ……!!!」


 紅色の日本刀を振りかぶる灯、影霊は気持ちの良いくらい真っ二つに両断された。


『周囲に残敵なし、終わりみたい、おつかれさま〜』


 霧の声が頭の中に聞こえる、彼女はこうしてあの探偵事務所から私たちの戦闘をサポートしてくれているのだ。


「雫さ〜、もうちょっと私たちと連携とってよ」


 灯が雫にそう話しかける、雫は少し離れた場所で涼しい顔をしながら私たちの戦いを見ていた。


「私の分はとっくに処理したたわ、アナタ達が倒すのが遅いのよ」


「はぁ……融通の効かない奴、こっちには新人がいるんだぞ?」


 なんとも微妙な雰囲気の二人。やっぱりこの二人はなんとなく相性が悪いなぁ……


「ま、まあまあ、全部倒したんだからいいじゃん」


 私は二人の間に割って入る、なんだか最近はいつもこんな役目をしている様な気がする。




 私が百合々咲学園に転入してから四日、授業中スマホに霧からの連絡が入った。


『影霊出現!』


 という短いメッセージと共に経度と緯度を示す数字が添付されていた。マップを開きその座標を入力する、座標は学園から地下鉄を使い五分ほどの場所だった。


 私と灯は授業を抜け出しその場所に向かう、ちなみに雫は今日は学園には来ていなかった。


「私、先行ってるから!」


 と灯は退魔巫女に変身、そうして「え〜っと、この辺りかな……」と呟き、何もない空間に大きく蹴りを入れた。


 ピシッ……とヒビが入るような音。空間にガラスのヒビのようなものが現れる。灯はその場所にもう一度蹴りを入れた。


 そうして……ウネウネとした空間がねじ曲がったような入り口が現れた。灯はその入り口になんの躊躇いもなく入っていく。


「私もあれ使えたらなぁ……」


 あれは霊道といって、影霊の住処への近道らしい。


 東京には至る場所に霊道……朧になりかけている空間が網目のように張り巡らされている。この道は空間がねじ曲がっている。影霊が使う通り道であり奴らはこの道を使い移動するとか。


 私たち退魔巫女は逆にその霊道を利用させてもらっている。こうする事で影霊が出現した朧にタイムロスなく辿り着く事ができるという事だ。


 ただ……今の私にその道を通ることはできない。ある程度の経験と勘がないと空間の狭間に堕ちてしまうとかなんとか。


 なので、私は普通に地下鉄で現場に向かう。朧が発生していたのは街のど真ん中であった。


 人が消え、夕方の様な茜色の空が浮かぶ朧、イノシシのような影霊は群れを成して我が物顔で街を闊歩していた。


 朧では既に灯と雫が戦っていた、そうして私もそれに参加。そうして……話は冒頭に戻る。




「まったく……じゃ、戻ろっかあげは」


 変身を解いた灯が私の手を引きながら、その場を離れようとする。


「あ、うん……雫は事務所に帰るの?」


「いいって、放っておけよ」


 少し怒ったような様子の灯、そうして私と灯は朧から出る。



「はぁ……あいつも色々抱えてるのはわかるけど……もうちょっとウチらと仲良くしてくれもいいじゃんさぁ〜」


 駅へと歩いている途中、灯がそんな事をボソリと呟いた。


「抱えてるって、家の事?」


 私がそう聞くと灯は何か言ってはいけない事を言ってしまった、みたいな表情をして目を逸らす。


「アイツから北條家の事、どれくらい聞いてる?」


「いや……あんまり聞いてない」


 何か特別な事情がありそうなのは察してはいるが。


「じゃあ私からも言わない、ベラベラと話すような事じゃないしな」


 そう言われるとすごく気になるけど。あまり他人の家の事情を詮索するのも良くないよね……


 私はチラリと後ろを振り返る、雫はもうとっくに何処かに行ってしまった。朧から現へと移り変わった街は、先程の戦闘のことなどまるで無かったかのような当たり前で普通の街並みになっていた。



〜〜〜〜〜〜〜



「で、2人して授業抜け出してどこ行ってたわけ?」


 学園へと帰る、時刻的には丁度休み時間。私たちを待ち受けていたのは……担任の先生による叱責だった。


「いや〜、すみません。急にラーメンが食べたくなりまして……」


「ラーメンなら学食にも……ってそんな問題じゃないでしょ!」


 呆れたような様子の先生。この人も中々の苦労人っぽいなぁ……


 先生に十分ほど説教され解放される。その際、先生に私だけ呼び止められた。


「ねえ……あなた西嶋さんと仲良いみたいだけど」


「え? はい、それが何か?」


 いきなり何の話なんだろうか?


「彼女、悪い娘じゃないんだけど……あの通り問題行動が多くて」


 そう言って、深いため息をつく先生。


「成績は優秀だし人気者なんだけど、やる事が豪快というか……とにかく、あんまりあの娘に悪影響受けないようにね!」


「はぁ、まあ心がけます」


 この先生、やっぱり灯に振り回されているようだ……色々と同情するかも。

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