2話 未来の東京
悪い夢でも見てるのかこれ……
とにかく、落ち着いて状況を整理しよう。私はまず、今日の朝、普通に家を出て、普通に通学路を歩き、普通にトンネルを潜り───
「そうだ! トンネル……」
私は後ろを振り向く。
薄暗いトンネルは私を嘲笑うかの様にそこに存在したままであった。
私はトンネルの方にダッと駆け出す、きっとこれは夢だ、このトンネルを抜ければいつもの通学路が待っているはず……
タッタッタッッ……
トンネル内に私の足音が響き渡る。
……胸がポヨンポヨンする、当たり前だけどブラジャーなんかつけてないし。
着ているものは男物の学生服、身体が小さくなってしまったのかブカブカで走りづらい。
そうこうしてるうちに、トンネルの反対側出口にたどり着く。だがその先に待ち受けていたのは……
「嘘だろ……」
見渡す限りの崩壊した建物たち、そして真っ赤な空。
私は地面にへたり込む。
「どうしろと……」
何なんだよこのタチの悪い夢、早く醒めてくれよ。
「……っん」
……まあでも、女の子の身体をこうして味わえるのは悪くないかも。
「何自分の胸を揉んでるんですか変態さ〜ん」
「──!?」
突然、上の方から女の子の声がした。
「だ、誰だよ!」
見上げると、見知らぬ少女が……崩れた瓦礫の上に立っていた。
「誰とは失礼な、この私を知らない? ナンセンスですね」
怒った様子でそんな事を言い放つ彼女?
「はぁ? アンタ何言って……」
なんなんだよこの女……
「えいっ」
と、突然彼女はピョンと飛び上がり、スタンと私の目の前に着地する。
「ん〜……きみ今の時代の人間じゃないよね?」
彼女の赤い瞳が私の事をジロジロ見つめる。というか、今の時代の人間じゃないって……
「それどういう事?」
「そのままの意味だよ、多分ここは君がいた時代から何年も時間が過ぎた"東京"だから」
──は?
「アンタ何言って──」
その時、ふと数十メートル程先に、先程自分の姿がガラスに映りブルーな気分にさせられたりコンビニらしき建物があるのが見えた。
……まさかな。
私はそこに駆け寄った、コンビニはほぼ廃墟同然であった、私は中に入り側に乱雑に散らばっていたスポーツ新聞らしき紙切れを手に取る。
「嘘……だろ……」
そこに記されていた日付は、私がいた年から一年ほどかけ離れていた。
「夢だよなこれ?」
「夢じゃないよ? えいっ!」
と、突然後ろから現れた先程の少女にビンタされた。痛い、いきなり何するんだよこいつ……!
「ほら、痛いでしょ? 醒めないでしょ?」
古典的な確認方法どうもありがとうございます。
「なぁ……マジなのかよ、ここが未来の東京だって」
「マジですよ、自分の目で確認したでしょ」
私は地面にへたり込む。
「トンネル抜けたら未来に来てて、しかも女になってるとかなんの冗談だよ……」
あまりにも現実離れしすぎてる、こんな事が現実に起きるのだろうか。
「あなた男の人だったんですか?」
と、驚く彼女。私はここにくるまでの経緯を詳しく彼女に説明してあげた。
「なるほど……おそらく、時空間の歪みを通過したことが原因であなたの身体が男性から女性に変換されてしまったのでしょうね」
そんなバカな話があるのかよ……
「……お前は何者なんだ?」
私はふと気になっていた事を聞いてみた。こんな荒れ果てた世界の住人にしては清潔感があり身なりもしっかりとしてる。
「私ですか? ふふん、よくぞ聞いてくれました、私は──」
そこで勿体ぶるように言葉を切る彼女。
「私はスティーブン、僭越ながらこの荒れ果てた東京を再生する為に奮戦している凄い人なのです!」
彼女は、決して大きくはない自分の胸に手を当てて自信満々に名乗る。こいつなんでこんなドヤ顔してるんだよ?
「えっと……スティーブンさん、それで……」
と、その時だった。突然外から唸る様な咆哮が聞こえた。
「──っ! 今のは!?」
なんだよ……まさか、この娘が言ってた魔物というやつなのか? 冗談じゃない。
「おい! 元の時代に戻る方法は無いのか!?」
私はスティーブンに詰め寄る。
「ん……あるにはあると思うよ」
「ほ、本当か!?」
ならとっととこんな世界とはおさらばしたい。
「その前に、っと!」
スティーブンが突然、ナイフを取り出して外の方に投げた! 一体何を……
ナイフは綺麗な直線を描きヒュン……と、外に飛び出す私はナイフが飛んでいった方を見る、そこには……
「!?」
……なんとも形容し難いグロテスクな土の人形のような存在が佇んでいた。
心臓の辺りを貫かれた土人形はバタリと崩れ去る。
「ま、マジかよ……」
ま、魔物って奴なのか。
「まずいですね、周りの雑魚がこちらの方に集結し始めてます」
困ったような仕草を見せるスティーブン。すると彼女はポケットをガサゴソと漁り出した。
「お前なにして……」
「えいっ!」
ポンっ、とポケットから何かを取り出した彼女。私は手に握られたそれを覗き込んでみる。
「なんだこれ……?」
それは、謎のブレスレット型のスマートウォッチの様な機械であった。
「アナタにはこれと契約して魔法少女になってもらいます」
……は?