─黄金の半龍人はかく語れり(1)─ 金の冠の王様と、彼の忠実な騎士
いつかの時代、どこかの世界。
黄金色の宝の山を持つ小さな国に、若い王様がおりました。
「俺は父上のような、国の皆に好かれる王になるぞ。それまでは、決して金の冠を身につけぬ」
自分で決めた約束を守ろうと、王様は頑張ります。
しかし、王様は国を譲ってもらったばかり。
父上のように、上手にみんなの心を動かすことができません。
頑固者の騎士団長と魔導師は、協力して更に良い国を作ろう、という王様の呼びかけに、なかなか応じようとしませんでした。
若い王様や、王様がなさることを嫌いなわけではありません。
頑固な騎士と頑固な魔導師は互いに競争をしていたのです──昔は仲が良かったのに、できなくなってしまったのです。
「困ったことだ。あまりに彼らの心が動かないならば、俺が一計、案ずるよりあるまい」
王様は、知恵を絞って考えました。
『貧しい人のために働く』という盗人どもに協力させ、頑固な騎士と魔導師を和解させたのです。
頑固者たちは、国のことをよくよく考えて、新しい騎士団を作るよう王様に申し上げました。
「うむ、よい考えだ。ならば、どういう騎士を集めれば良いだろうか?」
王様はご自分があまり賢くないと思っていらっしゃいましたから、ご家臣に相談をなさいました。
この家臣はまごうことなく美しき乙女でありながら、騎士団の誰よりも王様を敬い、尽くしておりましたから、王様の最も近くにお仕えする騎士でありました。
「王様、わたしに良き考えがございます」
騎士は謀略について何をも語ろうとはしませんでしたが、王様はお許しを与えました。
「謀略が上手く行けば、お前に褒美をとらす」と仰いました。
賢い家臣にお暇をお与えになると、王様はお国の内や外から、歳若く、しかも腕利きの者らを集められました。
「よいか。俺ひとりでは、俺の愛する国を守ることなどできない。君たちは常に、思いもよらない事件に備えてくれなければならないぞ」
と仰った王様は、すばらしい先生を呼んで、若い騎士たちに、さらなる武術や勉強をさせました。
どれほど時が過ぎた頃でしょうか。
黄金色の宝の山を持つ小さな国の小さなお城に、真っ黒な衣や鎧をまとった、おそろしい兵隊たちが攻めて来ました。
王様は自ら剣をとって戦いました。
ですが、おそろしい異形の兵隊は少しも退きませんでした。
小さな国を守る貴族や騎士を、次々と打ち倒してゆきます。
そうすれば、この王様がどうすることも出来なくなることを、知っているかのようでした。
「愚かな王に機会を与えよう!」
おそろしい兵隊を束ねる長が、整えた髭に触れながら、王様に言いました。
金の冠をかぶってもいないのに、小さな町の王様にでもなったかのよう。
これは、王様の父上にお仕えしていた家臣の一人でありましたが、自分が落ちぶれたのを王様と父上のせいにして、若い王様に剣を向けた男です。
「私を憎く思うのならば、この敗北に感謝せよ──わが配下に打ちひしがれた者をよく助け、共に再び立ち、私を打倒するが良い! そうすれば若き王よ、貴君はこの国の民の信頼を一手で勝ち取る事ができよう!」
これぞ、一度でも敬愛する王たちを恨んでしまった者なりの忠心である。
そう言い残して、おそろしい兵隊の長は、自らの屋敷に戻ってゆきました。
「俺を何だと思っているのだ、あの大男め」
王様に泣いている時間など有りません。おろかな忠臣の言った通りに、彼らと戦うとお決めになります。
騎士たちを励まし、勇気づけます。
王様は、もう、あの賢い近衛騎士がどういう謀略をしたのか、わかっていました。
闘いの用意がすっかり整うと、王様はきらびやかな武具に身を包んだ騎士たちの、先頭に、自ら白馬に乗ってお立ちあそばしました。
「どの人をも殺さず、ただ一人とて残さず救ってみせる。お前がそうせよと言うならば」
王様は槍を奮い、彼の信ずる騎士たちと共に、勇ましく戦いました。
黒い衣の兵隊を退けるたびに自らの陣地へ届けさせ、お誓いの通り、一人の命も取り上げぬまま戦をなさいます。
かなしくも激しい決意を秘めて立ち向かう、かつての忠臣を、見事に打ち倒し、狂気と暗闇の淵から救い出されました。
おろかな忠臣のもくろみ通り、若い王様は、お国の人々の信頼を勝ち取る事ができました。
金の冠をいただくにはまだふさわしくないとお考えでしたが──ひそかに"せねばならぬ"とお決めになったことに、勇んで取り掛かられました。
それは、あの、黒い衣をまとった、美しい騎士のことです。
「謀略とやら、確かに見せてもらった。大変にご苦労であった」
再び姿を現して御前に跪く賢い騎士に、王様がお告げになります。
「褒美をとらす。近衛騎士の職を解く、自由の身となれ。そして」
そうして、王様は黒い衣の騎士を、何も言わせず、一息に抱え上げてしまいます。
「いつか、もっと先でも構わぬ。俺の妻となってくれるか」
黒い衣の賢い騎士がどう返事をしたか──改めて語るほどのことではございますまい。
2021/6/10投稿。
2021/6/11タイトル変更。