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10話 未来の私へ

「ここが……ちょっと狭いけどまあいいか、住める場所があるだけありがたいし……」


 部屋を見渡す。あちこちにダンボール箱が積まれて若干窮屈に感じるが、片付ければマシになるだろう。


 探偵事務所には部屋が三つある、ひとつはあの散らかった事務所、聞けば真鶴さんはあそこで寝泊まりしてるそう……


 さらに雫の部屋。そうして最後にこの部屋。半分物置みたいになってるけど。


「あげはちゃんはあそこの部屋使っていいわよ〜」


 真鶴さんがそう言っていた。これからここは私の自室になる。


 ……まずは部屋を片付けた方がいいかな。


「あ、これ返し忘れた」


 コンビニの袋の中に乱雑に放り込んでいたグロック18Cを取り出す。


 全ての荷物が消えてもこれだけは残ってた、まあこれを渡されたのは未来が戻ってきた後だし当たり前っちゃ当たり前だけど。


「重い、本当に本物みたいだなコレ……」


 それを適当なダンボールの上に置き、私は窓を開ける。


 息苦しさがあるこの部屋に外からの新鮮な空気が流れ込む。


「……壁」


 向こう側はすぐにビルの壁。日当たりは最悪だなこの部屋。


「……何入ってるんだこのダンボール」


 私はそばにあった適当な箱を開けてみる。入っていたのは大量のカップ麺だった。


「まさかこれ全部カップ麺か?」


 他の箱も確認してみる。流石に全部カップ麺ということはなかった。半分くらいはファイリングしてある資料だった。


「流石に勝手に見るのはダメだよな……」


 ラベルに「影霊についての考察」とか書いてあるファイルがあったりして見てみたくなったけど、後でちゃんと許可取ってからの方がいいだろう。


 私は乱雑で無規則に散らばっているダンボール箱を全て端っこに寄せて積み上げる。


 これで随分とスペースの問題はマシになった。


「しっかし、ゴホッ……埃が……」


 動いたせいで埃がかなり舞っている。


「はぁ……やれやれ」


 そうして、私は自分の住処となる部屋をきっちりと掃除した。


 一時間後、息苦しく物が多かった部屋はすっかり見違えるほど綺麗になった。


「我ながら完璧……あ……ちょっと……もうそろそろキツい……」


 そこで、私は今までなるべく考えないようにして我慢していたある感覚を思い出してしまう。


「やば……小さい方が……」


 そう、私は今まで小さい方……わかりやすく言い直すと"おしっこ"を我慢していだ。


 だって、この身体になってトイレ入るとか勇気湧かなかったし……


 仕方ない、逃げていても仕方ない。


 私は自室を出る。そうして女の身体になって初めて……トイレに入った。




「ふぅ……あんな風に出るのか……不思議な感じ……」


 初めての経験を経て部屋に戻る。


「はぁ、今日はホント色々あって疲れたなぁ……」


 今更だけど今着ている服はシンプルなTシャツにハーフパンツのまともな格好だ。


 先程雫が探偵事務所に帰ってきて。私の格好を見て何かを察したのかもう着ないお古の洋服を貰った。


 ……雫って、結構優しい()なのか?


「もうこんな時間」


 時刻は16時を少し過ぎた頃であった。


「はぁ、眠い……」


 私は部屋にあった大きめのソファーに寝っ転がる。そうして……段々と眠気が深くなっていった……



〜〜〜〜〜〜〜〜



 不思議な夢を見た。私と雫が……何かと戦っていた。


 何か、多分……人? その何かが思い出せない。思い出そうとしても頭に靄がかかったみたいになる。


 でもなんというか、知らない感じではなかった。


 私は……それと戦っていて凄く怒りと悲しみを感じていた。雫も辛そうな顔をしていた。


「どうしてだよ……!」


 私がそう叫んだ。ソイツはなんて返してきたのだろうか。思い出せない……



 そこで私の目は覚めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜



「……変な夢」


 起きた時には、夢の記憶は曖昧になっていた。私や雫が誰と戦っていたのかが思い出せない。


「なーんか、嫌な夢だったな……」


 詳細は思い出せないが、正夢にならないといいな。


「あれ、毛布? 誰がかけてくれたんだろう……」


 寝ている私に優しく薄手の毛布がかけられていた。真鶴さんだろうか。


 時計をチラリと見る。時刻はすでに夕方六時半過ぎ、私は部屋を出て事務所の方に行く。


「……誰もいねえ」


 事務所は見事に空っぽ。電気も消えていて窓から優しく夕日が差し込んでいた。


 しっかし、この部屋も散らかりすぎだろ……片付けていいかな? いいよな?


 やる事もないので事務所の掃除をする事にした。窓を開けて外気を取り入れる。


 散らかっていた物を纏めて、乱雑に積み重ねられている分厚い専門書を開いている本棚に戻す。



「あれ? 綺麗になってる、掃除してくれたの?」


 真鶴さんは一時間経って帰ってきた。


「すみません勝手に、でも我慢できなかったので」


「そんな事ないわ、私掃除苦手なのよ……」


 そうして、真鶴さんは手に持っていた大きめの袋を適当な事務机の上に置いた。


「どこに行ってたんですか?」


「ん〜? そりゃ、あげはちゃんの歓迎会する為に色々食べ物買ってきたのよ」


 そういう事だったのか。


「すみません……そうだ。毛布ありがとうございました」


「え? なんの事?」



 そうして、その後。ささやかな私の歓迎会が開かれた、霧は降りてこなかった。あの娘明らかにそういうの苦手そうだしなぁ……


「なぁ、ありがと」


 私は雫に色々な意味でお礼をした。


「……なんの事?」


 クールに返してくる彼女。だけど少しだけ顔が赤らんでいたのは気のせいだろうか……

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